ヤン・リシエツキ ピアノ・リサイタル
プロジェクト3×3 vol.4
[ピアノ]ヤン・リシエツキ
日時 |
2011年10月30日(日) 14:00 開演 13:00 開場 |
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会場 | ザ・シンフォニーホール |
料金 | 全席指定 3,000円 |
一般発売日 | 2011年5月22日(日) |
優先予約日 | 2011年5月20日(金) |
プログラム | 【予定される曲目】 J.S.バッハ:平均律クラヴィア曲集 第2巻 第14番 前奏曲とフーガ 嬰ヘ短調 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第24番 リスト:3つの演奏会用練習曲 第1番「悲しみ」 第2番「軽やかさ」 第3番「ため息」 メンデルスゾーン:厳格な変奏曲 ニ短調 J.S.バッハ:平均律クラヴィア曲集 第1巻 第12番 前奏曲とフーガ ヘ短調 ショパン:12の練習曲(「エオリアンハープ」「蝶々」「木枯し」など) |
お問い合わせ先 | ABCチケットセンター 06-6453-6000 |
神の技&悪魔のインスピレーション
ヤン・リシエツキ ピアノ・リサイタル
プロジェクト3×3 vol.4
輝かしいコンクール歴を重ね、将来有望な新進気鋭のアーティストが、3年間にわたり東京・名古屋・大阪の3大都市でリサイタルを行なうプロジェクト3×3。ヴァイオリンのパク・ヘユンさん、ピアノのリーズ・ドゥ・ラ・サールさん、ヴァイオリンの三浦文彰さんに続いて登場するのは、カナダ出身のピアニスト、ヤン・リシエツキさんです。
リシエツキさんは1995年生まれ。昨年秋、日本デビューとなる東京・紀尾井ホールでのオール・ショパン・リサイタルでは、金髪の美少年然とした容貌からは想像もつかないような悪魔的なテクニックと独自の解釈で、聴く者に衝撃と強い印象を残しました。
今回のリサイタルのためにリシエツキさん自身が選んだプログラムは、《音楽の旧約聖書》J.S.バッハの平均律クラヴィア曲集の前奏曲とフーガ、《同・新約聖書》ベートーヴェンのピアノ・ソナタ、メンデルスゾーンの変奏曲、《ピアノの悪魔》リスト、そして東京で聴衆を打ちのめしたショパンの練習曲集です。
16歳の天才少年に宿る神技と魔術、奇蹟と創造の瞬間にあなたも立ち会ってみませんか?
《ヤン・リシエツキさんロング・インタビュー》
2011年8月25日、両親の故郷ポーランドのワルシャワで、ヤン・リシエツキさんは、《ショパンとその友人たち国際フェスティバル》に招かれ、オーギュスタン・デュメイの指揮するシンフォニア・ヴァルソビアとともに、モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番K.466を演奏しました。
その翌日の朝、インタビューに応えてくれた様子を、ここにご紹介させていただきます。
リサイタルのプログラムはどのように組みますか?今回のプログラムについても、教えてください。
―リサイタルのプログラムを組むことは、他のどのプログラムを決めることより、自分自身により多くのことを求められます。そして非常にパーソナルなものでしょう。たとえば、同じ年齢であっても、同じ都市で学び、そして同じ先生から教えを受けていたとして、同じようなレパートリーを持っていたとしても、きっとプログラムは異なるはずです。というのは、みんなそれぞれが違うビジョンを持っているからです。
私自身の場合で言えば、バッハの演奏から始めることを好みます。バッハが大好きですし、その作品にはいつも魅了されます。またクラシック音楽の基礎・原点というような意味合いもあります。みなさまもバッハは好きだと思いますし、そこから他の作曲家へと拡げていきます。
