診察室
診察日:2009年11月24日
若く健康な声を保つスペシャル
テーマ:
『本当は怖い声の変化〜閉じない扉〜』
『秋川雅史さんに学ぶ!若々しい声を維持する秘訣』

『本当は怖い声の変化〜閉じない扉〜』

T・Kさん(女性)/73歳 会社員
13年前、子供たちも独立し、夫婦水入らずで悠々自適の日々を過ごしていたT・Kさん。しかし、それからほどなくして、最愛の夫が死去。彼女は自宅でぼんやり過ごすことが多くなりました。そんな様子を見かねた娘からの提案で、家を改築し娘家族と2世帯で住むことになったT・Kさん。それから7年後、朝起きがけに声がかすれているような気がし、掃除中にそれまで軽く持てていた花瓶が持ち上がらなくなります。さらに、買い物に出かけた時、自分でははっきり注文しているつもりなのに、なぜか相手に伝わらなくなったのです。
(1)声がかすれる
(2)力が入らない
(3)声が出にくい
声帯萎縮(せいたいいしゅく)による声門閉鎖不全(せいもんへいさふぜん)
<なぜ、T・Kさんは声帯萎縮による声門閉鎖不全に?>
 「声帯萎縮」とは、喉の奥にある声帯がやせ衰えてくる老化現象のこと。そもそも私たちの声は、肺から出た空気が声帯の隙間を通る際に、細かく振動することで発生します。つまり、声を出すための筋肉である「声帯」を自由自在に操ることで、声を出しているのです。
 ところが年を取るにつれ、他の筋肉と同様に、声帯は少しずつやせ細っていきます。すると、二枚の声帯がしっかり閉じなくなり、隙間から空気が漏れ出すことに。その結果、「声のかすれ」「声が出にくい」といった異変が生じてしまうのです。
 とはいえ、「声帯萎縮」は、誰にでも起きる可能性がある、ごく一般的な老化現象に過ぎません。では、どうして彼女は、あそこまで悪化させてしまったのでしょうか?その原因こそ、極端な会話不足。声帯を萎縮させるのは、老化だけではありません。あまり使わないことで、萎縮が早く進むと考えられるのです。T・Kさんの場合も、ご主人を失くして以来、会話をする機会が激減。その後、夕食の時の会話こそ増えたものの、24時間のうちのわずかな時間だけ。1日中ほとんど喋らないという生活を7年近く続けた結果、彼女の声帯萎縮は、一気に進行してしまったと考えられるのです。
 では、声帯の委縮と会話時間にはどのような関係があるのか?60歳以上の10人の方にご協力頂き、声帯を調べたところ、実に10人中5人の声帯に萎縮を発見。その5人の方に1日の会話時間を聞いてみると、なんとお二人が24時間中18時間も喋っていないことが判明したのです。ちなみに、T・Kさんも同じくらい喋らない状態だったといいます。
 では、彼女におきた「力が入らない」という異変は、声帯の萎縮とどう関係があるのでしょうか?通常、人は吸い込んだ空気を外に漏らさないよう声帯を閉めることで、筋力を最大限に発揮します。しかし、声帯から空気が抜けると、力が入らなくなってしまうというのです。
 誰の身にも起きる可能性がある「声帯萎縮」。放っておくと、高齢者の死亡原因4位の肺炎を引き起こす原因である誤嚥(ごえん)の危険性も高まります。だからこそ、普段から声の変化に注意することが大切なのです。
「声帯を守る正しい行動チェック」は携帯サイトで!
<テーマ> 『秋川雅史さんに学ぶ!若々しい声を維持する秘訣』
 クラシックの枠を越える多彩な作品を歌い上げ、3年連続紅白の出場を果たしたテノールの貴公子、秋川雅史さん。秋川さんは、どうやってこの美しい歌声を生み出す「声帯」を若々しく健康に保っているのでしょうか?
 まず発声練習の際に気を付けているのは、あごと首の付け根を出来るだけ伸ばして、喉仏が上にあがらないようにすること。そして声を出す時にあごの骨の後ろが固くならないようにすること。この2点に気を付けながら、まず発声練習を、毎日1時間半行うといいます。あの大ヒット曲『千の風になって』の練習が始まると、何度も同じフレーズを繰り返して歌う秋川さん。実はこれこそ、秋川さんならではの、こだわりの練習法。「部分部分を何回も歌って自分が納得するフレーズを作っていく」のです。

