中辺路は富田川沿いに進む。 初秋のこの日、空はまだ夏の強い日差しが残り、眼下の河の流れが恋しい。 思わず重い靴を脱いで、その冷たい流れの中に足を滑りこませてみたい。 この富田川は、かつては岩田川と呼ばれた。 『平家物語』には、「此河の流を一度も渡るものは、悪業煩悩無始の罪障消ゆる」と記され、熊野の霊山から流れてくるこの川は霊域に入るための禊ぎの水でもあった。 車で移動する今日、どれだけの人がこの川を素足で渡るのだろうか? 先を急ぐ私としては、今回は遠慮してシャッターを切ってすぐさま車に飛び乗ることにした。