月〜金曜日 20時54分〜21時00分


阪神間の美術館 

 今回は阪神間の特色あるユニークな美術館にスポットを当ててみた。それぞれ個性的な収蔵品を展示しており、総合美術館にはない作品が鑑賞できる。


 
湯木美術館(大阪市)  放送 11月19日(月)
織部串団子文香合 国内外の著名な彫刻家の作品が点在する大阪・御堂筋から、平野町に入ったところにあるのが湯木美術館。初代館長だった湯木貞一氏は日本料理店「吉兆」の創業者で、湯木氏が50余年にわたって収集したコレクションを寄贈、昭和62年(1987)に吉兆平野店の跡地に建てられた8階建ビルの1階〜3階に開館した。日本料理を総合芸術の域にまで高めたと評価され、料理と茶の湯を人生の両輪としたのが湯木氏である。
 この美術館には湯木氏が収集した茶道具を中心に、茶懐石の器や古美術品など約970点が収蔵され、重要文化財11点、重要美術品3点が含まれている。
 「猿鶴蒔絵手箱」は、茶道具や懐石の器の中から小さな愛らしい作品を集めて組入れてある。
織部焼の「織部串団子文香合」は身・蓋に緑釉、白釉を掛け分け、蓋表には鉄釉で串団子状の文様を描いている。
(写真は 織部串団子文香合)

浪華名所図屏風(右隻) 奈良時代の作の「絵因果経」は、釈尊が前世に菩薩であった時の善行を集めた本生譚と仏伝を説いた経典4巻からなっている。
 「浪華名所図屏風」は、元禄時代の大坂を描いた八曲一双の屏風。当時の代表的な観光名所を左右一双にわたって描いている。右隻は神社仏閣を中心に芝居町や田園風景など大坂の南部を西から見おろしている。中央に四天王寺、右に住吉神社を配し、四天王寺の左には舞台造りの新清水寺、勝鬘院の多宝塔などが見える。画面左下の日本橋の右には道頓堀の芝居小屋があり、役者の紋を描いた櫓が建っている。
 左右1双の屏風には815人の人々が描かれ、それぞれの衣装は簡略ながら一人一人丹念に描き分けられ、右隻は春と夏、左隻は秋と冬の景色となっている。
 大坂の市街地と近郊の景観を一双に描いた作例はほかになく、活気あふれる商都と観光都市のにぎわいが、ていねいな筆致で生き生きと描かれている貴重な作品である。
(写真は 浪華名所図屏風(右隻))


 
鉄斎美術館(宝塚市)  放送 11月20日(火)
富士山図(左隻) 清荒神清澄寺は平安時代初めの寛平8年(896)宇多天皇の勅願寺として創建された古刹。火の神、かまどの神、水商売の神さんとして庶民の信仰を集め、毎月27、28日の荒神縁日は大勢の参詣者でにぎわう。山門へ向かう参道脇には店が建ち並び、門前町の風情を色濃く残している。
 その境内に寄棟造りの高床式の建物の聖光殿・鉄斎美術館がある。南画家・富岡鉄斎(1836〜1924)の絵画や書をはじめ、鉄斎が絵付けした器物、手作りの陶器類、彼が先人の構図、筆法、彩色などを学び取るために模写した粉本など晩年の傑作を中心に約1200点を収蔵する。
 美術館の周囲は自然の緑に包まれ、前庭には鉄斎ゆかりの地、京都貴船・鞍馬・天竜峡、伊予の名石を配しており、美術鑑賞にふさわしい雰囲気をかもし出している。
(写真は 富士山図(左隻))

鳩峰・五瀬・春日三景図 清荒神清澄寺の第37世法主・光浄和上が富岡鉄斎との機縁で、その作品に流れる宗教心と高い芸術性に打たれ、約50年をかけて鉄斎の作品の収集と研究に打ち込んだ。光浄法主の後を継いだ光聰和上が先代の理想と遺志を継承して、鉄斎の作品を公開展示するため昭和50年(1975)に鉄斎美術館を開館した。現39世法主・光謙和上は、これら貴重な鉄斎の作品を永く後世に伝えるため平成11年(1999)に収蔵庫を建設した。
 鉄斎は社寺の光景、社寺縁起や歴史上の故事を主題にした図を大和絵の技法で描いており、そのひとつが「鳩峰・五瀬・春日三景図」。鳩峰は石清水八幡宮の西の峰の名、五瀬は伊勢神宮、春日は春日神社のこと。
 また明治8年(1875)に富士山に登山した鉄斎は、その体験を皮切りに生涯富士山を敬愛し、いろいろな描法で数多くの作品を残しており、「富士山図」はその中でも掉尾を飾る作品と言われている。
 鉄斎美術館の入館料はすべて宝塚市立中央図書館へ寄付され、同図書館内に設けられた「聖光文庫」の図書購入費に充てられている。
(写真は 鳩峰・五瀬・春日三景図)


