診察室
診察日:2008年9月30日
間違った薬の飲み方&芸能人症例3時間スペシャル 
テーマ: 『芸能人症例〜中尾彬さんの場合〜』
『間違った薬の飲み方<1>〜高すぎる代償〜』
『間違った薬の飲み方<2>〜大量飲酒の罠〜』
『間違った薬の飲み方<3>〜飲み合わせの悲劇〜』

『芸能人症例〜中尾彬さんの場合〜』

中尾彬さん(男性)/64歳(発症当時) 俳優
昨年の春、仕事先の大阪で倒れ緊急入院、医師から生存率20%と告げられ死の淵をさまよった中尾彬さん。若い頃スポーツで鍛えた体には自信を持ち、常に健康だと思い込んでいた彼は、グルメ、酒豪、ヘビースモーカーの日々を送りながら、注射嫌いもあって病院に行ったことがありませんでした。そんな中尾さんに最初の異変が襲ったのは、2007年3月27日の夜。体がだるく、熱っぽい。いわゆる風邪の症状を感じました。風邪ぐらい寝れば治るだろうと思っていた中尾彬さん。しかし、翌朝になると症状はより悪化し、その後も様々な異変が続きました。
(1)風邪
(2)足がふらつく
(3)手がふるえる
(4)身体が動かない
横紋筋融解症(おうもんきんゆうかいしょう)
<なぜ、風邪から横紋筋融解症に?
「横紋筋融解症」とは、骨格の周りについた横紋筋という筋肉の細胞が、何らかの原因でダメージを与えられ、壊死していく病。すると、普段は筋肉の中で酸素を蓄えているミオグロビンが溶け出し、血液中に流出。そのミオグロビンが腎臓に目詰まりを起こし、腎機能が低下。毒素を排出できなくなり、最悪の場合、多臓器不全を引き起こし、死に至ることもあるのです。中尾さんもまさに多臓器不全に陥り、生死にかかわる状態でした。 では、なぜ中尾さんはこの病気になってしまったのでしょうか?その原因こそ・・・過度の「ストレス」。妻の病や義母の死で精神的なストレスが蓄積していた中尾さん。さらに、看病のための東京・沖縄の往復、64歳という年齢、大量の飲酒や喫煙などの生活習慣といった肉体的なストレスも溜めていました。実はこうしたストレスが、中尾さんの免疫力を大きく低下させていたのです。 その結果、体調を崩し、風邪をひいてしまった中尾さん。そう、きっかけは単なる風邪に過ぎませんでした。この時病院に行けば、悪化することはなかったはず。しかし、病院嫌いの中尾さんは薬を飲んだだけで京都ロケを敢行。それがたたり中尾さんの風邪はさらに悪化。その結果、「急性肺炎」を発症してしまったのです。そしてこの急性肺炎が、さらに横紋筋融解症を併発させたと考えられます。事実、急性肺炎の患者の4.7%が、横紋筋融解症を発症したという報告があります。 どの段階で横紋筋融解症を発症していたかはわかりません。ただ少なくとも、京都ロケの最中に病院に行っていれば、生存率20%などという恐ろしい事態には陥らなかったはず。その後は、妻・志乃さんの献身的な看病の甲斐もあり、担当医も驚くほどの回復を見せた中尾さん。およそ3ヵ月後には仕事に復帰できたのです。
人生の出来事型ストレス問診
『間違った薬の飲み方<1>〜高すぎる代償〜』
S・Mさん(女性)/37歳 OL
海外旅行から帰国した頃から鼻のつまりや喉の痛みを感じるようになったS・Mさん。その後、夜中に咳が出るようになった彼女は、夏風邪がひどくなってきたと思い、市販の風邪薬を服用。すると、息苦しさを伴う激しい咳に襲われました。実は、日頃から新しい薬を買っても、中の注意書きや箱書きを読むことなく、そのままゴミ箱に捨てていたS・Mさん。翌日も風邪薬を飲むと、激しい咳ばかりか、吐き気にまで襲われます。ようやく近所の内科で診察を受けた彼女は、咳止めと抗生物質、風邪薬を処方されますが、それを飲んだ15分後、猛烈な息苦しさを感じ、意識を失ってしまいます。
(1)鼻のつまり
(2)喉の痛み
(3)夜中の咳
(4)息苦しさを伴う咳
(5)吐き気
(6)猛烈な息苦しさ
解熱鎮痛薬喘息(げねつちんつうやくぜんそく)
<なぜ、解熱鎮痛薬喘息に?>
