まずは「匠」による現場の確認です。放置され、施設の中にぽつんと残された約20坪の中庭はとても殺風景なものでした。地面はでこぼこで歩きにくく、使われていない荷物があちこちに置かれている状態です。
足湯作りの第一歩は、使われていない庭の整理から。長年置き去りになっていた荷物を運び出します。数年前に木に飾られたイルミネーションも取り外そうとしたら、木に電気のコードが巻き込まれていました。放置されていた時間を物語ります。
庭に熱風を送り込んでいた室外機は、スペースを有効活用すると共に熱風を庭に送り込まないように、すべて屋上に上げられました。
でこぼこで段差もあった庭の土を、一気に20センチほど重機で剥がしていきます。そこにコンクリートで地面を作り、歩きやすい庭になりました。これで足湯を作る準備が整いました。
かつては誰からも目を背けられてきた殺風景な中庭は、外壁が落ち着きのある格子で囲われた中庭に生まれ変わりました。その中庭のほぼ中心部分には待望の足湯が出来ました。いつでも温まれるように屋根まで完備されています。
新しく設けられた足湯は、高めに作られた座面と手すりのおかげで、おじいちゃんおばあちゃんたちが楽に入れるように設計されています。地元特産の大谷石で覆われたとても立派なものです。
さらに、車椅子に座った状態でも入れるように「匠」が設けたのは大谷石の足置き。斜めにカットされた石の斜面には足がすっぽり納まるくぼみが設けられ、足を上げることなく楽に入れるのです。
湯沸しタイプの足湯は季節などによって簡単に温度調整ができ、お湯は浴槽の足元から出るようになっています。そのおかげで底に溜まりがちな汚れも浮かせて浴槽の外に流せば掃除も簡単。
歩くことも困難だった場所は、コンクリートの土間に優しい風合いの大谷石が敷かれました。そして手すりの間に格子の間仕切りを入れることで、安全に楽しんで歩くことの出来る京都のような小道を演出しました。道の入り口には「格子塀小路」の文字と書かれています。これは書道が得意な施設のおじいちゃんに書いてもらったものです。
格子塀小路の反対側には、大谷石が目線より低い高さに積み上げられた「大谷石塀小路」が続きます。温かみのあるこの小道を抜ければ、中庭をひと回り。1周するだけで様々な風景に出会えます。
夜になるとまた違った雰囲気に包まれます。間接照明が美しい中庭はまるで高級温泉旅館さながら。時間によって移り変わる風景も楽しめるようになりました。
地面よりやや高い位置にあった排水升のせいで、水を使うたびに水浸しになっていた中庭。それを三和土にすることで、高さを排水升とそろえて水はけの問題を解消。もう雨や、水を使うたびに地面が水浸しになることはありません。
これまでは庭を見ることもなかった窓際は、季節ごとにうつろう景色を眺めることの出来る絶好の場所に。ここから直接中庭に出入りできるので、コミュニティの場が1つ増えました。
ボイラーやエアコンの室外機の熱風に悩まされていた浴室の外壁は、格子を壁から少し離して配置し、苔むした築山を設けました。壁との程よい距離が浴室を使う人も、外を歩く人も気を遣わずに済みます。
中庭を彩る色とりどりの花が並ぶ花台。これは使われていなかったベンチを再利用したもの。ベンチの足を組み合わせて、穴の開いたプレートを乗せた鉢植えテーブル。その高さも、車椅子に乗ったままお花の世話が出来るように計算されています。