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うーん、参った

■このお休みにちょっとすごい映像作品を観てしまいました。少し前にNHK・BS-hiで放映されたのを録画していたものですが、『日本のいちばん長い夏』というテレビ番組です■どういう作品かというとですねー、何というかとりあえず構造がめちゃくちゃ複雑なんです。

1963年、雑誌・文藝春秋が、ある座談会を企画しました。第二次大戦末期の、敗戦に至る日本のリアルな状況を、当時さまざまな立場にあった当事者の口から聞き出し、記録して後世に残そうという試みです。出席者は、終戦当時政府や軍の要職にあった人、戦地で死線をくぐり抜けて生きのびた人など総勢28人。司会が、当時33歳の文藝春秋社員だった半藤一利氏■この座談会はすぐさま大反響を呼び、大作映画『日本のいちばん長い日』の原点にもなりました。今から3年前に改めて出版もされています■さて、ややこしいのはここからです。このテレビ番組『日本のいちばん長い夏』は、

《この座談会の模様を再現ドラマとしてテレビ番組に仕立て上げようとするテレビ演出家を主人公としたドラマ》なんです。

"超"のつくメタ構造です■平凡なテレビ制作者が半藤氏の著作『日本の・・・』をテレビ番組にしようとしたら、まず、当時の出席者の発言の『中身』を再現ドラマや資料映像で再構成しようと考えるでしょう。『座談会自体を再現』しようとはまず考えないはずです。しかし彼は、スタジオに高級料亭の大広間のセットを組み、座談会そのものを再現しようとしました。なぜか?実はこの番組は、この『再現ドラマ』を企画・演出した初老のディレクター自身の『やり直し』のドラマでもあるからなのです。つまり、彼にとってこの番組作りは、今は亡き自分の父から聞けなかった戦争の記憶、あるいは父との対話という体験そのものを、仕事を通じて取り戻す作業でもあったのです■そしてさらに特筆すべきは、このディレクターが企画した座談会再現の手法がタダモノではない!というところです。いわゆる『文士劇』なんです。著名な作家やジャーナリストの方々本人が、終戦当時に高級官僚や軍人だった人物を演じているのです。鳥越俊太郎さんが終戦当時陸軍中将だった人の役、田原総一朗さんが日本共産党幹部、アニメ監督・富野由悠季さんが陸軍大将、漫画家・江川達也さんが上等兵・・・しかもそれは過去の肩書きで、座談会の時点ではそれぞれ戦後日本社会の重鎮として活躍しておられる、という難しい役どころ■僕がこの番組でいちばん素晴らしいと思ったのは、この『文士劇』スタイルが単なる『意表をついた演出』にとどまっていない点です。『知的ではあるが、演じること・語ることが本業ではない』文士たちの大真面目な演技によって、俳優では決して出せないであろう独特のリアリティを醸し出すのに成功しています■このリアリティの在り様は、恐らくこの番組のテーマに密接に関連しています。すなわち、戦争という愚行そのものに対しての怒り、組織の体面に囚われて冷静な判断ができず、敗戦が決定的になってからポツダム宣言受諾に至るまでの期間に膨大な数の同胞の命を失ってしまったことに対する悔恨、そしてそれら掘り返したくない記憶を公の場でさらしているやりきれなさ・・・それらあまりにもゴツゴツした感情のエッジが、演技者本人の批評眼とないまぜになって、その無骨な演技からにじみ出ているのです■書いているだけでややこしくて頭がクラクラしてくるわけですが、異色の作品で、ホントとにかく面白かったです。でね、実はこの作品、この夏劇場公開されているみたいなんですよねー(艦長)

 

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2010年08月13日金曜日
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2010年08月17日火曜日
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