「解熱鎮痛薬喘息」とは、風邪薬や痛み止めなどに使われる解熱鎮痛成分に対して、過敏に反応してしまう病。いったんこの病になると、それまで問題なかった薬でも、体がアレルギー反応を起こしてしまい、喘息発作がおきてしまいます。 患者は10代から高齢者までと幅広く、現在、日本の患者数はおよそ30万人にも上ると言われています。しかし、なぜこの病になってしまうのか、原因はまだ分かっていません。言い換えれば、この病はいつ誰に起きてもおかしくないのです。 では、S・Mさんは、いつこの病を発症していたのでしょうか?彼女の場合は、海外から帰国した頃だと考えられます。あの時起きた、鼻のつまりや喉の痛み、さらには夜間の咳。これらの症状は、鼻、喉、気管支などの気道に、慢性的な炎症がおこり、いつアレルギー反応が起きてもおかしくない状態になったことのサインだったのです。しかし、そうとは知るよしもない彼女は、解熱鎮痛成分を含む風邪薬を飲んでしまいました。その結果、気道の炎症が急激に悪化。喘息を起こし、あのひどい咳と息苦しさに襲われたのです。実はこの症状こそ、この病の最大の特徴。薬を飲んで1時間以内に、ひどい咳や息苦しさを感じたら、解熱鎮痛薬喘息を疑う必要があるのです。 では、S・Mさんがもっと早く異変に気付く方法はなかったのでしょうか?実はそれこそが、普段は捨ててしまっていた注意書きをしっかり読むことだったのです。なぜなら、この病を起こす危険がある薬の注意書きには、厚生労働省より、こんな警告を載せることが指導されているのです。「次の人は服用しないこと。本剤または、他の風邪薬、解熱鎮痛薬を服用して喘息を起こしたことがある人」さらに「まれに下記の重篤な症状が起こることがあります。その場合は直ちに医師の診療を受けること」その一つに「喘息」があげられているのです。 しかし、そんな警告があるとは知らないS・Mさんは、薬のせいで異変が起きたとは思いもせず、「薬アレルギーなし」と答えてしまいました。もし注意書きを読んでいれば、自分に起きた異変を、薬アレルギーと疑えたかも知れません。その結果、彼女には、喘息発作を起こしてしまう薬が処方されてしまい、症状を悪化させてしまったのです。 解熱鎮痛薬喘息になっても、全ての解熱鎮痛薬が飲めないわけではありません。その人の身体に合った安全な薬もあります。その意味でも何より大切なのは、普段から注意書きをしっかり読み、何か異変があったら、すぐに医師に相談することなのです。
『間違った薬の飲み方<2>〜大量飲酒の罠〜』
O・Yさん(男性)/55歳 会社員
お酒が大好きな中堅商社の万年係長、O・Yさんは、数年ぶりに健康診断を受けたところ糖尿病と判明。血糖値を下げる血糖降下薬を処方され、医師から大量の飲酒は危険なので控えるように告げられました。以来、医師の言いつけを守って薬をしっかりと飲み、お酒は酎ハイ1杯程度にしていたO・Yさん。ところが1ヵ月後、課長補佐への昇進が決まった彼は、今日は昇進祝いだからと飲み過ぎた上、「つまみを食べないでカロリーを浮かし、その分を酒にまわせば、いつもより沢山飲めるはず」と勝手な自己判断をしてしまいます。
(1)猛烈な睡魔
(2)叩いても目を覚まさない
低血糖性昏睡(ていけっとうせいこんすい)
<なぜ、大量飲酒から低血糖性昏睡に?>
「低血糖性昏睡」とは、体内の血糖値が正常より下がってしまい、脳にエネルギーが行き渡らなくなる病。意識不明から昏睡状態に陥り、最悪の場合、死に至ることもある恐ろしい病気です。原因は多くの場合、糖尿病薬の間違った飲み方にあります。そもそもO・Yさんが飲んでいた「血糖降下薬」は、食事によって増えてしまった血液中の糖分を減らし、正常な状態に戻す薬。 では、どうしてO・Yさんの血糖値は、昏睡状態になるほど異常に下がってしまったのでしょうか?原因は2つ。1つは「つまみを減らして、その分のカロリーを酒に振り分ければいい」と、勝手に自己判断してしまい、つまみを食べなかったこと。実はお酒にはカロリーはあっても、糖分が少ないため、血糖値の上昇には直接つながりにくいのです。そのため、つまみを食べないでいると、新たな糖分が体に入ってこないまま薬が効くため、低血糖状態になってしまうのです。 