<秋川さんが声帯を維持するために気を付けていることは?>
 では、そんな秋川さんは、声帯を維持するため日常生活のどんなところに気を付けているのでしょうか?秋川さんに伺うと、「一番大事にしているのは規則正しい生活を送ること、睡眠時間をたっぷりとること、3食をきちんと摂ること、これに尽きます」とのお答え。特に気を付けているのが睡眠時間で、平均8時間。睡眠がしっかりとれていると、1日の活力、パワーが出てくるといいます。
 そしてもう一つ必ず守っているのが、起床後3時間は喋らないこと。例えば、朝8時に起きたら11時位まではとにかく喋らず、それから小さな声を少しずつ出し始めて普通にしていくそうです。
 さらに、冬の時期、秋川さんが何より気を付けているのが、乾燥対策。レストランに入る時は、まず天井を見渡して空調の風がどちらに向いているかを調べた上で、席を決めるなど徹底していると言います。また、空気が乾燥しているホテルでは加湿器を入れてもらい、「弱」に設定。枕元に軽く絞った濡れタオルを置いたりするそうです。
<秋川さんがやっていることは、若く健康な声帯の維持にいいの?>
 平均8時間の睡眠。朝起きた後は喋らない。乾燥に気を付ける。これらは若く健康な声帯の維持と、どう関係しているのでしょうか?今回の担当医である角田先生(独立行政法人 国立病院機構 東京医療センター 人工臓器機器開発研究部長 耳鼻咽喉科)に分析して頂きました。
 まず睡眠時間については、「一般的に身体や筋肉全体の疲れがとれるのは大体8時間、声帯も筋肉ですから声にもいいです」とのこと。続いて、朝、声を出さないという点には、「声帯は朝起きたとき乾燥しているので声帯振動が起こりにくい状態。そんな時いきなり振動し始めると、声帯に負担がかかります」とのお答え。つまり朝は声帯が乾燥しているため、無理に声を出すと炎症を引き起こす恐れがあります。
 そう、声帯の維持に最も重要なのは、「乾燥対策」なのです。「声帯は1秒間に100回から1000回位振動するため、乾いていると、どうしても傷ついてしまいます。結果的にそれで声帯が悪くなって炎症を起こし、さらには声が枯れてくると。そういうことを抑える意味でも、乾燥対策が重要です」(角田先生)。
<秋川さんの乾燥対策の効果を実験>
 では、秋川さんが行っている乾燥対策は、どのくらい効果があるのでしょうか?九州大学・栃原先生の研究によると、人にとって快適と感じられる湿度の目安は、40%から60%の間。それ以下になると、声帯が乾燥するだけでなく、粘膜の働きが衰えインフルエンザなどのウイルスに感染しやすくなってしまうと言います。
 とあるビジネスホテルの一室で実験してみることに。エアコンをつける前、温度25度、湿度41%だった部屋に、25度の設定で暖房を作動。すると6時間後、気温27度、湿度35%に。快適な湿度、40%を下回ってしまいました。そこで加湿器を設置。設定は秋川さんと同じ「弱」にセット。さらに軽く絞った濡れタオルをベッドの枕元に置きました。果たして湿度の変化は?
 4時間後、湿度は、なんと8%上昇し、43%に!快適な範囲に収まりました。つまり、秋川さんの乾燥対策「濡れタオルがあれば加湿器の設定は「弱」でもOK」は、効果ありでした。
<秋川雅史さんに学ぶ!声帯を若く健康に保つ秘訣>
(1)睡眠時間をしっかりとる
(2)朝起きてしばらくは無理に声帯を使わない(大声を出さない)
(3)乾燥に気を付ける