桜の花が散った湖畔を歩いていると、まだ芽も出ていない大きな木に出会った。 見上げると、その姿はまだ冬のままで、この明るい春の日差しの中に取り残され、うつむいてしょぼくれている。 ところがふと見下ろすと、鏡のような黒い湖面に、無数の花びらが散らばっている。 なるほど、どうやらこの大木は、しょぼくれているのではなくて、花を身にまとった美しい自分の姿に、我も忘れて見入っていたようだ。 私は、気付かれないように、静かに近づき、そっと覗き込んだ。