■書かなければ、と思っていて少し遅くなってしまった件■京都の劇団・ヨーロッパ企画の代表で、作・演出をつとめる上田誠さんの作品『来てけつかるべき新世界』が、第61回岸田國士戯曲賞を受賞しました。ほぼ満場一致といってよいほど文句なしの受賞だったそうです。いやほんとうにおめでたい!■『来てけつかるべき新世界』は昨年秋、全国10都市で上演されていますが、大阪公演はここABCホールにて。ヨロキカの舞台としては珍しく、「大阪・通天閣のほど近く」と場所が特定されている作品で、まあウチが"ご当地"といってよいでしょう。それはともかく、僕は京都、大阪と2回拝見したのですが、これまでとは少し語り口を変え、ヨロキカらしさを保ちつつも、万人に文句なくお勧めできる作品に仕上がっていたと思います■関西からの受賞はたしか久しぶりです。想像ですが、戯曲賞の選考って本当に難しいはずです。戯曲はいわば演劇の設計図です。岸田戯曲賞はその名の通り、舞台成果ではなくあくまで戯曲に対して与えられえる賞ですが、やはり上演された作品を観た人とそうでない人とでは、読んだ際のイメージの広がりに差があるはずです。審査委員は野田秀樹さん、ケラリーノ・サンドロヴィッチさん始め当代を代表する演劇人ばかり、戯曲読みのプロ中のプロの皆さんです。それでもやはり、東京在住者にとって鑑賞機会の限られる地方発の作品は、ハンディキャップがゼロだとは言い切れないような気がするのです。そんな中、ぶっちぎりで受賞する快挙!いやー喜びを言葉で表わしきれません■ご存知の方も多いと思いますが、上田さんの実家は上田製菓本舗というお菓子製造業を営まれていて、ご自宅と工場が一体となった建物の一角を、劇団の事務所、通称・ヨーロッパハウスが占めていました■個人的な話で恐縮ですが、実は僕も京都の町工場の倅で、学生劇団などをやっていて、けれどプロになれるなどとは夢思わず、さりとて家業を継ぐわけでもなく、サラリーマンとしてとうとう60歳を迎えました。だから、とてもおこがましいのですが、同じく町工場の息子として生まれ立派な演劇人となった上田さんに、自分が選べなかった人生を見るような気がして、一際思いを寄せてしまうのです。同時に、そんな長男の意思を受け入れ、先行きの不透明な芝居の道に進むことを許し、工場の一角で活動する劇団メンバーをいつもわが子同様に可愛がっておられた上田さんのお父様のことも、とても愛おしく思っていたのです■そのお父様が、去年6月急逝されました。工場は閉鎖されたとのこと。名物のラスクも、もう食べられません。受賞がもう一年早かったら、と周りの大勢の方が思われたのではないでしょうか。けれど、今回の受賞の報は、きっとお父様のところにも届いているはずです。それに、日本の演劇史に刻まれる受賞作品名は、『来てけつかるべき新世界』が、ヨーロッパ企画にふさわしいような気がします。だから、今回でよかったんじゃないかな、って■いつまでも瑞々しい感性を失わず、全国の舞台や、テレビや、WEBや、イベントで、今日も各メンバーが活発に活動を続ける『永遠の若手劇団』ヨーロッパ企画、これからも新世界目指して躍進を続けてください(艦長)
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- 2017年03月10日金曜日