診察室
診察日:2008年11月25日
テーマ:「本当は怖いぽっこりお腹〜声なき血の悲鳴〜」

『本当は怖いぽっこりお腹〜声なき血の悲鳴〜』

N・Sさん(男性)/49歳 会社員
都内のメーカーの営業に勤めるN・Sさんの悩みは、ここ数年で出てきた「ぽっこりお腹」。両親が糖尿病という家族歴もあったので、毎年健康診断を受けていましたが、今まで異常がなかったため安心していました。そんなある日、突然、心臓をわしづかみにされたような胸の痛みに襲われます。すぐに病院に直行し、精密検査を受けたところ、医師からまさかの宣告を受けることに・・・。
(1)胸の痛み
糖尿病
<なぜ、ぽっこりお腹から糖尿病に?>
 「糖尿病」とは何らかの原因で、すい臓の機能が低下し、血液中の糖分を分解するインスリンが減少。その結果、血液中に糖分があふれ返ることで、さまざまな症状を起こす病です。主な原因は、肥満、運動不足、そしてストレスなどの生活習慣だと考えられています。
  そして、この糖尿病の指標となるのが血糖値。血糖値とは血液中にどれだけの糖分が含まれているかを示した数値のこと。この数値が126以上あると、糖尿病と診断されるのです。しかし、N・Sさんは毎年の健康診断でも、血糖値は126以下で何の異常も見られませんでした。実はN・Sさんが患っていたのは、通常の健康診断では見つけるのが難しい「隠れ糖尿病」だったのです。
  では、なぜこの隠れ糖尿病は、健康診断で見つけることができないのでしょうか。一般的に血糖値の検査は、人それぞれ食事内容が違うため空腹時に行います。通常、空腹時の血糖値は正常な状態で、食事をすると血糖値が上がっていきます。すると、すかさずインスリンが分泌。糖分はエネルギーに変わり、やがて血糖値は正常に戻るのです。しかし、糖尿病患者の場合、空腹時も血糖値が高いばかりか食事をしてもインスリンが殆ど分泌されず、常に高血糖の状態に。そのため当然、空腹時の血糖値を見れば、異常は発見できます。
  一方、隠れ糖尿病患者の場合、空腹時は血糖値が正常。ところが食後、血糖値が上昇しても、インスリンはなかなか分泌されず、高血糖の状態に。本格的にインスリンが出始めるのは、食後1時間近くも経ってから。そのため血糖値が正常に戻るまで2〜3時間もかかってしまうのです。隠れ糖尿病の場合、血糖値が危険なほど高くなるのは、食後しばらくの間のみ。だからこそ空腹時の血液検査では異常が見過ごされてしまったのです。
  さらにこの隠れ糖尿病の恐ろしいところは、食後、糖分が増え過ぎてから大量のインスリンを一気に分泌するため、すい臓がすぐに疲弊してしまうこと。こんな事態が起きているとも知らずに、N・Sさんは健康診断の結果を過信していました。その結果、心臓へと続く動脈に糖分があふれ、血管を傷つけたことで動脈硬化が進行。ついには「狭心症」になってしまったのです。
  現在約820万人いる糖尿病患者のうち約3割が、この隠れ糖尿病のである可能性があると言われています。ちなみに、健康診断以外で、この隠れ糖尿病の可能性を疑う手だてが「家族歴」。家族に糖尿病患者がいるかどうかが、病を疑う参考になるのです。アメリカ糖尿病協会の報告によると、父親もしくは母親どちらか一方だけが糖尿病だった場合、その子どもが糖尿病になる可能性は約20%。両親ともに糖尿病だった場合、なんと約50%の子どもが将来糖尿病になる可能性があるというデータがあります。だからこそ、お腹がぽっこり出だし、さらに糖尿病の家族歴があるという人は、隠れ糖尿病を疑って、専門医で食後の血糖値を計ることが大事なのです。
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