とはいえ通常ならこの時、私たちの体は肝臓にためておいた糖分を血液中に放出し、血糖値を正常に戻す仕組みが備わっています。ところがO・Yさんは、ここでも大きな過ちを犯してしまいました。それが大量の飲酒です。実は大量のお酒を飲むと、肝臓はアルコールの代謝にかかりきりとなり、糖分を放出することまで、手が回らなくなってしまうのです。そうとは知らず飲み続けると、血糖値はますます下がる一方でした。その結果起きたのが、あの眠気。実はあの眠気は、単なる眠気ではなく、脳のエネルギー不足が原因だったのです。そしてついに、O・Yさんは昏睡状態にまで陥ってしまいました。 医師は「この薬を飲み始めたら、沢山お酒を飲むのは控えてください」と言ったはず。薬の説明書にも、ちゃんと書いてありました。「次の人は慎重に使う必要があります。飲酒量が多い人」、その指示を、身勝手な自己判断で破ってしまったことが、恐るべき事態をもたらしたのです。幸いにも、O・Yさんは昏睡状態が始まって1時間後の発見だったため、脳のダメージが小さく、大事には至りませんでした。
『間違った薬の飲み方<3> 〜飲み合わせの悲劇〜』
N・Tさん(女性)/57歳 主婦
日頃から身体に異変を感じると、すぐに病院に行き、手元にはいつも薬がいっぱいだったN・Tさん。最近何をするにも気力がわかない彼女は、心療内科を受診したところ、軽いうつ病と診断され、抗うつ薬を処方されました。2週間後、薬が効いたのか気分も晴れやかになり、趣味のガーデニングに精を出すようになりますが、張り切りすぎて今度は腰の痛みと張りを感じるように。そこで整形外科を受診することにした彼女は、うつと腰痛は関係ないだろうと判断し、うつ病の薬を飲んでいることを問診票に書かずに治療を受けました。こうして処方された腰痛の薬と抗うつ薬を一緒に服用すると1時間後、喉の渇きやめまい、ろれつが回らないなどの症状に襲われます。
(1)喉が渇く
(2)めまい
(3)ろれつが回らない
薬の相互作用による急性薬物中毒
<なぜ、薬の相互作用による急性薬物中毒に?>
病名「薬の相互作用による急性薬物中毒」。薬の相互作用とは、2種類以上の薬を一緒に飲んだ時に、1種類で使用した時とは異なる変化が起き、個々の薬の正常な効果とはかけ離れた作用が起きてしまうこと。その結果、中毒症状に陥り、場合によっては、重篤な事態に至ることも。 現在、日本の一般的な総合病院で処方される薬はおよそ1800品目。その中には、副作用を引き起こす可能性のある飲み合わせが、実におよそ900通りもあると言われているのです。これこそが厚生労働省が指定する「併用禁忌(へいようきんき)」と呼ばれる、絶対避けなければならない飲み合わせなのです。 N・Tさんの場合は、抗うつ薬と腰痛の薬の飲み合わせがまさにそうでした。どちらも、数多く処方されているごく一般的な薬なのですが、この2つを同時に飲んでしまうと、薬の変化を助けるべき肝臓の酵素が抗うつ薬にかかりきりとなり、腰痛の薬は阻害されてしまうのです。その結果、腰痛の薬が高濃度のまま血液に流れこみ、様々な異変を引き起こすと考えられています。 ではなぜ、この2つの薬が処方されてしまったのでしょうか?それはN・Tさんが問診票に記入した時、つい「いいえ」と書いてしまったことこそが全ての元凶。この過ちこそが、恐ろしい事態を招いてしまったのです。ひと口に抗うつ薬、腰痛の薬と言っても種類は様々。その全ての薬で相互作用が起きる訳ではありません。また、こうした相互作用は、この2つの飲み合わせに限ったことではありません。だからこそ自分の飲んでいる薬をしっかりと把握し、病院の問診表にはきちんと書き込むことが大切なのです。 どうしても、飲んでいる薬を覚えきれないという方は、「お薬手帳」をぜひ忘れずに。これを提示することで医師や薬剤師の的確な判断が可能となるのです。さらに、「かかりつけ薬局」を作ることも1つの方法。たとえ病院が違っても薬局が同じであれば、飲んだ薬の経歴が分かり、薬の相互作用や副作用、更にはアレルギーなどの可能性もチェックしてもらえるのです。
間違った薬の飲み方チェック