 
芦屋市立美術博物館  放送 11月21日(水)
小出楢重アトリエ(復元) 芦屋市立美術博物館は平成2年(1990)に芦屋市制施行50周年記念事業として、開館した。美術部門と歴史部門を併せた複合施設で、芦屋を拠点に盛んな創作活動を行った洋画家・小出楢重(1887〜1931)、吉原治良(1905〜72)ら芦屋ゆかりの作家の作品を中心に内外の名画、名作が鑑賞できる。
 庭園には白壁が美しい小出のアトリエが復元され、画材や椅子、人形など遺愛の品も展示されている。小出の名作を生み出した芦屋のアトリエは、小出の没後、小出の弟子の画家が所有していたが、老朽化して昭和62年(1987)に取り壊されたが、その際、作成した実測図面をもとに平成2年(1990)に復元された。
(写真は 小出楢重アトリエ(復元))

「横たわる裸女A」1928 小出は大阪の薬種商の三男として生まれた。昭和10年(1935)の渡欧を機に明快な色彩と要約されたフォルムによる独自の画風を確立し、一連の裸婦像の作品を生んだ。
 大正15年(1926)芦屋へ転居したが、裸婦像の開拓者と言われる小出が、その名を高めた裸婦像を数多く生み出したのが芦屋時代の5年間だった。この時代は裸婦像だけでなく静物画、風景画においても小出芸術が実り豊かに展開した時だった。「裸婦の楢重」と言われているが、意外なことに裸婦作品は少なく30余点にすぎない。静物画に比べると半数以下、風景画に比べてもさらに少ない点数になっている。
 裸婦を描くのに「西洋人より日本人の方が好きだ。理想を求めずそれぞれのモデルの味を描くのが面白い」と言っていた。小出の裸婦は均整のとれたプロポーションではなく、足が短く胴長の日本女性の特徴を逆手にとって描いている作品もある。
(写真は 「横たわる裸女A」1928)


 
香雪美術館(神戸市)  放送 11月22日(木)
「十二か月花鳥図押絵貼屏風」酒井抱一 神戸市御影の閑静な住宅街の中に建つ香雪美術館は、住吉川の石を使った玉石塀など昔のお屋敷のたたずまいを見せている。明治12年(1879)大阪朝日新聞の創業に加わり、今日の朝日新聞の基礎を築いた村山龍平氏(1850〜1933)が収集した美術品を一般に公開するため、昭和48年(1973)翁の40年祭を機に建設、オープンした美術館。「香雪」は村山龍平氏の号。収集品は絵画、書蹟、刀剣、武具、仏像、茶道具など多岐にわたっている。
 村山氏が武士の出身とあって、初期には刀剣類の収集に心を注ぎ、正恒、吉家、行真、俊長など、国指定の重文2点、重要美術品4点などの名刀が多い。絵画は俗に「踊布袋」と呼ばれる「布袋図」、雪舟の「山水図」などから、探幽、光琳、応挙、さらに歌麿の美人画まで多彩だ。また薮内流の茶道を修めた数奇者として数多い茶道具を集め、仏像のコレクションでは、豪放な村山氏の性格を反映して等身大に近い立像や石像が多い。
(写真は 「十二か月花鳥図押絵貼屏風」酒井抱一)

