診察室
診察日:2008年7月15日
テーマ:「本当は怖いおでこのしわ〜閉ざされる魔の扉〜」
「本当は怖い小さな文字の見えにくさ〜忍び寄る仄暗い闇〜」

「本当は怖いおでこのしわ〜閉ざされる魔の扉〜」

K・Aさん(女性)/53歳(発症当時) 専業主婦
美容に関するブログを始め、毎日4〜5時間はパソコンに向かっていた主婦のK・Aさん。ある日、夫から“おでこのしわ”が深くなっていることを指摘され、以来しわが隠れるように様々な努力をしていました。そんな中、20年ぶりの高校の同窓会を知らせる葉書を受け取ったK・Aさん。学校一の美人と噂された輝かしい青春時代が蘇りますが、その数日後、ひどい肩こりや頭痛を感じるように。その後も更なる異変が続きました。
(1)おでこのしわ
(2)肩こり
(3)頭痛
(4)視野が狭くなる
(5)眠たそうな目
(6)まぶたが重く開けづらい
眼瞼下垂(がんけんかすい)
<なぜ、おでこのしわから眼瞼下垂に?>
「眼瞼下垂」とは、ある事が原因でまぶたをあげる力が弱まり、眼が開きにくくなる病。最悪の場合、視野を失ってしまうこともあります。この病の診断基準の一つは目の瞳孔から上まぶたまでの距離が3.5ミリ未満ということ。最近、注目を集めているこの眼瞼下垂。事実、形成外科にやってくる患者が急増しているのです。ではなぜ、まぶたが下がってしまうのでしょうか?そもそも私たちが目を開いたままでいられるのは、眼球の奥にある筋肉が、まぶたの内側にある腱膜と呼ばれる筋を引っぱりあげているからです。ところが、病を発症すると腱膜が伸びきり、まぶたを上げた状態を維持できなくなります。その結果、まぶたが下がってしまうのです。このまぶたをあげる力が衰える大きな原因の一つは加齢です。そのため、誰でも年を取れば、ある程度はまぶたが下がってくるもの。しかし、K・Aさんの場合、原因は加齢だけではありませんでした。それは長時間の作業による目の酷使。必要以上の負担が、腱膜の疲労を進め、まぶたをあげる力を弱めたのです。しかし、事はまぶただけの問題では終わりません。この病は目以外にも様々な症状を引き起こすのです。それがK・Aさんを悩ませた数々の症状。まず、衰えてしまった腱膜の代わりに、おでこの筋肉を使ってまぶたをあげていたため、あの深いしわができ、今度は頭全体を覆っている筋肉の疲労から頭痛、さらには肩こりまでも引き起こしたと考えられるのです。これらの不定愁訴(ふていしゅうそ)の原因は、まぶたをあげる力に関係している事が多いのです。そして、この病の最も恐ろしいところは、弱まったまぶたの力は二度と元には戻らないということ。唯一の方法は形成外科での手術。結果として肩こりや頭痛まで改善できる場合もあるのです。思い当たることがあれば、形成外科医や眼科医などの専門医に早めに診てもらうことが重要です。
「本当は怖い小さな文字の見えにくさ〜忍び寄る仄暗い闇〜」
N・Nさん(男性)/59歳(発症当時) 銀行員
今から8年前、銀行の中間管理職として細かい数字が並ぶ書類と格闘する毎日を送っていたN・Nさん。ある日、書類を目で追っているとピントが合わず、小さな文字を見えにくく感じました。それ以来、たまに見えづらいことはあったものの、昼でもデスクの蛍光灯をつけるなどの工夫でその場をしのいでいたN・Nさん。その後も、様々な異変が現れます。
(1)小さな文字が見えにくい
(2)目の前の物に気付かない
(3)よくぶつかるようになる
(4)動いている物が見えにくい
原発開放隅角緑内障(げんぱつかいほうぐうかくりょくないしょう)
<なぜ、小さい文字の見えづらさから原発開放隅角緑内障に?>
「原発開放隅角緑内障」とは緑内障の一種で、目の圧力が上がる事で視神経が傷つき、徐々に視野が狭くなっていく病。最悪の場合、失明してしまう事もあります。では、なぜこの病に冒されてしまうのでしょうか?そもそも目は、房水という水分によって、その形を保つために一定の圧力を維持しています。そして、この房水は線維柱帯と呼ばれる、はけ口を通って血管に排出されていきます。しかし、線維柱帯が何らかの原因で目詰まりを起こすと房水は排出されづらくなり、眼の圧力が徐々に上昇。その事で、視神経が圧迫され、傷ついてしまいます。すると、視野が徐々に欠けてしまうのです。しかし、実際の患者の目からは欠けているような見え方をしている訳ではありません。N・Nさんがコップを落とした時、コップだけがあたかも存在していないように見えていました。緑内障患者は、無意識に両目で視野を補い合っているので、全体像がちゃんと見えているように感じます。実際は、視野が欠けている部分を認識できず、そこだけ何も存在していないように見えるのです。そしてN・Nさんの場合、症状はさらに進行。動いているボールが視野の欠けている部分に入ったため、あたかも消えたように見えました。この瞬間、初めて見えている部分と見えていない部分があるという事に気が付いたのです。2006年、厚生労働省が発表した日本での失明原因の第1位は、緑内障。その中でも現在急増しているのが、この「原発開放隅角緑内障」です。家族に緑内障の患者がいる近視などの人は、リスクが高いと言われていますが、現在のところ、はっきりとした原因は分かっていません。だからこそ定期的な目の検診で、早期発見をするのが何より重要なのです。