境遇

インタビュー -Interview-

原作者
湊かなえさん インタビュー
“人と人との繋がり”について改めて考えてみたいと思って書いた作品です。ぜひ何度も観て、観るたびに新しい発見をしていただけたらと思います。
湊かなえ
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―― 今回の作品はタイトルの通り、二人の女性の『境遇』がテーマですが、
このテーマを選んだ理由を教えて下さい

「境遇」というと言葉は重くなりますが、人は生まれた環境でその後の人生が決まるのではなく、人生は自分で作っていけるものだというメッセージを込められたらいいなと思いました。いま、“絆”や“繋がり”が改めて見直される時代になっていますが、人と人との繋がりというのは、血の繋がりだけなのか。家族は血の繋がった人だけなのか。もっと深い繋がりや人間関係があるのではないか。遠くの親戚よりも、血の繋がりが無くても近くにいる人のほうが密接に関わることも多い世の中で、“人と人との繋がり”について改めて考えてみたいというところにテーマを置いています。

―― 今回の登場人物は、誰もが悪人というわけではなく、
それぞれの境遇で守りたいものがあるだけだという印象を受けましたが、いかがでしょうか?

私自身は、ひとつの出来事を“点”で考えるのではなくて、“線”とか“面”という広い部分で見ていきたいと思っています。同じように、人と人との繋がりも“点”だけではないと思うんです。いまの時代、誰もがふとしたことで悪人にも善人にもなり得るし、被害者にも加害者にもなり得る。作品の中でも、そういった場面が出てきます。

“悪人”は描きやすい。勧善懲悪で、片方が正義でもう片方が完全な悪だと思うと、「赦す、赦さない」を判断しやすいですし、何か罰を加えることにも、自分の良心も痛まない。でも、仕方なく起こってしまったことだったり、相手が深く関わっている人だったりすると、その気持ちが分かるからこそ自分の判断もつかなくなってしまう。でも、そこに生じる葛藤によって、人と人の繋がりも改めて見直せるのではないかと思います。

―― 湊さんから見た陽子と晴美は、それぞれどんな女性でしょうか?

共通点は、どちらも一生懸命に生きていて、自分の思いにまっすぐに従っているところ。一生懸命生きている分、壁にぶち当たることも、複雑な思いをすることもあるだろうし、いろんな立場に転じやすい。一見すると、陽子はお嬢様で、「静」と「動」で言えば「静」、晴美が「動」になるのかもしれないけれど、でも、実はお互いよく似ていて、転じることも可能な二人だと思います。

―― テレビドラマのために小説を書き下ろすという作業は、いかがでしたか?
通常の小説を書くのとは違う大変さなどはありましたか?

「読むドラマ」みたいな感じの小説というのも面白いのでは…と、ドラマを意識しながら書きました。以前シナリオの勉強をしていたことがあって、テレビドラマには表現の制約があるというのは知っていたので、そこは意識しましたね。それと、私が書いてきた小説には風景描写はあまりなくて、読み手に想像してもらうことが多かったんです。例えば、「学校」は「学校」であって、具体的にどんな学校かを書くことはなかったのですが、今回は色であったり、建物や施設の様子であったり、そこにある景色を意識して書きました。そのおかげで、これまでとはまた違ったものができて、よかったなと思っています。

―― 湊さんは小説を書かれるときに、登場人物全員の履歴書を作られると伺いましたが、
今回も細かい設定を決めてから、執筆に入られたのでしょうか?

登場人物一人一人がどんな人物かという設定は最初に作ります。みなさんが「履歴書」と言い方をするので、「それを見せてください」と言われるのですが、紙には書き出していないんです(笑)。最初にキャラクター設定を決めておかないと、動いてくれない。最初にきちんと決めると、それぞれが動き始めて、ここで何かやるんだろうなとか、その場面には出てこなくても、いまこの人はこういうことしているだろうなというのが見えて、その中のどこを書こうかなと考えながら、書き進めます。まずは、スタートとゴールを決めておいて、あとは登場人物たちがゴールに向かう途中どんなことが起こるかというのをある程度は決めつつ、「よし、いってみよう!」という感じですね。

―― 実際にドラマの撮影をご覧になってみていかがでしたか?

俳優さんたちが演じられているのをみると、すっかり自分の手からは離れて、「こういう話だったんだ!」と、視聴者目線で見てしまいますね(笑)。私の中にあった人物像が、松雪さんで上書きされ、りょうさんで上書きされて、「彼女たちはこういう人たちだったんだ」と教えてもらっているような気がします。自分で書いているときにも、頭の中で映像にはなっているのですが、具体的な女優さんや俳優さんを思い浮かべたりはしないので、実際にお芝居を見ると、登場人物たちの顔がパッと鮮明になる感じです。

自分で想像できなかったものが実際に見られたとき、「ああ、映像化していただけてよかったなぁ」「世界が広がったなぁ」と思います。「こうだったんだ!」と気づかせてもらえるものがあると、「映像ってすごいなぁ」と映像化していただいた喜びを実感しますね。

―― 放送を楽しみにしている視聴者のみなさんへのメッセージをお願いします

オンエアで観るだけでなく、録画したものを何度でも観て、「このときは、こんな表情をしていたのか!」と、その度に新しい発見をしていただけたらと思います。そして、原作もぜひ読んでいただきたいですね。

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