月〜金曜日 18時54分〜19時00分


桜井市・初瀬

 真言宗豊山派の総本山長谷寺は「花の寺」とも呼ばれ、春の桜、初夏の牡丹、梅雨のあじさい、秋の紅葉と四季おりおりの美しさで訪れる人の目を楽しませてくれる。西国三十三カ所の観音霊場の第八番札所として知られ、古くから女性の信仰を集めてきた。長谷寺を中心に歴史と自然に恵まれた初瀬の里を歩いてみたい。


 
長谷寺縁起 放送 10月2日(月)
 桜井市初瀬、初瀬川のほとりのこの里に真言宗豊山派の総本山長谷寺がある。
 寺の歴史は古く7世紀にさかのぼるという。寺伝によると朱鳥(あかみどり)元年(686)、僧道明が天武天皇の病気平癒のために西の岡(現在の五重塔があるあたり)に銅版法華説相図を安置したことに始まるという。これは銅版に、地中より三重宝塔があらわれ、千仏が集まって釈迦説法をたたえたという法華経見宝塔品のシーンを浮き彫りしたもので、国宝に指定されている。図の下には319の文字で造立の願文が記され、長谷寺の始まりを伝える貴重な寺宝である。

本長谷寺

(写真は 本長谷寺)

徳道上人像

 そののち奈良時代に入ると徳道上人が、聖武天皇の勅命により、衆生のために東の岡に十一面観音をまつったという。時に神亀四年(727)のこと。徳道は観音信仰に篤い人物で、西国三十三ヶ所観音霊場巡りを始めた人物ともいわれている。これにより長谷寺では、三十三ヶ所観音霊場の根本道場であるとしている。
 以来、観音信仰の中心地として貴族から庶民にいたるまで多くの人々の信仰を集めて、今日に至っている。

(写真は 徳道上人像)

 室町時代に描かれた長谷寺縁起絵全6巻(奈良県指定文化財)には長谷寺の創建と本尊十一面観音造立の由来がテーマになっている。通常の絵巻物に比べると縦のサイズが約1/2になっていて、このようなスタイルの絵巻を「小絵」という。
 詞書は公家の近衛尚通、絵は土佐光茂と伝えられている。画風からも室町時代、宮廷画家であった土佐派の作風をうかがうことができる。

長谷寺縁起絵巻

(写真は 長谷寺縁起絵巻)


 
西国三十三ヶ所 第八番札所 放送 10月3日(火)
 長谷寺に詣でて印象的なのは仁王門から本堂にかけて延々と続く登廊(重要文化財)だろう。
 後朱雀天皇の長暦三年(1039)に春日大社の神官であった中臣信清が、わが子の病気平癒を長谷寺に願をかけ、無事快癒したことからその礼として造ったのが最初とされている。上中下の三廊からなり、石段の数は399段。下廊と中廊は明治二十二年(1889)に再建されたものだが、古式をよく今に伝えている。ニ間おきに長谷型の灯篭を吊り下げ、独特の雰囲気をかもし出している。

登廊

(写真は 登廊)

本堂

 登廊を上がりきると左手に本堂(重要文化財)がある。
 小初瀬山中腹の断崖に南面して造られた本堂は京都清水寺の本堂と同じく懸崖造り(舞台造)となっている。正面(内陣)と礼堂(外陣)の二部構成となっていて、正面は桁行9間、梁間5間の入母屋造り。礼堂は桁行9間、梁間4間で、奈良県では東大寺大仏殿に次ぐ、いかにも本山寺院の本堂にふさわしい堂々たる大建築である。

(写真は 本堂)

 本堂内陣には本尊十一面観音像が安置されている。平安時代から中世にかけてこの観音への信仰は長谷信仰ともいわれるほど盛んで「古今和歌集」「枕草子」「源氏物語」「更級日記」「蜻蛉日記」など数多くの文学作品に登場している。特に女性の間で長谷信仰は盛んであったようだ。
 西国三十三ヶ所巡りの巡礼者姿が絶えない長谷寺は真言宗豊山派の総本山。全国各地に三千余りの末寺を数え、壇信徒も約300万人という。 ご詠歌は「いくたびも参る心ははつせ寺 山も誓いも深き谷川」。

本尊 十一面観音菩薩立像

(写真は 本尊 十一面観音菩薩立像)


 
長谷寺の寺宝 放送 10月4日(水)
 長い歴史を誇る長谷寺は、文化財が豊かであることでも知られている。
 本堂の本尊十一面観音立像(重要文化財)は右手に錫杖、左手に水瓶を持っていて、このスタイルの十一面観音像を特に長谷寺式と呼んでいる。奈良時代に徳道上人によって始めて造立されて以来、何度も消失と造立が繰り返されていて現在の像は室町時代の天文七年(1538)に造られたものである。高さは三丈三尺六寸(約10メートル)もあり、木像としては日本最大のもののひとつである。

