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『猛暑に気をつける病その(1)~真夏の夜の悪夢~』 |
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K・Sさん(女性)/55歳(発症当時) |
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無職 |
就寝中に襲われる強い尿意のせいで一晩に何度も目を覚まし、昼間の寝不足状態に悩んでいたK・Sさん。友人から「それなら水分を控えればいい」と聞いた彼女は、早速、その夜から寝る前の水分を極力控えるように。すると、夜中のトイレの回数が減り、睡眠不足からも解放されました。それから半年後の夏、水分を控えていることに加え、汗をかくことで頻尿には殆ど悩まされなくなっていたK・Sさん。クーラーは寝入りばなの1時間だけと決め、朝は汗びっしょりで目覚めていました。ところが、ある朝、起き上がって歩き出した時、なぜか左腕がしびれて力が入らなくなり、その後も足がもつれて上手く歩けないなどの症状に襲われるようになります。 |
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(1)左腕のしびれ
(2)足がもつれる
(3)意識障害 |
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血行力学性脳梗塞 |
<なぜ、就寝中の水分不足から血行力学性脳梗塞に?> |
「血行力学性脳梗塞」とは、いわゆる脳梗塞の一種。動脈硬化を起こし狭くなった脳の血管内で、血栓が詰まっていないにも関わらず血流が途絶え、細胞が壊死してしまう恐ろしい病です。そしてこれこそが夏の猛暑の時期、最も気をつけなければならない脳梗塞なのです。一体、なぜなのでしょうか?その謎を解くキーワードが脱水症状。通常、私たちは1日650~850mlの水分を息や汗とともに身体の外に排出しています。しかし夏はこの量が激増。冬に比べ2~3倍もの水分が、失われると考えられています。にもかかわらずK・Sさんは、熱帯夜だというのに寝入りばなしかクーラーを入れなかったため、寝汗によって大量の水分を失ってしまったのです。その結果、彼女の血液中では恐ろしいことが進行していきました。そもそも、汗の元は血液の水分。汗をかけばかくほど血液中の水分は減り、血液はドロドロの状態に。さらにK・Sさんは、常々決定的な過ちを犯していました。それは、夜中トイレに起きないよう、寝る前の水分補給を控えたこと。その結果、血液の濃縮にいっそう拍車がかかってしまったのです。そして、夏一番の熱帯夜を記録した運命の朝。動脈硬化で狭まっていた彼女の脳の血管内は、極度にドロドロになった血液がかろうじて流れている状態でした。そんな危うい状態で、慌てて立ち上がったK・Sさん。通常、起き上がったとき、脳を流れる血液の量は一時的に減少しますが、すぐに回復します。ところがK・Sさんの場合、血液の濃縮が進んでいたため、血液が脳にいく圧力を維持できませんでした。その結果、就寝中はかろうじて維持されていた脳の血流が完全にストップ。脳梗塞を引き起こしてしまったのです。このように朝、起き上がったときに決定的な事態を招くことが多いのが、この病の最大の特徴。まさに真夏の夜、いいえ、真夏の朝の悪夢なのです。その後、懸命の治療で命をとりとめたK・Sさん。再び充実した日々を取り戻すことが出来ました。 |