業平東下り香炉 「高野切(こうやぎれ)」は古今和歌集にある2首の歌を流麗な仮名書きしたもので、紀貫之筆として貴重視されている。「十二か月花鳥図押絵貼屏風」は六曲一双の押絵貼屏風で、季節の花鳥を描いたものだが、雨や雪をともなう図もあるのがこの作品の特色とされている。「業平東下り香炉」は、伊勢物語の中で業平に擬せられた人物が東国へ下る姿を香炉にしたもので、馬の背の部分に灰を入れ香をたく。
 「桂籠花入(かつらかごはないれ)」は、千利休が桂川で漁夫が腰にさげた漁籠をもらい受け、花入れに仕立てたもの。その後、多くの茶人を経て香雪美術館の所蔵となった。この花入れには赤穂浪士にまつわる伝承がある。吉良上野介の本物の首は船で品川へ送り、高輪の泉岳寺へ届けられた。代わりにこの籠が布に包まれ槍にさされて意気揚々と引きあげる赤穂浪士とともに泉岳寺へ向かった言う。籠の底部にある槍のきず跡がそれを物語っていると言われる。
(写真は 業平東下り香炉)


 
神戸市立小磯記念美術館  放送 11月23日(金)
「踊子」1940年頃 21世紀の海上文化都市を目指して作られた六甲アイランドの広大な芝生の公園内にあるのが神戸市立小磯記念美術館。延床面積4000平方m、収蔵作品は約2500点にのぼり、規模、内容ともに全国有数の個人記念美術館と言える。この美術館には神戸を愛し続けた小磯良平(1903〜88)が神戸で制作した油絵、版画、素描などが収蔵されている。
 回廊で囲まれた中庭を配し、ゆとりのある芸術鑑賞の空間を持たせ、中庭には小磯良平のアトリエを移築、復元して、創作の場となった雰囲気を味わえるようにしてある。
(写真は 「踊子」1940年頃)

アトリエ(移築復元) 小磯良平は明治36年(1903)貿易商の次男として神戸市で生まれる。代表作として「踊り子」「着物の女」など、清らかで気品ある女性像は多くの人に親しまれている。
他に神戸銀行本店(現さくら銀行)の壁画「働く人びと」や赤坂迎賓館の壁画「絵画」「音楽」を制作している。
 館内では小磯作品の展示のほかに110インチのハイビジョン機器による大型画面で、小磯良平の画業や代表的な作品をわかりやすく紹介している。
 小磯良平は昭和63年(1988)85歳で死去した。その翌年、遺族から油絵、素描、版画など約2000点とアトリエ、蔵書、諸資料が神戸市に寄贈され、記念美術館を建設して収蔵した。
(写真は アトリエ(移築復元))


◇あ    し◇
湯木美術館京阪電鉄、地下鉄御堂筋線淀屋橋駅下車 徒歩5分。
鉄斎美術館阪急電鉄宝塚線清荒神駅下車 徒歩20分。 
芦屋市立美術博物館阪神電鉄芦屋駅下車 徒歩15分。 
香雪美術館阪急電鉄神戸線御影駅下車 徒歩5分。
JR山陽線住吉駅下車 徒歩10分。
神戸市立小磯記念美術館JR山陽線住吉駅、阪神電鉄魚崎駅から
 六甲ライナーに乗りかえアイランド北口駅下車。
◇問い合わせ先◇
湯木美術館06−6203−0188 
鉄斎美術館0797−84−9600 
芦屋市立美術博物館0797−38−5432 
香雪美術館078−841−0652 
神戸市立小磯記念美術館078−857−5880 

◆歴史街道とは

     日本の歴史の舞台を尋ねながら、日本文化の魅力を楽しみながら体験できる
ルートのことです。
     伊勢・飛鳥・奈良・京都・大阪・神戸の歴史都市を時流れに沿ってたどるメインルートと地域の特徴を活かした8本のテーマルートが設定されています。

 

(1)・・・ひょうごシンボルルート   
(2)・・・丹後・丹波伝説の旅ルート
(3)・・・越前戦国ルート              
(4)・・・近江戦国ルート              
(5)・・・お伊勢まいりルート         
(6)・・・修験者秘境ルート           
(7)・・・高野・熊野詣ルート         
(8)・・・なにわ歴史ルート           

    歴史街道計画では、これらのルートを舞台に
  「日本文化の発信基地づくり」
  「新しい余暇ゾーンづくり」
  「歴史文化を活かした地域づくり」
を目指し,
    官民188団体によりソフト・ハード両面の事業が推進されています。

◆歴史街道テレフォンガイド

     テレビ番組「歴史街道〜ロマンへの扉〜」と連合した各地の歴史文化情報を提供しています。
                  TEL:0180−996688    約3分 (通話料は有料)

 

◆歴史街道倶楽部のご紹介

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