■ABCホールプロデュース公演『だーてぃーびー』について書こうとすると、いろんな思いが交錯してなかなか難しいのです■まず大前提として明記しておかねばならないのは、担当者としてナンですが、意欲的で素晴らしい作品だったということ。公演としても大成功でした。後藤ひろひと氏の巧みな脚本と演出に、黒田有さんをはじめとする俳優陣、そして後藤ワールドを知り尽くしたスタッフ陣ががすばらしいパフォーマンスで応えてくれました■後藤さんにとって5年ぶりの新作戯曲ということでしたが、自分の作品の中でも相当お気に入りの本になりそうだとは自らの弁。彼は、ケルト風ファンタジーからドタバタ現代劇まで様々な風合いの作品を書いてこられていますが、これほど現実に密着した、リアルなコメディは珍しいのではないでしょうか。過去にテレビの世界を扱った後藤作品としては、「天才脚本家」が有名ですが、ヤラセ専門のテレビ番組と国家レベルの陰謀が絡んだ、もう少し見た目のスケールの大きい(笑)お芝居でした■今回の「だーてぃーびー」は、その点では実に異色です。どこにでもありそうな大阪のテレビ番組が、そこに集った様々な人々の思惑の錯綜によって思いもかけない方向に暴走していく物語。日ごろ多くの人々が目にしているワイドショーの、カメラに切り取られる前の生の姿を見せようという趣向で、これ以上ないほど日常的な題材です。しかし、それだけにある意味で大きな危険を孕んでいると思うのです。ご覧になった方は高々全部で1500人強とはいえ、皆さんが平均1日3時間も接している巨大メディアの実態を赤裸々に暴く。壊されたくもなかった幻想を、お節介にも一撃で壊してしまうかもしれない・・・大袈裟にいえばそんなたくらみなわけですから■リアルタイムで番組が進行するドタバタの中で、生放送によくある小さなトラブルに始まり、芸能界とマスコミの関係、東京キー局と大阪局との関係が生々しく描かれます。そしてやがて、民放テレビ局の経済的存立の根幹に関わる問題にまで、話は及ぶのです■前にも書きましたが、終始笑いに包まれた客席の中で、僕がドキリとしてしまうのはやはりそんな場面。中でも一番緊張するのは、アシスタントの局アナ・吉永みらが小野弁護士の質問に対して困ったような笑みを浮かべながら、「えー・・・はい」と答える瞬間です。ご覧になってない方には何のことやらですが、つまり(僕のような)民放社員の給料の元についての、小野女史のあまりに身も蓋もない発言と吉永アナの微妙な反応に、何度聞見ても胸がやられてしまうのです■番組の混乱の度合いは次第に大きくなり、作家・滝沢良兼と羽曳野の伊藤という2人の暴走コメンテーターのおかげで完全なカタストロフィを迎えるかにみえるのですが・・・。そこで大きく物語の方向を変えるのがTwitterの反応です。ネットスラングにまみれた、しかし意外にも好意的な視聴者のつぶやき。このリアルタイムの反応が、≪生放送の混沌こそテレビの醍醐味≫、という、このメディアの本質を思い出させてくれて、清々しいのです■そしていよいよこのドタバタの中で司会の土橋雄太はある重大な決意をします。『テレビから嘘を抜いたら何が残る?』(これも中々に挑戦的な台詞です)・・・それを視聴者に披露する、あまりにも恐ろしい実験を土橋は生放送中に決行するのです。ここから先、僕は何度も目頭を熱くしてしまいます。身につまされたり、カッコ良さに震えたり。・・・結局この作品、なんだか自分でもまだよく咀嚼できていません。大評判の映画「シン・ゴジラ」みたいに、誰かと、とことん語り合ってみたくなる作品であるような気がします。舞台についても。テレビについても■あ、素晴らしい出演者の方々については、近日中に感想をまとめます!(艦長)
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- 2016年08月31日水曜日