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『冬場 家の中で気をつける病(1)~本当は怖いお風呂の温度~』 |
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S・Kさん(男性)/65歳 |
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大工の棟梁 |
S・Kさんの冬場の楽しみは、晩酌と就寝前の長風呂。最近受けた健康診断で、悪玉コレステロールの値がやや高いという結果が出ましたが、若い頃から病気知らずのため、健康には絶大な自信を持っていました。そんなある日、いつもの様に晩酌の後、たっぷり30分かけて風呂に入って上がったところ、軽いめまいに襲われました。それはほんの数秒のことで、ちょっと飲み過ぎたくらいに思っていましたが、その後も気になる異変が続いたのです。 |
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(1)めまい
(2)手のしびれ
(3)左半身が動かない |
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脳梗塞 |
<なぜ、風呂の温度から脳梗塞に?> |
「脳梗塞」とは、脳の血管が詰まり、血液の届かなくなった組織が壊死。最悪の場合、死に至ることもある恐ろしい病です。では健康に自信があったS・Kさんが、何故この病になってしまったのでしょうか?
確かに65歳という年齢も手伝って、血管は軽い動脈硬化に。さらに悪玉コレステロール値も高めと指摘されていました。でも、この程度は年相応、脳梗塞の大きな要因とはいえません。最大の原因は、あの「長風呂」と「お湯の温度」にありました。
まずは「長風呂」。熱いお風呂に長時間入っていると、私たちの体内で「深部体温」が急上昇します。「深部体温」とは、脇の下など皮膚の表面ではなく、内臓など身体の内部の温度のことで、健康状態をチェックする指標となる重要な体温です。
ある研究データによれば、41度のお湯に30分浸かると、通常37度の深部体温が39度にまで上昇するという結果が出ています。この39度という深部体温こそ、実は真夏の炎天下で重度の熱中症になっているのと同じ、危険な脱水状態。全身の血液がドロドロに濃縮し、脳梗塞を引き起こしやすくなっているのです。毎晩、41度のお湯に30分も浸かっていた彼は、まさにこの状態でした。
次に、「お湯の温度」。左半身が動かなくなった日は、いつもより1度高い42度に設定したS・Kさん。この1度が、決定的な事態を招いてしまった可能性があるのです。実はつい最近、42度のお湯に入っていると、ある物質が血管内に放出されるという実験結果が発表されました。その物質の名は、『PAI(パイ)』。
PAIとは、血管壁の中に存在する細胞物質のこと。出血すると、血液中に大量に放出され、血小板を刺激し結合しやすくさせます。本来は止血のための物質なのですが、42度以上のお湯に浸かっていると、体表近くの毛細血管が刺激を受け、出血したときと同様、大量のPAIが血管内に出てしまうのです。そう、ちょっと熱めのお風呂に入ると、なんと血液が固まりやすくなってしまうというのです。
そんな状態だったにも関わらず、暑い風呂場から寒い脱衣所へ。この時、急激な温度変化で血管は一気に収縮。血栓を押し流し、ついに脳の血管が完全に詰まってしまったと考えられるのです。
一般的に年齢が高くなるほど、暑さや寒さに対する感受性は低下するため、浴槽の水温は高く、入浴時間も長くなりがち。だからこそ中高年の方には、「少しぬるめ」と感じる程度での入浴が、勧められているのです。 |