旅の途中、目の前で日が暮れようとしていた。
ちょうど旅の出発点、大阪の方角には、紀伊の山並が遥か彼方に続いている。
道は既に中辺路へ入り、まるで熊野の懐へ足を踏み入れたような心境だ。
高原熊野神社のとなりのこの尾根の宿場町は、今、赤い夕陽を浴びて黄金色に染まる。
いつしか心は天上にいるようで、つい言葉を失い、ただ目の前に繰り広げられる光景に見とれてしまっていた。
「おっちゃん!」
その大きな声に我に返る。
子供たちが、まんまるな目をクリクリさせながら、無邪気に駆け寄ってくる。
「なんやあ!」
こっちも、つい気のいいおっちゃんになって、笑顔で返す。
夕暮れの匂いが一杯たちこめるこの小さな集落に、昔から何も変わらない平和な一日が終わろうとしていた。
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