その次には、普通聴いたことがないかもしれない曲、あっても聴く機会が少ないかもしれない作品をおくのが好きなのですが、それは私の目的ではありません。私のゴールは、音楽的に魅力のある曲、みなさんが好きになれる曲で自分自身も演奏を楽しめる曲です。ですので、聴いていてあまりに難解な曲、演奏する事だけが目的になってしまうような曲は入れないようにしています。
今回のリサイタルも、やはりバッハからスタートします。そしてまた後半もバッハから演奏します。それは、クラシック音楽のルーツに戻ると言う意味合いからです。バッハに続いて、ベートーヴェンを演奏しますが、このソナタはバッハに続いて演奏するのにとてもマッチしていると思います。調性(嬰へ短調→嬰へ長調)も関連しています。
リストの3つの演奏会用練習曲(エチュード)は、それ自体が非常にコントラストのある作品です。それぞれの曲の中でも様々な要素を含んでいます。同じエチュードであっても、それはショパンのエチュードとは全く異なります。リストの作品は一つの側面に焦点を充てたものではありません。
ショパンのエチュードは、それぞれに主たるアイデアがあり、12のエチュードでは、それぞれ一つのアイデアがその曲の最後まで貫かれます。リストにおいては、マルチプル(複数)なアイデアで曲が構成されています。
今のところ私は、一人の作曲家の作品のみでプログラムを組むことはあまり考えていません。そして、みなさまも私のことをよりよく知るために、同じように思うのではないでしょうか。
たとえばショパンだけのリサイタルの場合、みなさまは、私がショパンをどう理解し演奏するかは感じることができても、他の作曲家に対してどう感じているかどう演奏するかということはわかりません。そして、やはり複数の作曲家を加えることによって、異なるスタイル、複数のアイデアといった要素が加わり、コントラストを感じていただけるでしょう。色彩感ともいえるかもしれませんね。
とりわけ好きな作曲家は?
―好きな作曲家はたくさんいすぎて・・時代の流れから始めると、バッハがとても好きです。そしてモーツァルト、ショパンが好きです。でもショパンの時代に戻って考えると、ショパンもバッハ、モーツァルトが好きだったのです。そしてリストですね。
作曲家というくくりでは難しいかもしれません。多かれ少なかれその作曲家の残した作品の数々を個別に見れば、そこにまた好き嫌いはあるでしょう。そして、それぞれの作曲家はまた多様な側面を見せてくれますから、同じ音楽としてくくれるものはないのです。
現代音楽への興味はありますか?
―もちろんあります。現代音楽はクラシックのレパートリーとは同じ俎上では語れないかもしれませんが、音楽は発展を続けていますし、スタイルもますます多様化しています。
モーツァルトの時代にハイドンを見ると、同じとは言いませんが、ある意味共通したスタイル、似ているスタイルと思えるかもしれません。ですが、今の時代を見ると、音楽は完全に拡がりきっています。スタイルも新古典主義、新ロマン主義、前衛主義などなど・・・演奏家の私にとって、とても大事なのは、表現者として伝えられる何かがあること、メロディがあるということでしょうか。
メシアンが好きです。もちろん今、彼をモダンとは言わないかもしれませんが、それでも現代音楽の作曲家といえると思います。私は、メシアンの作品の中に表現として伝えられるものを感じます。
現在も活躍中の作曲家たちとの交流は?
―はい。先日会ったカナダの若い作曲家とは友達ですし、ペンデレツキももちろん知っています。昨日の演奏会にも来てくれましたよね。クラシック音楽の世界は狭いので、何らかのかたちで知り合いになれるチャンスは多いかもしれません。
クラシック音楽以外の音楽はいかがですか?
