診察室
診察日:2007年11月13日
テーマ:「本当は怖い便秘と寝言〜閉ざされた想い〜」
「パーキンソン病の最新治療」

『本当は怖い便秘と寝言〜閉ざされた想い〜』

A・Eさん(女性)/62歳 会社員
還暦を過ぎてから、老後の楽しみにと俳句を始めたA・Eさん。新しい友人も増え、充実した毎日を送っていましたが、ある日、この2、3日お通じがないことに気付きます。数日後、夜中にうなされるような寝言を言っていたと夫から聞かされたA・Eさん。便秘も寝言もよくあることと特に気にしていませんでしたが、その2つの症状こそ、深刻な病の重要なサインでした。 その後も様々な異変が続いたのです。
(1)便秘
(2)寝言
(3)指の震え
(4)手の震え
(5)震えが止まらない
(6)バランスが取れない
パーキンソン病
<なぜ、便秘と寝言からパーキンソン病に?>
「パーキンソン病」とは、脳内の神経伝達物質ドーパミンが異常に減少し、運動機能に障害が起きてしまう病。自分の意思で体をコントロールできなくなり、症状が進行すると、歩けなくなったり、寝たきりになる事もある深刻な病です。現在、パーキンソン病は、厚生労働省が認可している難病の一つ。国内の患者数はおよそ15万人。50代以上での発症が多く見られ、65歳以上に限ると、100人に1人がこの病にかかっていると言われています。パーキンソン病の最も典型的な初期症状は、A・Eさんにも現れた、指や手の震え。実はこの震え方こそ、パーキンソン病の最大の特徴なのです。パーキンソン病の初期段階では、震えは安静時のみに起こりますが、何か作業を始めると震えは止まってしまいます。そのため、大した事はないと放って置く人が多いのです。しかし、その間も症状は進行。次第に手の震えが止まらなくなってしまい、さらには足にまで運動障害を引き起こし、彼女の様に階段から落ちて骨折するなどの事故を招いてしまう事もあるのです。では、この難病は、身体の震えでしか気付くことはできないのでしょうか?実は最近の研究で、パーキンソン病には、その前触れとなる前駆症状がある事が明らかとなってきました。それがA・Eさんを悩ませた、あの便秘と、うなされるような寝言です。パーキンソン病は、ドーパミンが減少する前に、まず脳幹という部分の下の辺りに、何らかの異変が起きると言われています。すると、脳幹にある排便や睡眠を調節する神経に障害が起き、便秘や寝言が出ると考えられているのです。便秘や寝言といった症状がある人に、もし震えが起き始めたら、パーキンソン病を疑うことが大切なのです。パーキンソン病は、未だに完治の方法が見つかっていない病。しかし、早期に発見し、的確な治療を受ければ、薬によって震えなどの症状を抑える事は可能なのです。
『パーキンソン病の最新治療』
T・Kさん(女性)/48歳
15年前にパーキンソン病を発病し、足の震えと手のこわばりなどに苦しめられてきたT・Kさん。薬による治療を続けたものの、次第に薬の効果が薄れてきて、日常生活に支障をきたすようになってきたのです。このまま、どんどん病気が進行していくのか・・・と絶望の淵に立っていたのですが、1年前、片山容一教授が行なうパーキンソン病の最新治療法・DBS手術のことを知ったT・Kさん。今回手術を受ける決心をして、日本大学医学部付属板橋病院を訪れました。
(1)足の震え
(2)手のこわばり
パーキンソン病 ⇒ DBS手術を受ける
<パーキンソン病の最新治療「DBS手術」とは?>
T・Kさんの治療にあたるのは、パーキンソン病の最新治療のスペシャリスト、日本大学医学部脳神経外科の片山容一教授。これまでに700名以上のパーキンソン病の患者さん達を、その震えの苦しみから救ってきました。そんな片山先生が行う「DBS手術」とは、脳の視床下核と呼ばれる部分に細い電極を埋め込み、電気信号を送る事で、運動異常をコントロールする手術法。脳に埋め込まれる電極は頭の2ヶ所から挿入され、胸に埋め込んだパルス発生器から、電流が流れる仕組みになっています。この発生器は、電池を5年ごとに交換すれば、半永久的に効果が持続するのです。T・Kさんの手術は、2007年9月27日午前9時15分に開始。DBS手術は、患者さんにも震えの状態を確認してもらいながら手術が進行するので、麻酔は頭部の局所麻酔だけで行なわれます。まずは、フレームと呼ばれる器具を頭に装着し、固定します。続いて頭部の左右に開けた穴から、仮の3本の電極を挿入。目標は、わずか8ミリの大きさの視床下核。そこから発生する微量の電気信号を電極から読み取り、神経細胞の活動を確認します。この活動の最も活発なポイントが震えを止めるポイントになるのです。次にその最良のポイントに脳深部刺激電極を挿入し、電気を流します。最後に電気の発生器を両側の胸に埋め込みます。午後5時20分、9時間に及ぶ大手術が終了しました。手術から4日後。ひどい震えから開放され、元気になったT・Kさん。表情も、手術前とは見違える程明るくなりました。パーキソン病の最新治療「DBS手術」。医師たちの努力と最新の技術が、T・Kさんを苦しみから解放してくれたのです。