岩代王子にて

 再び海岸沿いを進む。
 険しい道を、足元に注意しながら歩を進めていたことが、まるで嘘のように視界が開け、陽に輝く海原が眩しい。
 晴れていたらきっと心地いい砂浜で、風の強い今日は、少し怒ったように波が打ち寄せてくる。
 遠くで飛沫が白く煙り、気が付くと、どんどんと波が陸に向かって伸びて来いていた。
 白い泡のような海水に、思わず足をすくわれ、一人苦笑う。
 そういえば、当時この旅は禊ぎを繰り返し、目的地を目指したという。海に出れば、海水で禊いだそうだ。
 そんなことを思い出しながら、濡れた足と三脚の足の滴を振るい落とす。
 今、はじめて禊がれたことになるのだろうか・・・。
 この旅、まだまだ先は長い。

 
熊野街道
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Photo:Shuji Enmando