診察日:2008年2月5日
テーマ:
「本当は怖い元気のよさ〜背後に広がる闇〜」
『本当は怖い元気のよさ〜背後に広がる闇〜』
I・Mさん(女性)/48歳
主婦
主婦として家事を完璧にこなしながら、娘の学校のPTAの役員も務めていたI・Mさん。前向きな性格の彼女は、地域のボランティアが人手不足と聞けば、翌朝から参加。頼られるうちが花と自ら進んで用事を増やしていましたが、ある日、PTAのプリント作りで徹夜をしてしまいます。それにも関わらず、翌日、眠くも辛くもなく、すこぶる調子がいいことに気付いたI・Mさん。徹夜明けでテンションが上がっただけと思っていましたが、やがて次々と奇妙な行動をするようになります。
(1)徹夜明けなのにとても調子がいい
(2)衝動的に大量の買い物をする
(3)衝動的に深夜に電話をする
(4)早朝に目が覚める
(5)食欲不振
(6)ひどい倦怠感
双極性うつ病
<なぜ、元気のよさから双極性うつ病に?>
「双極性うつ病」とは、いつも元気に見える人が何らかの原因で憂うつな気分になり、社会生活に支障を来たす心の病。現在、推定患者数は20万人以上。近年、うつ病と診断されている患者の5人に1人が、実はこの病ではないかと考えられています。I・Mさんがこの病に襲われてしまった最大の要因は、彼女の性格にありました。「明るく元気で社交的」、「失敗してもくよくよしない」というI・Mさん。こうした性格の持ち主は『高揚気質』と呼ばれ、実は最も双極性うつ病にかかりやすいタイプなのです。そもそも高揚気質の人は、自分の体力や気力に自信があるため、次々と仕事を安請け合いしてしまう傾向にあります。つまり、この安請け合いによるオーバーワークが、I・Mさんの脳に過剰なストレスをかけ続け、神経伝達物質が不安定になったことで、病を発症したと考えられるのです。では、双極性うつ病、通常のうつ病と一体どこが違うのでしょうか?例えば、通常のうつ病の場合、ストレスを受けると、気分が塞ぎこんで、病を発症します。ところが、双極性うつ病の場合は、ストレスを受けると、まず気分が高揚。そして更なるストレスがかかった時、今度は気分が塞ぎこんでいきます。そう、これはいわゆる躁(そう)うつ病の一種なのです。I・Mさんの場合、元々高揚気質の持ち主のため、普段から気分がハイの状態で保たれていました。発病のきっかけとなったのは、プリント作成のための徹夜作業。この徹夜によって、ストレスが彼女の許容範囲を突破。この病の最初にして最大のポイントである、あの「軽躁(けいそう)状態」となってしまったのです。徹夜明けなのにとても調子がいい、衝動的に大量の買い物をする、衝動的に深夜に電話するなどの症状は、すべて「軽躁状態」になっていたための行動。しかし軽躁状態はやがて自然に終息。でも実はこれこそ、双極性うつ病の最大の罠。軽躁状態が消えた後、普通の状態が長く続くため、病に気付きにくいのです。この段階で大きなストレスを受けなければ、特に異変は生じません。しかし、I・Mさんの場合、症状が落ち着いた1年後に、PTA会長という大役をまたも安請け合いしてしまいました。その結果、ストレスが再び許容範囲を突破し、ついに、「重いうつ」のスイッチが入ってしまったのです。従来、うつ病は、「真面目で責任感が強く」「神経質でくよくよ考える」といった性格の人がかかりやすいと考えられていました。ところが双極性うつ病は、これと正反対の性格の人が陥りやすい病なのです。