「まさに…町家だ…」
そうつぶやいた渡辺さんの前に現れたのは、築およそ70年の京町家。外観の美しさに感動していると、扉を開け、おばあちゃんが出迎えてくれました。
玄関に通された渡辺さんは、ぐるりと天井を見渡し、その風情と美しさに見とれました。「匠」は、町家の奥ゆかしい様式美を残しつつ、使い勝手の良い家に仕上げていました。その良さは、以前の生活と比べてとても良くなったという、おばあちゃんの言葉からも伝わってきます。
ダイニングキッチンに通された渡辺さんが、まず口にしたのは、その明るさ。天窓から差し込む光が、部屋を煌々と照らします。その明るさに感動していると、娘さんが、天井へと繋がる空間をスライド式の建具で仕切りました。これは、冬に暖かい空気を逃さないために「匠」が用意したもの。
京都の季節毎の激しい温度変化に配慮したシステムを「匠」は導入していました。ダイニングテーブルの傍につけられた「夏」「冬」と書かれたスイッチ。「夏」を押せば天井に溜まった暑い空気が換気扇を通じて外へ排出され、「冬」を押せば玄関に暖かい空気が流れる仕組みです。
以前は通り土間だった場所に設置された新しい水周り。案内してもらうと、以前は家の外にあった浴室も、もちろん今では家の中に。高齢のおばあちゃんを考慮して付けられた手摺りが目に留まります。
町家に欠かせない坪庭が気になる渡辺さん。特に蹲(つくばい)が気に入ったようです。それはリフォーム以前からあったもの。そこから出る趣に惹かれます。うっとりと眺める渡辺さんに、娘さんが障子の説明を。それは下半分を開くことで、ちがった表情の坪庭を楽しめる雪見障子。細やかな「匠」の心遣いが伝わってきました。
以前からあった建具を再利用した収納。その年季の入った建具に触れながら、職人さんに思いを馳せます。そして、その建具を開ければ、奥行きがあり、容量たっぷりな収納スペースが現れ、驚くばかりの渡辺さんでした。
2階へお邪魔した渡辺さん。窓から見える景色や、落ち着いた色合いの家具の趣に、思わず「おしゃれですよ」と感動。
さらにその部屋に隣接する、ポリカーボネート製のスライド式建具のメンテナンス等に使うスペースに足を踏み入れます。そこから眺める吹抜けから天井へ続く景色は、漆喰の白と柱・梁のこげ茶色のコントラストが美しく、渡辺さんも饒舌に。そんなスペースの良い使い道を見つけたおばあちゃん。日当たりと風通しの良さから、ここでお布団を干しているのです。
裁縫が得意なおばあちゃん。なんと今日の日のために、渡辺さんへのプレゼントとして、お手製のメガネケースを作っていたのです。探訪を終えた渡辺さん、渡されると嬉しくてうっすら涙を浮かべるのでした。