月〜金曜日 21時48分〜21時54分


京の技 

 平安時代から千年以上も都があった京都には、朝廷や公家、貴族、武家、寺院な どに出入りするあらゆる職種の職人が集まった。切磋琢磨してその匠の技を磨き、京 都らしい雅な技、伝統工芸的な技として今日まで 守り伝えている。今回はその一部 を紹介する。


 
和傘  放送 4月10日(月)
和傘(宝鏡寺にて) “人形の寺”として知られている京都・上京区の宝鏡寺境内に大きな和傘の花が 咲く時がある。宝鏡寺の門前で和傘作り百余年の「日吉屋」が、茶道の野だて用の傘 に油を引くのに寺の境内を借りて作業場にした時だ。一番大きなものは直径が3mも あり、色とりどりの野だて用傘が広げられる風景は、普通の寺院では見られない特別 な景色を作り出す。
 宝鏡寺は天皇の皇女が入寺して法灯を守ってきた尼門跡寺院で、ひな祭りの時期に 御所からひな人形が贈られる習わしがあり、人形寺の呼び名がついた。春秋には人形 展が開かれ、寺で所蔵している人形や皇室関係者が所有している人形が展示、公開さ れる。
(写真は 和傘(宝鏡寺にて))

和傘作り(日吉屋) 和傘作り百年の日吉屋商店の当主は5代目西堀江美子さん。子供のころから4代 目の父・伊三郎さんの和傘作りの技を見て育った。弟の健作さんも和傘職人としてそ の技術を引き継ぎ、姉弟で和傘の技を後世へ伝えようとしている。
 九州産のモウソウ竹で骨を作り、大きな傘だと80枚以上もの越前和紙を張る。そ の後も数々の手作業を加え、竹のしなりとその曲線、和紙の温かみを持った和傘が仕 上がる。野だて傘は茶道家元の表、裏千家をはじめ日本全国からの注文が寄せられ る。野だての席に立てられた色鮮やかな傘には日本固有の文化がある。和服姿にピッ タリの蛇の目傘、レトロ調やインテリアとしての番傘など、和傘には洋傘にないしっ とりとした趣がある。
(写真は 和傘作り(日吉屋))


 
楽焼  放送 4月11日(火)
幕釉赤茶碗(彩衣) 茶道の世界で高い評価を受け、広く用いられている茶わんが、黒楽、赤楽と言わ れる楽茶わん。楽茶わんの起源は、京都で瓦を焼いていた渡来人の技法に始まる。桃 山時代に千利休の指導を受けて、楽焼の家元・初代長次郎があみ出した技法。豊臣秀 吉の聚楽第に窯を築き茶器などを焼き、秀吉から聚楽第の「楽」の一字をもらい楽家 を名乗るようになった。楽焼家元・楽家は今も京都で楽焼の作品を作り続け、楽美術 館で作品を展示している。
 楽焼は他の焼物とは異なり、ろくろを使わず手で土をこねて形を作りあげ、屋内の 窯で焼く独特の手法が大きな特徴。釉薬はかけるが絵などは入れない。楽茶わん特有 の手ざわり、くちびるに触れる感触などが、茶の湯の「わび」の世界にピッタリした 独特の雰囲気を持っている。
(写真は 幕釉赤茶碗(彩衣))

松風軒小川長楽宅 京都・山科区の清水焼団地で楽焼に取り組んでいる陶芸家・小川長楽さん。小川 さんの祖父は、楽焼家元・楽家で職人として修業し独立したひとり。現在、楽焼の第 一人者の作家は全国で10人前後。その下を含めても50人ほど。楽茶わんの販路が茶道の世界に限られているので、陶芸家の数も少ない。
 3代目の小川さんは弟子もとらず、ひとりで楽焼の伝統工芸技術を磨いている。他 の陶磁器にはない土の柔らかさと、手のひらに包み込まれるようにしっとり落ち着く のが楽茶わん。このような至高の楽茶わんを目指して小川さんの手は茶わんを作り続 けている。工房のある自宅のギャラリーには、その自信作が展示されている。
(写真は 松風軒小川長楽宅)


 
京うちわ  放送 4月12日(水)
阿以波旧宅 京都・中京区の六角堂近くの京うちわ店「阿以波」は、創業が江戸初期の元禄時 代と言う老舗。9代目当主の饗庭智之さんは今も風情ある京うちわを作り、販売して いる。
 うちわの起源は古く、紀元前3世紀の中国・周の時代にすでに存在していたと言わ れている。うちわは涼を取るだけのものではなく、祭礼などに用いられたり、貴人や 女性が顔を隠すために用いる道具でもあった。日本には6、7世紀ごろに伝わったこ とが京都・太秦の広隆寺や奈良・正倉院の御物などから推測できる。奈良・明日香村 の高松塚古墳の壁画の人物が手にしているうちわが、当時、使われていたうちわと思 われる。
(写真は 阿以波旧宅)

京うちわ作り(阿以波) 京うちわは竹の骨に紙を張ったうちわ面と柄の部分が別に作られるのが大きな特 徴。うちわ面の骨の竹は嵯峨の竹を使う。柄には漆を塗ったり金泥や金箔を施すなど 優美に仕上げられる高級品もあり、高度な技術と伝統が今日に受け継がれている。う ちわ面には趣向を凝らした絵が描かれており、京都の歴史と文化に育まれた伝統が息 づき、実用の域を越えた繊細で優美な美術工芸品と言える。江戸時代に作られた各地 のうちわ中には、人気の役者絵などを張った華やかうちわも作られた。
(写真は 京うちわ作り(阿以波))


