診察室
診察日:2007年12月11日
テーマ:「本当は怖いダイエット〜悪魔の覚醒〜」
「本当は怖い薬の飲み方〜進化する悪魔〜」

『本当は怖いダイエット〜悪魔の覚醒〜』

T・Sさん(女性)/28歳 会社員
大手化粧品メーカーで働くT・Sさんは、入社6年でチームリーダーになったキャリアウーマン。しかし、仕事に熱中するあまり2年間も彼氏がなく、なんとか20代でゴールインするのを目標にしていました。そんな中、外資系のエリートサラリーマンとの合コンを1ヵ月後に控え、ダイエットを始めたところ、右の鎖骨の辺りに小さなしこりがあることに気付いたT・Sさん。その後も様々な異変が彼女に襲いかかりました。
(1)首のしこり
(2)寝汗
(3)微熱
(4)しこりが赤く腫れる
(5)頭痛
(6)嘔吐
結核性リンパ節炎⇒結核性髄膜炎(けっかくせいずいまくえん)
<なぜ、ダイエットから結核性髄膜炎に?>
「結核性髄膜炎」とは、結核菌への感染が原因で、脳の髄膜が炎症を起こす病のこと。あっという間に症状が進行し、最悪の場合、死に至る恐ろしい病です。実はT・Sさんも、人ごみなどで結核菌に感染し、保有していたのです。結核は、日本最大の伝染病。年々、減少してはいるものの、今なお毎年2万6千人もの新しい患者が、結核を発病。さらに発病していなくとも、感染している人の数となると、推定で2500万人以上に達するとも言われています。かつては年間10万人が死亡していたこの病も、薬の発達や栄養状態の改善によって、発病にまで至る人は着実に減り続けてきました。では、そんな状況の中、なぜT・Sさんは、結核を発病してしまったのでしょうか?そもそも、結核菌は鼻から侵入し、肺の奥深くにある肺胞にまで到達します。健康な人の場合、ここで免疫細胞がいっせいに集まり、結核菌を取り囲んで封じ込めてしまいます。ところが彼女の場合、あることが原因で免疫力が低下していたために、結核菌を増殖させてしまったのです。その原因が・・・あの偏ったダイエット。彼女のように偏った食生活を続けていると、栄養状態が悪化し全身の免疫力が極端に低下。結核を発病してしまうことがあるのです。事実、結核の専門機関である結核予防会も、極端なダイエットは、結核を発病しやすくする危険な条件の一つとして警告しています。T・Sさんの場合も、免疫力の低下に伴い、免疫細胞の殺菌力も低下。結核菌は次々と増殖し、ついには免疫細胞を破壊。そして増殖した結核菌が、再び免疫細胞に取り囲まれ移動。肺から鎖骨の上のリンパ節まできたと考えられます。ここでも結核菌は、次々と増殖し、ついに結核を発病してしまったのです。T・Sさんに現れたあの首のしこりこそ、リンパ節に侵入した結核菌が増殖していたサインでした。これが「結核性リンパ節炎」と呼ばれるもの。原因はわかっていませんが、結核の中でも特に若い女性に多い病なのです。しかしT・Sさんは、そんなこととは知らず、首のシコリをそのまま放置し、無理なダイエットを続けてしまいました。そのためリンパ節の中で、結核菌が一層増殖。赤く腫れるまでになってしまったのです。それでも病院を訪れることなく、偏ったダイエットを続けてしまったT・Sさん。その後、増殖した大量の結核菌は、血流に乗って脳の髄膜にまで到達。ついに、髄膜炎を発症してしまったのです。
『本当は怖い薬の飲み方〜進化する悪魔〜』
T・Kさん(男性)/65歳 アルバイト
定年退職後、近所の駐車場で夜勤のアルバイトを始めたT・Kさん。ある朝、乾いた咳と微熱が出た彼は、2週間経っても症状が治まらないため病院を訪ねたところ、結核と診断されました。幸い軽い症状だったため、入院の必要はなく外来で投薬治療を始めたT・Kさん。しかし、一日に飲む薬の量が膨大な上、最低でも6ヵ月間服用し続けなければなりませんでした。それでも当初は薬をきちんと飲み続けたT・Kさんでしたが、2ヵ月後、症状が軽快すると、次第に薬を飲まなくなり、病院からも遠ざかってしまいました。
(1)乾いた咳
(2)微熱
(3)咳
多剤耐性結核(たざいたいせいけっかく)
<なぜ、いい加減な薬の飲み方から多剤耐性結核に?>
「多剤耐性結核」とは、結核患者が薬を飲まなくなることや、副作用で薬が飲めなくなることなどで起こる危険な肺結核。結核治療に使われる薬のうち、最も効果の強い薬2種類が、全く効かなくなってしまう病なのです。治療する手立てがなくなってしまったT・Kさんは、入院から2年後、帰らぬ人となりました。いくつか、薬の効くケースもあるものの、生存率は10年間で約60%。半数近くの人が死に至るのです。全ての原因は、薬の中途半端な服用。そもそも結核菌は、病巣に1億個ほど存在し、その全てを殺さなければ完治はしません。ところが、処方された薬を全て飲まなかったり、副作用で薬が飲めなくなったりすると、菌は生き残ってしまうばかりか、逆に薬に対して抵抗性を持った菌へと変身。それまで効いていた薬が効かない、新たな結核菌になってしまうのです。これこそ、恐怖の「多剤耐性結核菌」。こうした菌を生み出さないためには、薬が効く段階、つまり最初に結核と診断されたときに、最後まできちんと飲み続けることが大切なのです。