■ある種の人形を作るときのお話。ある限定された状況で、人間の代用品として用いられる人形です。基本的に女性を、それも美人を模ってデザインされます。持ち主の擬似恋愛の対象となることもありそうです。当然作り手は、本物の人間にいかに似せるかに腐心します。顔かたち、肌の色、肌触りや弾力・・・■さて、いま仮に、「人形が人間に似ている度合い」を横軸に、「その人形の好感度・魅力の大きさ」を縦軸にとってグラフを作ってみます。すると当然、似ている度合いが高まるにつれ、次第に魅力はアップします。すなわち右肩上がり■ところが、似ている度合いがグラフの右端、つまり「完璧」に近づく少し手前で、急激に好感度が落ち込む部分があるのです。つまり、逆に強い嫌悪感を催させてしまうゾーンが。そこを超えると再びグラフは急上昇し、一気に最高値まで達するらしいのですが・・・■この急な落ち込みを『不気味の谷』と呼ぶのだそうです■・・・そう云えば、思い当たることありません?蝋人形館に迷い込んだときの不思議な恐怖感。よくニュースなどに登場する最新の人間型ロボットに感じる独特の気味悪さ■この現象は科学として誰もが認めているわけではないようですが、経験的にはしばしば観察されます。人間は自分に似すぎているものが必ずしも好きではない。似ていれば似ているほど、ほんのちょっとした違和感が際立ってしまう・・・■だから例えば、完璧な女性を再現することが不可能な以上、人形師はしばしば顔の一部をデフォルメし、わざと人間から少し遠ざけます。最近急速に発達しているCGアニメ映画の世界でも、余りに精巧で人間的なキャラクターはかえって観客に好まれないため、わざと解像度を下げたり、フォルムを単純化したりするそうです■『不気味の谷』の科学的根拠として引き合いに出されることがある話ですが、人間の知覚は『境界』を強調する傾向があるらしい。例えば、濃い灰色の紙と薄い灰色の紙をぴったり並べて置き、それを見ると、人間の目と脳は、その境目付近で、濃い方はより濃く、薄い方はより薄く感じてしまう。つまり、コントラストが強調される、と■人間は『違い』に敏感なんですね■科学の粋を集め、事故で亡くした息子そっくりのロボットを作り出した天馬博士は、やはり彼が息子と同一ではありえないことに腹を立て、やがてその怒りは憎しみに変わり、彼・アトムを放逐してしまいました■悲しいかな人間は、『ちょっとした差異』がすごく気になってしまう生き物なんです■ひょっとしたらこの性向が、他人を妬む、憎む、差別する、など、人間の負の精神活動の基になっているのかもしれない。そう考えるともうこれは『不気味』どころではない深い深い谷なわけですが・・・■ん?ちょっと色っぽい話をするだけのつもりだったのに、何だか暗い結論になってしまったぞ(艦長)
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- 2010年01月15日金曜日