診察室
診察日:2008年10月28日
テーマ:「本当は怖いできもの〜悪魔の積み石〜」
「本当は怖い手荒れ〜紅く染まる非常灯〜」

『本当は怖いできもの〜悪魔の積み石〜』

H・Mさん(女性)/57歳 専業主婦
ある日、脇腹辺りに痒みを伴う小さなできものが出来た専業主婦のH・Mさん(57歳)。
じきに治るだろうと思った彼女は、家にあった痒み止めの薬を塗って対処することに。しかし、できものは1週間経っても治らないばかりか、1ヵ月後には急激に数が増えていました。夫からイボだと言われ、そう思い込んだH・Mさんは、「イボなら命に関わる病じゃない」と、しばらく様子を見ることに。しかしその後、イボは足首にも広がり、気になる異変が続いたのです。
(1)痒みを伴うできもの
(2)できものが急激に増える
(3)両足にイボができる
胃ガン
<なぜ、できものから胃ガンに?>
「胃ガン」とは、何らかの原因で胃の粘膜にある細胞の遺伝子が傷つき、ガン細胞に突然変異してしまう病のこと。毎年およそ10万人が発症する肺ガンに次いで日本人に多いガンです。
この病の最も厄介なところは、ガンが進行するまで、ほとんど自覚症状が現れないこと。そのため、手遅れになるまで気付かないというケースが少なくないのです。しかし、H・Mさんの場合、明確なサインが出ていました。それこそ…あの「イボ」です。
実はこのイボ、内臓の病が引き起こした皮膚の異常で、『デルマドローム』と呼ばれるもの。以前から皮膚科医の間では、内臓の病の存在を知る手段として、広く知られている症状です。他にもシミや発疹、足の裏のカサカサなど、内臓の疾患によって起こる皮膚の異常は多種多様。H・Mさんの場合、それが「イボ」だったのです。
なぜ、ガンになるとイボが出来るのか、まだ詳しくはわかっていませんが、ガン細胞が出す何らかの成長因子が、皮膚の表皮細胞を増殖。異常なイボを生じさせるのではないかと考えられています。そもそも通常の大人のイボは、紫外線や加齢などによって表皮細胞が過剰に増殖してできる良性の腫瘍。60代以上の80%の人に認められる、ごくありふれたものです。
では、この通常のイボとデルマドロームのイボ、どう見分ければいいのでしょうか?ポイントは痒みと増え方。通常のイボの場合、痒みはありませんし、数年かけてゆっくり増えるのが特徴です。一方、H・Mさんのイボは、痒みを伴い、2ヵ月という短期間で急激に増えました。そう、デルマドロームのイボの特徴は、痒みを伴うこと、そして、数週間から数ヵ月の短い期間で急増することなのです。
デルマドロームは必ずしも病の早期に現れるとは限りませんが、番組で紹介したようなイボが現れた人の80%以上に、消化器系のガンが発見されています。特に胃ガンなど症状が出にくい病の場合、数少ない貴重なサインとなることがあるのです。H・Mさんの場合、幸い転移する前だったため、胃の切除手術によって、何とか一命を取り留めることができました。
『本当は怖い手荒れ〜紅く染まる非常灯〜』
T・Mさん(女性)/50歳 自営業
東京下町で夫と二人、定食屋を営むT・Mさんは、ある日、手の指の関節と爪周りに赤みが広がっていることに気付きました。その症状を手荒れだと思った彼女は、「これは職業病のようなもの」と思い、ハンドクリームを塗って対処することに。しかし、1週間経っても手荒れは一向に良くならず、その1ヵ月後にはなぜか身体に力が入らず階段を上るのが辛くなってきました。年のせいで疲れが足腰にきたと思っていたT・Mさんですが、その後も手の赤みは増すばかりか、顔にも同じ症状が出るなど更なる異変が続きました。
(1)手の赤み
(2)1週間たっても手の赤みがなかなか治らない
(3)身体に力が入りにくい
(4)手の赤みが増す
(5)上まぶたと小鼻の周りが赤い
乳ガン
<なぜ、手荒れから乳ガンに?>
乳ガンとは、乳房の乳腺に生じる悪性の腫瘍のこと。まれに男性にもありますが、圧倒的に多いのは40代から70代の女性。現在、日本では、女性のガンの中で最も患者数が多いガンです。
乳ガンの主な自覚症状は、乳房の「しこり」。しかし、触診だけでは早期といわれる2センチほどのしこりでも見逃されることがあり、早期発見が難しいガンの一つと言えます。しかし、この乳ガンにも実は皮膚の異常、「デルマドローム」が出ることがあるのです。それこそが…あの手荒れに似た「皮膚の赤み」。実はこれ、膠原病の一種で『皮膚筋炎』と呼ばれるもの。免疫機能の異常から、全身の皮膚や筋肉で炎症が起こる病です。T・Mさんの「皮膚の赤み」「体に力が入りにくい」といった異変は、全てこの皮膚筋炎の症状でした。
なぜ皮膚筋炎がガンのデルマドロームとして現れるのか、その理由はわかっていません。しかし、皮膚筋炎の人を調べると、かなりの確率で、乳ガン、肺ガン、胃ガン、大腸ガンなど、様々な悪性腫瘍を合併していることが明らかになっています。
ガンと皮膚筋炎、そのどちらが先かは、人によってまちまち。ただ、ガンを発症する1年前後に皮膚筋炎が発症すると言われるほど、両者は密接な関係にあるのです。T・Mさんの場合も、皮膚筋炎がきっかけとなって早期の乳ガンを発見。乳房を温存したまま、無事ガンを取り除くことに成功しました。
では、手荒れや湿疹などによる通常の皮膚の赤みと「皮膚筋炎の赤み」は、どこでどう見分ければいいのでしょうか?ポイントは、赤みの出る場所。皮膚筋炎の赤みは、両手両足の指の関節や爪の周囲、肘、膝、顔などに出ます。それも必ず左右対称、また同時に何ヶ所も発生するのが特徴です。こうした赤みを見つけたら、すぐに皮膚科を訪ねてみてください。癌の早期発見につながるかもしれません。