2011年2月13日放送
4軒縦並びの家
■計画性の無い増改築を繰り返した結果、別々の建物が、縦一列に4軒並んで繋がるという、特殊な形状の家になってしまっている
■お母さんは、通りに面した建物で家業の仕出し料理屋を手伝いながら、真反対側の建物の寝たきりのおばあちゃんを介護するため、26メートルの距離を1日に何度も往復している
■仕事場と住居がごちゃ混ぜになっているため、どこへ行くにもいちいち靴を履いて行かねばならない
■家中に揚げ物の臭いが充満しているため、年頃の二人の娘さんは、髪にその臭いがつかないように、いつもフードを被って部屋を移動している
■汲み取り式のトイレは窓が無く、鍵も掛からないため、家に友達を呼ぶことができない一番の原因になっている
■ちゃんとした脱衣所が無い浴室は、冬場には凍えるほど寒く、温まるどころか逆に体が冷えて風邪をひくほど
■おばあちゃんの車椅子の幅が58cmあるのに対し、家への出入りの為に用水路に掛けた橋の幅が60cmしかなく危険
■用水路を挟んだ向こう側に物干しがあるため、1m幅の用水路を跨いだ状態で洗濯物を干している
世代と動線の修復師
村尾泰史
大きなポイントとして、お母さんを中心におばあちゃんの介護をしやすくすることと、店舗と住居の整理をすること。先ずそこに注力する。そして、4つの建物が室内で機能的に結びついていくと同時に、1軒の家として外観の修景をしていきたい。
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お父さんの新たな城
屋根瓦のひさしの下、真っ白な壁に映える美しい黒い格子に掲げられたのは、愛用してきたまな板で作った新たな看板。その奥に広がるお店は、調理から仕上げまで、ここだけで全ての作業ができるよう空間を整理整頓。すっかり機能的になりました。娘さんたちも、もう匂いの心配をしなくても大丈夫です。
中央に置かれた盛り付け台には、以前使っていた木箱を引き出しとして再利用。食器が数多く収納できるので、たくさんの注文が入っても、食器を取りに家中を走り回る必要はもうありません。
すぐに洗い物が出来るよう、盛り付け台に備え付けられた大きなシンクは、お店のマークが刻まれた天板ひとつで作業スペースに早変わり。シンクの傍には、洗った道具がそのままかけられる、縦の空間を生かした収納場所も設けられ、まさに至れり尽くせり。
この盛り付け台、注文が多い時には、盛り付けスペースをさらに伸ばすことが可能。隣の三段の盛り付け台と合わせれば、一気に90個ものお弁当を作ることができるのです。
店舗の奥には、様々な伝票や書類が置ける収納棚も備え付けられた、専用の事務スペースが誕生。住居への入り口は、利便性を考え2箇所設けました。事務机の前の壁は、スケジュールや注文のメモが書ける便利なホワイトボードになっています。
寝たきりのおばあちゃんと、
介護するご家族のために
玄関から入ってすぐの場所が、新たなおばあちゃんの部屋になりました。ベッドに横になりながらも、季節を肌で感じてほしい。そんな「匠」の優しさで選ばれたこの部屋には、サンテラスからの明るい光と、中庭の緑が溢れます。
もちろん、暑い時や寒い時には、ブラインドで光を調節。おばあちゃんも安心して休むことができます。
その窓とアプローチとの段差を極力なくすことで、直接、部屋から外へ車椅子を出すことも出来るようになりました。そのまま楽々と移動できるスロープの先には、車椅子用の出入口が。2つに増えた、用水路に架かる橋の1つは、車椅子で渡る際の安全面を考慮して大きく幅をとりました。
部屋には、おばあちゃんの心地よさはもちろん、介護する側への配慮もぎっしり。介護専用のシンクに、必要なタオルなどがたっぷり入る収納。さらにその一角には、おばあちゃんとともに長い人生を歩んできた思い出の品がありました。それは、かつて厨房ともう一部屋に、上下を分けて置かれていた水屋だんす。埃と油ですっかり汚れていた見た目は、新たに取っ手はつけ変えたものの、綺麗に洗っただけで元の美しい木目が甦り、まるで新品のよう。
さらに「匠」の心遣いがもう一つ。おばあちゃんが好きな桜を、お母さんと二人の娘さんに油絵で描いてもらい、それをプラスチック製の丈夫な障子紙に印刷し、建具にはめこみました。目の前で咲き誇る桜の花。家族の絆を繋ぐ宝物がまたひとつ増えました。
心に安らぎを
段差だらけだった4軒の家をフラットに繋ぐために作られた廊下は、中庭からの光が差し込む、明るい暖かな空間。その壁を彩る、心をほっとさせてくれるたくさんの絵は、以前お母さんが趣味で描いていた油絵。日々の仕事とおばあちゃんの介護に追われ、いつしか部屋の片隅に追いやられてしまった沢山の絵でしたが、「匠」が廊下をギャラリースペースにして飾りつけました。
絵や中庭をゆっくり眺められるよう、その廊下の窓辺にはベンチも用意。天板を開ければ大容量の収納としても大活躍。
店舗と住居部分をつなぐ廊下の途中には、娘さんたちの念願だったゆったりできる水洗トイレと、しっかりと扉がついた洗面スペースが設置されました。これからは身支度の時も、厨房の匂いを気にしてフードを被ることはありません。
洗面スペースに隣接するお風呂には、夢にまで見たゆったり手足が伸ばせる大きな浴槽が。脇の窓からは明るい日差しがいっぱい。その光の源は、減築によって生まれた外部スペース。この開放感に、すっかりリラックス。ついつい長風呂してしまいそうです。
さらにこの外部スペースは、収納としてはもちろん、お母さんの大好きな植物を置く場所としてもうってつけです。
家族団らんを願って
すっかり使われなくなっていたダイニングキッチンも、家族団らんの場として復活。
天板をかえ再利用した新たなシステムキッチンは、まさに「匠」のアイデアの宝庫。見た目は昔のままながら、使い勝手は抜群。深いシンクにセットできるステンレスのパーツは、お母さんの料理の動線が少しでも楽になるようにと考えた、「匠」の思いやりアイデアグッズ。
そして何よりお母さんがうれしいのは、家中を移動しなくともキッチンの窓から中庭を挟んで おばあちゃんの様子をいつでも伺えること。これで安心して料理をすることができるでしょう。
ダイニングに設置した、食器棚を再利用した大きな収納と、その収納の裏に位置する階段下の空間を有効利用した納戸のおかげで、たくさんの物を片付けることができるようになりました。
4人がけのダイニングテーブルは、その天板の下に隠してあるもう1枚の天板を、食器棚とテーブルのレールに差し込んで、6人がけに変化させることができます。
ゆとりある空間づくり
ダイニングから続くリビングは、以前からあった梁をむき出しにして、天井を高く、より開放的な空間として仕上げました。ここでも壁に飾られたお母さんの絵が目を惹きます。
そんなリビングの目の前に作られた、もう一つのリラックス空間。それはリフォームで減築したスペースを利用して設けたウッドデッキ。これまで用水路を跨いで洗濯物を干していたお母さん。ここでは景色を眺めながら、ゆっくり干すことができるはず。さらに軒下には、ワイヤー式の物干しが。家族5人分の洗濯物も干せる、心強い味方です。
リビングの奥にある、以前はおばあちゃんの部屋だった和室は、畳だけを新しいものに。新たな客間となりました。
大阪府堺市
株式会社 岩田建設
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