■ご無沙汰しております、艦長です■2008年5月の開館より、このABCホールの責任者として誰に断ることもなく「艦長」を名乗っておりましたが、ついに本日、この名を返上する時がやってきました。定年退職です。2007年の3月から開館準備の業務に携わっていたので、ちょうど10年になります。いやあ、いろいろなことがありました。でもこれまで大きな事件事故を起こさず、このホールが関西の舞台芸術の発信場所のひとつとして皆様に認知してもらえるように育ったのは、ご来場いただいたお客様、上演団体の皆さん、そしてド素人の僕を支えてくれた技術担当の柴田さん、制作の猪瀬さん、宮川さんを始めとするプロフェッショナルな皆さんのお蔭です。感謝の気持ちの一端を、ここに記させてください■元々演劇や演芸が大好きな性分で、そういう芸能に関わりつつ、自分でも作品を作り、広く発信し、なおかつ安定した生活も得たいというずうずうしい思いから放送局を志望し、願いは概ね叶えられ、最後は小劇場の支配人という、夢の原点とも云えそうな職を得ました。幸せな人生だね、とよく言われます。実際そうだと思います。有難いことです■でも・・・これは偏に僕の力不足からなのですが、10年前、「キミ来月から新ABCホール担当ねー」と、人事担当者から電話で告げられ、正直に告白すればかなりのショックを受け、無論一介のサラリーマンとしてその定めは受け容れざるを得ないと覚悟した時から、ずっと念じ続けてきた僕の目標は、遠くに霞んだままです。それは、ABCホールが、舞台芸術とこの会社の本業である放送を多角的に結び付ける架け橋になることです■ABCホールで上演された舞台作品を放送する、あるいはABCホールで活躍する舞台人がラジオ・テレビの出演者や作家として起用される、というのがまずはシンプルな形。一歩進んで、たとえば劇団と局が人とノウハウを出し合って、複数のメディアにまたがったコンテンツを構築する、などということも考えられます。放送業界も困難な時代に突入して久しく、こんな夢見がちな発想はきっと一蹴されるわけですが、巨大なお笑いプロダクション以外にも、将来の放送界を担うべき人材は隠れているに違いないのです■昨年、この朝日放送で『第1回 劇的!ABCドラマグランプリ!!』というテレビ番組が放送されました。関西で活動する演劇人を対象とした短編コメディの脚本募集に、およそ100の応募があり、3本が実際にドラマ化されました。「劇場には、こんなスゴイ才能を持った人たちがいたのか!」という、若いテレビディレクターの驚きがこの企画の原点にあります。僕が一番嬉しかったのは、その思いです。全体としては色々反省点もある1回目だったとは思いますが、なに、今をときめくM-1グランプリだって、1回目の審査方法なんか日本中から酷評されたのです。今なら大炎上です。願わくば、この小さな灯がこのまま消えてしまわないことを祈ります■そんなわけで、この9年、僕は何も出来ませんでしたが、劇場というのは有難いもので、たくさんの出会いがありました。「次もよろしくお願いします」と言われればホっとし、「いつかはここでやりたいです」と言われれば涙してしまいそうになりました。うん、いいものです劇場は。これからもABCホールをよろしくお願いします。長い間本当にありがとうございました!(2017年3月31日 艦長・山村啓介)
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- 2017年03月30日木曜日