診察室
診察日:2008年8月26日
テーマ:「本当は怖い酔っ払ってそのまま寝ること〜撒き散らされた恐怖〜」

「本当は怖い酔っ払ってそのまま寝ること〜撒き散らされた恐怖〜」

T・Yさん(男性)/45歳 会社員
中堅商社に勤めるT・Yさんは、家では典型的なぐーたらパパ。ゴルフでストレスを解消し、帰宅しては、酔っ払って風呂にも入らず、そのまま寝てしまうことがしばしばでした。そんなある日、脇の下にかゆみを感じて見てみると、赤いブツブツが出来ていたT・Yさん。何かにかぶれたんだろうと特に気にも留めていませんでしたが、発疹は広がり続けました。
(1)発疹
(2)発疹が広がる
(3)さらに発疹が広がる
体部白癬(たいぶはくせん)
<なぜ、発疹から体部白癬に?>
体部白癬とは、カビの一種である白癬菌に感染、皮膚の炎症や、痒みをもたらす病のこと。その患者数は、全国で約300万人に達するといわれています。では、なぜT・Yさんは、感染してしまったのでしょうか?全ての元凶は、知らないうちに彼の足に出来ていた水虫にありました。そもそも水虫とは、白癬菌が足や爪に感染して起こる病のこと。そう、水虫と体部白癬は菌も感染の仕組みも全く同じなのです。患者数、約2500万人。実に、5人に1人が水虫だと言われる水虫大国、日本。そんな環境のもと、T・Yさんはあのゴルフ場のバスマットで、まずは水虫に感染したと考えられます。でも、自分では足にかゆみなどの自覚症状が無かったため、水虫だと気づくことはありませんでした。実は水虫患者のうち、痒みがあると答えた人は、わずか10%。なんと9割が、痒みを自覚していないのです。これが、水虫の落し穴。水虫には様々なタイプがありますが、例えば足の裏が乾燥して白くなるタイプや、爪が白く厚くなり、やがてボロボロになる爪白癬などは、痒みを全く感じません。T・Yさんの場合もそうでした。結果、彼の足からは、垢とともに、白癬菌がボロボロとこぼれ落ち、家中にバラ撒かれてしまいました。この垢には、白癬菌の栄養分であるケラチンが含まれているため、数ヵ月以上も生き続けるのです。こうして、静かにチャンスを待ち続けていたカーペットの白癬菌は、寝転んだT・Yさんの脇の下に付着。でも白癬菌は、通常なら24時間以内に除去すれば、皮膚に感染することはありません。T・Yさんも、あの時お風呂に入っていれば、菌を洗い流すことができたのですが、酔っ払って寝てしまったため、脇の下の皮膚の角質層に菌が侵入し、体部白癬を発症。赤いブツブツが出来てしまったのです。そして、T・Yさんは、さらなる過ちを犯してしまいます。それは、体部白癬の治療に、ステロイドの入った痒み止めを使ってしまったこと。通常の湿疹ならば、過剰に反応した免疫物質をステロイドで抑制し、炎症を抑えることができますが、体部白癬の場合、ステロイドで免疫力を弱めてしまうと、逆に白癬菌の増殖を手助けする結果に。こうして、T・Yさんはより症状を悪化させてしまったのです。しかし、悲劇はこれだけではありませんでした。そう、家族への感染です。長い間水虫を放っておいたことで、白癬菌が家中にばら撒かれ、妻や娘までもが水虫になってしまったのです。その後なんとか、水虫も体部白癬も完治することができたT・Yさん。今や、家族の手前、ぐうたら生活返上の毎日です。