―ジャズを聴くのが好きです。特にこれという好みはないのですが、全てのスタイルのジャズどれでもです。私にとってジャズは大変興味深い音楽のフォームです。
そして、他には、ピンク・フロイドが好きです。これは父の影響でしょう。子供の時聴く機会が多かったことにもよります。音楽に対してはどのジャンルということなく、私はとてもオープンです。多くの要素がクラシック音楽からポップスへ、またその逆もあり、何らかの関連があるのです。ある種の音楽は理解できないものもあります。ですが、それぞれみんな好みがあるということで否定はしません。私には、他のジャンルの音楽を聴くことは、とてもハッピーなことです。
ただ、ジャズは好きとは言っても、演奏することはありません。いくつかそのスタイルを取り入れて作曲をしてみたことはありますが・・・私はクラシック音楽に満足していますし、この世界にとどまっていたいのです。ですので、他のみなさんが演奏するジャズを楽しみます。
ポーランド人の両親をもち、ヤンさん自身はカナダ国籍ですが、何かその2国間での想いはありますか?
カナダにはヨーロッパのような歴史はありません。本当の意味でのカナダ人というのは非常に少数で、ほとんどかどこからか来たカナダ人ということになります。マルチ・カルチャーな国であり、だれも、あなたがどこから来たかという事など気にもないと言う感じが私は大好きです。とても人々にあたたかい国でみんな優しいのです。
ポーランドは音楽だけを見てもショパンを始め、たくさんの作曲家をあげるまでもなく歴史のある国です。ポーランドには豊かな文化があります。歴史的にその国が分断され地図から消えると言う時期はあっても、つねに抵抗してきて復権をなした国民性がポーランド人にはあります。私はポーランド語も話します。両親はカナダ、祖父はポーランドで暮らしていますので、その両方を知ることができます。
人々は、ショパンを演奏するにあたってポーランド人であることで演奏に違いがあるか?という質問をします。そして、みなさんはYESという答えを期待していると思います。ですが、答えは、YESでもあり、NOでもあります。
ポーランド人であると言うことがすべてではないのです。私は、この国のことを知っています。ショパンが書き残したこと、私はその風景を知っています。ショパンはある時期パリで過ごし、ポーランドを離れていました。そのことは作品にも影響しています。それらのことを知ると言うこと。これは演奏に違いを生みます。ですが、ポーランド人としての血が、影響するとは信じていません。私はよりよくポーランドのことを知ろうと思いますが、それは血によるものではありません。
ショパンは大好きです。でもこれは私がポーランド人の血を引くからではなく、偉大な作曲家だからです。
―カナダ人はカナダ人であることを意識するのを、ちょっと面白い方法でしているかもしれません。唯一みんながカナダ人であることを誇るのは、7月1日のカナダ・デーです。
それ以外の日は、自分たちは国旗を愛し、国を愛しつつも、大声で、おれたちはカナダ人だ、行け行けカナダ!と叫ぶことはありません。そういう意味では、静かにカナダ人であることを楽しんでいるともいえます。イタリア人が母国を誇る、そのような感じではありません。カナダはマルチ・カルチャーの国で、いろんな国の社会が存在します。その交流はありますが、絶対ではない、そういう意味ではリベラルな国です。
ポーランドへは産まれてすぐのころに初めて訪れ、すでに何度も行き帰しています。 祖父が暮らしていますので。 4年前に初めてポーランドで演奏したのですが、それはやはり特別な想い出です。 そこに祖父もいて演奏をすることができたと言うのはとてもうれしいことでした。
言葉はカナダでは英語を話しますが、ポーランド語とそしてフランス語も話すことができます。日本語もいつか加えてみたいと思います。見る字が美しいこと、そして響きがジェントルで、心地よいところが素敵です。
今年の夏について教えてください。