 
宮師  放送 4月13日(木)
榊原神具店 宮師は家の中にまつる社殿やそれに付随する神具類を作る職人のことを言う。宮 大工と指物師の中間のような職種だ。京都・東山区の六波羅蜜寺の近くに、宮師・榊 原良明さんの仕事場と榊原神具店がある。榊原さんは3代目。宮師として当時ナンバ ーワンの技を持っていた2代目の父・鉄三さんの元で修業し、宮師の技をみっちりと 仕込まれた。
 「人に手を合わせてもらうものを作るのだから材料、技、心が一体となったものを 作らなければならない」と榊原さんは言い、妥協を許さず自分自身が納得できるもの でなければ出さないと言う。
(写真は 榊原神具店)

方木(つえ) 社殿などを作る材料は良質の木曽ヒノキ。ひと口に木曽桧と言っても千差万別。 木肌の色、艶、木目などが社殿や神具にあうものを選ぶ。樹齢数百年の木曽桧の中か ら節のない部分を揃えるのは大変な仕事だと言う。
 社殿にはいろいろな建築様式がある。大きく分けて神明造、大社造、春日造、住吉 造、流造がある。これらの様式の図面はなく、先代から伝わる「方木(つえ)」と呼 ぶ、細い角棒の定規を使って社の各部の寸法を決める。こうして作られた各部の材料 を組み立て、桧独特の木の香が新しい社殿が完成する。
 榊原さんのそばで娘さんが後継者として修業中。「代々伝わった宮師の技を絶やし たくない。私が後を継ぐ」と今、父の技を受け継ぐのに懸命だ。榊原さん父子は「洋 間にもあう神殿を作りたい」と21世紀への課題に取り組んでいる。
(写真は 方木(つえ))


 
化粧廻し  放送 4月14日(金)
琴ノ若の化粧廻し 京都・右京区太秦の広隆寺の近くで、大相撲の力士の化粧廻しを作っているのが 刺繍職人・山口修さん。最近まで夏場所(平成12年)に再起をかける琴ノ若の化粧回しを作っていた。化粧廻しは力士にとって土俵入りの時の晴れ着のようなもの。鮮やかな色合いの化粧廻しは、相撲ファンの目を楽しませ、土俵上に華やかな彩りをそえる。
 山口さんは父の代から数えるとすでに千本以上の化粧廻しを作ってきた。このう ち山口さんが800本ほど手がけている。化粧廻しは力士のひいき筋や後援会が贈る もので、人気力士になるとひとりで15本以上持っている。
(写真は 琴ノ若の化粧廻し)

化粧廻し作り 注文主から届いたデザインを化粧廻しの原寸大に拡大し、廻しの布地に転写す る。デザインの原画の色の数だけ刺繍糸を用意する。刺繍と言っても作業はパワフ ル。太い針を刺し、ペンチを使って引き抜くという作業が続く。厚みと重量感を持た せるため芯に泥紙のクッションを入れたり、立体感を出すために綿などを詰めたりす る。仕上がった化粧廻しはズッシリと重く8kgから10kgの重量になる。
 化粧廻しのデザインにはその時代の流行が反映されたり、注文主や力士の好みや個 性が表れることが多い。また、力士の出身地の土地柄が表現されることもある。個性 的なデザインと伝統の刺繍の技がマッチした化粧廻しは、日本独自の伝統工芸品とし て土俵にのぼる。
(写真は 化粧廻し作り)


◇あ    し◇
和傘・日吉屋商店、宝鏡寺市バス堀川寺之内下車3分。 
楽焼作家・小川長楽ギャラリーJR山科駅から京阪バス清水焼団地下車。 
楽美術館市バス堀川中立売下車5分。 
京うちわ・阿以波地下鉄四条駅下車3分。 
榊原神具店京阪五条駅下車8分。 
化粧回し・山口刺繍店京福電鉄太秦駅下車5分。 
◇問い合わせ先◇
和傘・日吉商店075−441−6644 
宝鏡寺075−451−1550 
楽焼作家・小川長楽ギャラリー075−581−0425 
楽美術館075−414−0304 
京うちわ・阿以波075−221−1460 
榊原神具店075−561−3017 
化粧回し・山口刺繍店075−861−3651

◆歴史街道とは

     日本の歴史の舞台を尋ねながら、日本文化の魅力を楽しみながら体験できる
ルートのことです。
     伊勢・飛鳥・奈良・京都・大阪・神戸の歴史都市を時流れに沿ってたどるメインルートと地域の特徴を活かした8本のテーマルートが設定されています。

 

@・・・ひょうごシンボルルート   
A・・・丹後・丹波伝説の旅ルート
B・・・越前戦国ルート              
C・・・近江戦国ルート              
D・・・お伊勢まいりルート         
E・・・修験者秘境ルート           
F・・・高野・熊野詣ルート         
G・・・なにわ歴史ルート           

    歴史街道計画では、これらのルートを舞台に
  「日本文化の発信基地づくり」
  「新しい余暇ゾーンづくり」
  「歴史文化を活かした地域づくり」
を目指し,
    官民188団体によりソフト・ハード両面の事業が推進されています。

◆歴史街道テレフォンガイド

     テレビ番組「歴史街道〜ロマンへの扉〜」と連合した各地の歴史文化情報を提供しています。
                  TEL:0180−996688    約3分 (通話料は有料)

 

◆歴史街道倶楽部のご紹介

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