リフォーム前の荷物の運び出し。
2階の作業では、老朽化の激しい穴だらけの床板をいつ踏み抜くかわからないため、みんな気が気ではありません。冷や汗をかく場面もあり、慎重に作業が続きます。
大豆などを発酵させるための室(むろ)の中から「匠」が運びだしていたのは、大小様々な樽。全部で70個近くありました。それは、昔醤油を納品するために使われていたもの。保温性があり、杉の香りが心地よい樽ですが、作るのが大変で、今では職人さんも随分減ってしまったと「匠」も少し寂しそう…
屋内から家財道具や建具を運び出しましたが、1つだけ残っているものがありました。それは、醸造所の奥で、長い間眠っていた醤油蔵ならではの遺産。先代のおじいちゃんの時代まで使われていたという、直径2mもある巨大な樽。発酵させた大豆などから醤油を搾った後のもろみを入れておくためのものでした。人力だけで担ぎ上げて運ぼうとしましたが、ビクともしません。
そこで「匠」は、この巨大な樽に一旦シートを被せると、室の外壁を壊し、柱を一本外して間口を広げました。そして、地面に並行に2本の板の道を作り、鉄パイプを並べて、その上に樽を置くと…滑るように動き出しました!なんとも原始的な方法ながらも、軌道修正を繰り返しながら家の外へと運び出し、樽の脱出は無事成功。
ここからようやく本格的な解体が始まりました。醤油醸造の作業場にある、腰ほどの高さの土壁を壊すと、中から巨大な樽が3つ姿を現しました。長い間使われていなかった樽は傷んでしまっており、再びその役目を果たすことはできそうにありません。締め付けていた竹を外すと、いとも簡単にバラバラに。おじいちゃんの思い出と家の歴史が染み込んだ樽が分解されていく様に、4代目である奥さんは駆け寄らずにいられませんでした。
かつて樽を埋め込むのに地面より1.2m掘り下げられた四角い穴の底で、思案に暮れる「匠」の姿がありました。そこにはどこからか染み出したのか、水が溜まっていました。水漏れ箇所と思われる部分をドリルで掘ると、止めどなく水が流れでてきました。裏山から流れ、家の床下に溜まっていた水が溢れでているようです。
開けた穴は、急結止水モルタルという数十秒で固まる速乾性のモルタルで塞ぎました。壁面も別のモルタルで防水。そうして綺麗になった壁面ですが、何故かドリルで穴を開け、透明のチューブをその穴の奥深くに差し込んでいきます。90cm間隔で差し込まれたチューブは全部で33本。
そのチューブの1本に特殊な溶液を流し込むと…なんと別のチューブからぶくぶくと水が上がってきました。さらに注入を進めると、次第に勢いを増し、噴水のように吹き出し始めました。流し込んだのは親水性のウレタン。水が居た場所にウレタンが染み込み、硬化すると、行き場を失った水が外に出てきたのです。こうして地中の水を外へと吐き出した後、チューブは引き抜き、モルタルで穴を埋めます。大きな難題が一つ解決されました。