診察室
診察日:2007年9月11日
テーマ:爪でわかる恐ろしい病スペシャル
「本当は怖い爪の筋〜漆黒の落とし穴〜」
「本当は怖い爪の周囲の赤み〜赤い悪魔のささやき〜」

『本当は怖い爪の筋〜漆黒の落とし穴〜』

Y・Sさん(男性)/56歳 サラリーマン
広告会社の営業部長、Y・Sさんは、宴会の余興にと始めた手品が今では生き甲斐に。日頃から爪の手入れに余念がありませんでしたが、ある日、足の親指の爪に細くて黒い筋のようなものができていることに気付きます。1年後、爪の筋が黒く太くなってきていることを発見したY・Sさん。さらに1年が過ぎた頃、身体が異常にだるいなどの異変を感じ始めました。
(1)爪に細く黒い筋
(2)爪の筋がさらに黒く太くなる
(3)異常にだるい
(4)爪全体が黒くなる
メラノーマ
<なぜ、爪の筋からメラノーマに?>
「メラノーマ」とは皮膚ガンの一種で、メラニン色素を作る細胞、「メラノサイト」が悪性化する病。ガンの中でも最も転移しやすく、短期間で全身に広がる恐ろしい病気です。日本では、年間1500人から2000人が発症。転移すると、90%が5年以内に死に至るといわれているのです。体のどこにでも発症するメラノーマですが、特に多いのが足で、全体のおよそ3割を占めています。その中でも、最もできやすいのが、足の親指なのです。原因ははっきりとわかっていませんが、足の爪にできる場合は、何らかの「刺激」がその一因ではないかと考えられています。ではこの病、早期発見のチャンスはないのでしょうか?Y・Sさんの場合、最初にメラノーマができたのは、親指の爪の根元にある爪を作り出す部分。しかし、それは見えない所にできるため、発見することは非常に困難です。多くの人がそれに気付くのは、さらに成長し、うす黒い筋となって爪にあらわれた時。これこそが早期発見のポイント。Y・Sさんが気付いたのも、まさにこの時でした。この段階で病院に行っていれば、完治する可能性があったかもしれません。しかしY・Sさんは、たいしたことはないと放っておいてしまいました。その結果、メラノーマは着実に増殖。爪全体が黒くなり、ついには、ガン細胞が全身を駆け巡り、手の施しようがない状態にまでなってしまったのです。爪に黒い筋ができるのはメラノーマに限ったことではありません。Y・Sさんが勘違いしたように、打撲などでも黒い筋となって残ることがあります。では、どのように見分ければよいのでしょうか?単なる出血による黒い筋は、爪が伸びるに従って移動し、しばらくすると消えてしまいます。ところがメラノーマの場合は、ガン細胞が増殖し、黒い色素が多量に作られて爪に取り込まれるため、長さが伸び、幅も広くなるのです。さらにもう一つ、メラノーマと間違えやすいものがあります。それは生まれながらの黒い筋。この場合は単なる色素沈着なので特に問題はありません。大人になって、もし成長する黒い筋を見つけたら、すぐに病院で検査を受けることをお勧めします。メラノーマは、早期発見さえすれば、治る可能性のある病なのです。
『本当は怖い爪の周囲の赤み〜赤い悪魔のささやき〜』
Y・Yさん(女性)/49歳 花屋経営
10年前の離婚を機に小さな花屋を開き、女手一つで子供を育ててきたY・Yさん。店の仕事や家事に追われ、身体を休める暇のない毎日を送っていました。そんなある日、洗い物をしていると、手の爪の周囲がほんのり赤みがかっていることに気付きました。その後、いつもは平気で持ち上げていた鉢植えをなぜか重く感じたY・Yさん。さらに、奇妙な異変が続きました。
(1)爪の周囲が赤い
(2)倦怠感
(3)肘が帯状に赤くなる
(4)朝、体が起こせない
(5)足の爪の周囲にも赤み
子宮体ガン(皮膚筋炎により発見)
<なぜ、爪の周囲の赤みから子宮体ガンに?>
「子宮体ガン」とは、子宮体部の細胞にできるガンのこと。進行すると子宮の全摘出、更には死に至ることもある恐ろしい病です。子宮ガンの3割程度を占めていて、今、日本の女性が最も気を付けなければならない病気の一つです。その特徴的な症状は、月経以外の「不正出血」や「おりもの」、「排尿時の痛み」など。しかしY・Yさんの場合、これらの症状は一切ありませんでした。彼女のガンは、その前段階にあたる、ごく初期のガンだったのです。子宮ガンの中でも発見しにくいといわれる子宮体ガン。それを早期発見できたのは、Y・Yさんを襲った様々な症状でした。あの爪の周囲に現れた、赤み。さらには倦怠感や肘にできた赤い帯。しかし、これらは子宮体ガンの症状ではありません。全て皮膚筋炎と言われる病の代表的な症状だったのです。「皮膚筋炎」とは、原因は定かではありませんが、免疫機能の異常で起きる膠原病(こうげんびょう)の一種。体全体の筋肉に炎症が起き、筋力が低下する病です。この病気は単独で発症することもありますが、Y・Yさんのような子宮体ガンや、日本人に多いガンと合併して発症することで知られているのです。そして不思議なことに、ガンが治ると、皮膚筋炎も治まってしまいます。そう、子宮体ガンに冒されたY・Yさんを救ったのは、併発した皮膚筋炎の症状だったのです。では、手荒れなど指の赤みと、皮膚筋炎からおこる指の赤みの違いは、どこにあるのでしょうか?その決定的な違いは、皮膚筋炎の場合、両手の10本の指はおろか、足の指の周囲まで赤くなること。つまり、20本同時に赤くなるのが特徴。もし、指の爪の周りにこの症状が出たら、皮膚科で受診することをお勧めします。内臓に悪性の腫瘍ができているかもしれないのです。幸いにも、皮膚筋炎のお陰で早期にガンを発見できたY・Yさんは、抗ガン剤と放射線による治療で完治。現在では、すっかり健康を取り戻し、元気に働いています。