本尊 十一面観音菩薩立像

(写真は 本尊 十一面観音菩薩立像)

二十五菩薩来迎図

 本尊十一面観音の向かって右に難陀龍王立像(重要文化財・鎌倉時代)がある。八大龍王のひとりとされ春日明神として信仰されている。頭上に龍をいただき中国式の冠と衣服を身に着けている。
 本尊向かって左には雨宝童子立像(重要文化財・室町時代)。長谷寺のある初瀬山を守護する八大童子のひとりで、天照大神としても信仰されている。髪を「みずら」に結い、冠をかぶった姿をしている。 本堂内部の壁画は二十五菩薩来迎図となっている。

(写真は 二十五菩薩来迎図)

 長谷寺に伝わる寺宝の多くは宗宝蔵に保存・展示されている。 館内には長谷寺の由来を伝える国宝の銅版法華説相図をはじめ銅造十一面観音菩薩立像(重要文化財・鎌倉時代)、地蔵菩薩像(重要文化財・平安時代)、不動明王坐像(重要文化財・平安時代)などがあり、春と秋に時期を限って一般の見学にもこたえている。

不動明王坐像

(写真は 不動明王坐像)


 
長谷寺門前 放送 10月5日(木)
 長谷寺は西国三十三ヶ所の札所というだけでなく四季折々の楽しめる「花の寺」としても多くの参詣客を集めている。 特に圧巻なのが登廊の周辺に植えられた牡丹。150種類、7000株にもおよぶ牡丹園は日本最大級の規模を誇っている。

牡丹

(写真は 牡丹)

門前町初瀬

 長谷寺の門前町初瀬は近世には伊勢街道の宿場町としても栄えてきた。街道をゆく旅人たちの中には本居宣長のような文人の姿もあった。
 初瀬の里にはかつてのにぎわいをしのばせる昔ながらの家並みが続いている。町の中ほどには伊勢辻があり「右いせ道、左なら大坂」と刻まれた道標が残っている。

(写真は 門前町初瀬)

 長谷詣でのお土産は吉野葛や三輪そうめんなどがあるが、やはり草もちを忘れてはいけない。 門前には草もちを商う店が六軒あり、すべて店で手作りしている。かつては編み笠餅といい、茶店で食べさせていたものという。あんこをよもぎを入れた草色の餅で包んだいたって素朴なお菓子ながら、店ごとに工夫を凝らしているそうだ。

草もち

(写真は 草もち


 
隠国の初瀬 放送 10月6日(金)
 長谷寺のある初瀬の里は古代には「隠国の泊瀬(こもりくにのはつせ)」と呼ばれていた。万葉集巻8には大伴坂上郎女(おおとものさかうえのいらつめ)がこの地を詠んだ歌が記されている。
 隠口(こもりく)の 泊瀬(はつせ)の山は 色付きぬ しぐれの雨は 降りにけらしも
長谷寺から見た山々

(写真は 長谷寺から見た山々)

豊かな植生

 長谷寺の向かい側にある山が与喜山(455メートル)。戦前までは皇室の御料林だったために入山が禁止されていて、手付かずのまま豊かな植生が現在まで残されることになった。暖地性植物をメインに亜熱帯性植物や寒地性植物が入り混じった森は貴重なものとして国の天然記念物に指定されている。
 山腹には与喜天満宮があり地域の人々の信仰を受けている。毎年10月20日に行われる祭りでは、近辺の人々が神輿をかついで勇壮に練り歩く。

(写真は 豊かな植生)

 長谷寺より初瀬川をさかのぼること約5キロ、滝倉(たきのくら)の集落がある。戸数わずか十数戸のこの里に、長谷寺の奥の院ともいわれる瀧蔵神社がある。
 瀧蔵神社の祭神はイザナギノミコト、イザナミノミコト、ハヤタマノミコトの三社権現。朱の鳥居や入母屋造の拝殿は昭和五十九年(1984)に修復、新築されたもの。本殿は流造で極彩色がほどこされている。長谷寺の地主神とされ、地元では長谷寺に詣でても、瀧蔵神社に詣でなければご利益は半分しかないと伝えられている。

龍蔵神社

(写真は 瀧蔵神社)


◇あ    し◇
長谷寺 近鉄大阪線長谷寺駅下車、徒歩15分。
◇問い合わせ先◇
長谷寺  0744−47−7001
白酒屋(草もち)0744−47−7988

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