ほんの少し前まで、突き抜けるような澄んだ夜空に無数の星が煌めいていた。 ところが、東の空に夜明けの気配を感じると同時に、それが起こり始めたのだった。 まずそれは眼下に流れている熊野川を埋め尽くし、山の尾根で夜明けを待つ私の足元を覆い尽くそうとしていた。 東の空がなんとも言えない藍色に染まるのを見届けて、それはついに私を飲み込んだ。 それから数時間、私は雲の中に取り残されたかのように、視界の存在しないその山頂で時を刻むことになる。