―今年の夏は特別でした。旅をしては演奏という日々でした。もちろん毎年予定は違いますし、また当然ながら音楽家の生活においては安定というものはなく変化していくものです・・・私は、変化していくことが好きです。今年の夏はそう意味でもめまぐるしい夏でした。ベルヴィエ音楽祭、ラロック・ダンテロンピアノフェスティバル、カナダ、アメリカ、旅続きでしたが演奏することは大好きですし、素晴らしい夏で、それはまだまだ続いています。(注記:この後、パリ管弦楽団のシーズンオープニングのソリストという大役が控えていた。パーヴォ・ヤルヴィの指揮でモーツァルトの協奏曲第20番を演奏。パリっ子達を熱狂させる大成功を収めました)
いくつかのエピソードを。
―ラロック・ダンテロンなど、野外での演奏会もありました。空調の効いた部屋にあったピアノを野外に持ち出すのは、環境変化があまりに激しく、湿気の差や温度の差等の影響もあり、調律師にとっては大変なことでしたが、私は野外での演奏も好きです。自然を愛していますから。蚊や虫が出たりもしますが、それは私たちの生活の一部ですから、問題ではありません。鳥たちが演奏中に一緒に歌ったり・・・そう、私はカナリアを飼っています。旅続きの生活なので、犬や猫を飼うことは難しいのです。そのカナリアは、とりわけモーツァルトが好きなんですよ。
ベルヴィエは、残念ながら演奏会の前日の深夜に到着し、朝の演奏会が終わって、午後の1時には、出発という非常に短い滞在でした。とても美しいところで、楽しい経験でした。残念ながら街や風景を楽しむ時間はありませんでしたが、すでに来年再度呼ばれることが決まり、7日間滞在する予定ですので、それを楽しみにしています。
これからの夢についてお聞かせください。
―それは私にはタフな質問です。私はいわゆる、ドリーマー(夢想家)ではないのです。過去についてはいろいろあっても、まさに今現在がハッピーなことなのです。私は、旅をしつつ演奏をしています。そのことがこれからも続いていけば本当に幸せなことです。それが私の夢なのかもしれませんね。
夢を達成するのに必要なものは何でしょう?
―普通にしていては、何も起こりません。小さな子供たちに良く言うことがあります。もしあなたに夢があるなら、それに向けて何かすること。そうすればきっと何かが実現できると。夢が実現しないのは、しないなりに、その背後には何か必ず理由があるものだと思います。理由がなく起こることなんてないのです。そして悪いことを数えて行くより、何かをしていくことの方がずっと良いですよね。その意味では私の場合は非常に多くのことがありました。私の家系は音楽一家というわけではありません。ですので、私たち家族のみんなにとって、全てが新しく発見していくことの連続なのです。お互いにおきていくことから学び続けて、決定をしていかなくてはなりません。それが私たちなのです。新鮮で豊かに向かって行きたいものです。
コンサートの準備はどのようにされていますか?
―旅の続く生活なのですが、レパートリーの勉強や準備は自宅にいる間に可能な限りやるようにしています。私は、旅が好きですし、また訪れる街ではその街をもっと知りたいと思っています。ですので、各地のホールではすでに準備が出来ている状態であるように努めています。またそれは、ピアニストの場合は、どこへでも楽器を持っていくことができない、どこででも練習出来るわけではない、ということにも関係しているかもしれません。
今後のレパートリーについて教えてください。
―ベートーヴェンにまず取り組みたいです。そしてショパンのまだ演奏していない曲、バッハ、そしてリストでしょうか。リストについては、どのピアニストも一生かけても、全てを学ぶことは不可能だと思いますが、新しい曲、レパートリーを学んでいく作業はエキサイティングです。協奏曲についてはシューマンを準備していますし、ベートーヴェンの第4番もプランに入っています。そして、ドイツ・グラモフォンへの録音のためにモーツァルトの第20番、第21番の準備を続けています。
演奏会翌日の朝というのに、全ての質問に真摯にそして真正面から答えてくれたヤン・リシエツキさん。16歳という年齢が信じられないほど、しっかりとした考えの持ち主でした。
その一方で、ふと、インタビューの話題を離れると、まだまだ少年のあどけなさや、無邪気さを見せてもくれました。今後の成長が本当に楽しみなピアニスト。みなさんでその成長をぜひ見守ってゆきましょう。「ヤン・リシエツキ ピアノ・リサイタル」は、もう間もなくです。