渡辺さんが訪問して最初に目についたのは、特徴的な犬矢来(いぬやらい)。それに代表される京都の町家らしい佇まいに感心しつつ、玄関の扉を開けます。
扉の向こうで待ち構えていたのは、通り土間。そして吹抜け。渡辺さんが町家の雰囲気が漂う玄関周りを味わっていると、ご夫婦と可愛い娘さん達が出迎えてくれました。
渡辺さんが気になったのは、通り土間の足元に設置されている、穴の空いた竹。奥さんに何かと訪ねてみると…「あっ!!」
渡辺さんを驚かせたのは、その穴から溢れ出した光。以前この家で使われていた階段の手摺りを「匠」が再利用して作ったもので、風流な足元のライトになっています。
古い材を活かしつつ新しい材も濃く塗りこめて古材の趣を出す。そんな作りの空間が生み出す落ち着きを、ご主人も気に入っており、いつも丹念にワックスを塗っているとのこと。
リフォーム前、屋外同然の寒さの中、衣類を脱がなければならなかった浴室。その問題を解消し、出来上がった浴室は、「匠」がご家族をイメージして作ったもの。もちろん、ご家族が一番のお気に入りのスペース。
娘さんが手を洗いたいと水周りスペースに駆け込んできました。そこで活躍するのが、洗面台の傍に収納されている踏み台。まだ洗面台に背が届かない娘さんでも、余裕をもって手を洗うことができました。
リビングへの扉をくぐった渡辺さんが目にしたのは、隣の和室を通して臨む庭でした。
「美しい…」
ため息混じりに漏らした感動は、窓を開け放つと更にその魅力を増しました。和室から縁側、庭へと続く眺めが、空間の広がりをより一層感じさせてくれるのです。
縁側に出た渡辺さんが、庭にシンボルを見つけました。それはリフォーム前に使われていた鬼瓦。渡辺さんは、鬼瓦を職人さんが精魂込めて丁寧に作っていることを良く知っているだけに、再利用されていることが嬉しそう。
続けて案内されたのが、トイレ。なんとご主人曰く、このトイレから部屋を横切って見える庭の眺めがベストポジションだそうで。でも、トイレの扉を開けっ放しにしなければ見えませんので、ご家族には受け入れてもらえていないようです。
カウンターが素敵なキッチン。腰掛けた渡辺さんに、奥さんからおしぼりが渡されました。すっかりお店気分でその雰囲気を楽しむ渡辺さんです。そんなカウンターキッチンや和室から庭を眺めながら食事をいただけば、まるで高級料亭の様相。渡辺さんは歴史と思い出が上手く交錯した空間だと評しました。
「匠」が用意したもので、一箇所だけ使われないままの場所があるといいます。それは駐車スペース。そこに車を止めてしまうと、そこから見える、また違った表情の庭を楽しむことができないからです。再利用された石畳などにも思い入れがあり、なかなか車をここに置く気にはならないようです…