屈託と孤独。柴咲コウが演じる物語の主人公、大門真由は若くしてこの両方をあわせ持つ新人刑事です。真由にとっての屈託は、自分を産んだ母の顔も名前も知らないことであり、孤独とは唯一の肉親である父の命が間もなく尽きようとしていること。抗うことのできない運命を前に真由は、心に重石を抱えたまま他者に理解を求めない生き方を選び、父と同じ刑事の道を歩んでいます。
熱くもなく冷たくもなく、ただまっすぐな視線。不用意に他者と交わらない無意識の距離感。そんな真由の気質を、柴咲は雪原に立つ一本の木のように凛とした姿で表現。華やかな衣装に身を包むでもなく、派手なアクションを繰り広げるでもなく、ただひたすらに役と深く向き合った女優、柴咲の魅力を、静かに堪能できるスペシャルドラマがこの秋、誕生します!
物語の舞台は、すべてのものが凍りつく冬の北海道・釧路。殺人事件を扱う捜査一課の刑事としてまだ駆け出しの真由は、年老いた男性の遺体を二体、立て続けに目の前にします。一つは雪に埋もれた冷凍状態で、もう一つは凍てつく海で。一見、無関係に思えた二つの事件を結びつける接点を、真由は捜査を地道に積み重ねる中で発見。それが突破口となり、事件の原点は遠く1960年代の青森へと遡っていくのです…。
真由の刑事としての成長と、時間と空間を超え誰一人望まなかった結末を釧路で迎える事件の謎解き。その2つをじっくり描く今回の物語には、本格的な作品にふさわしくドラマ好きを唸らせる役者陣が顔を揃えます。
半人前の真由を導く頼れる先輩刑事には沢村一樹が、事件の舞台となる釧路で有名な水産加工会社を経営する女社長には余貴美子が、真由と冬のスケートリンクで顔を合わせる独り身の女性には宮本信子がそれぞれ扮し、ドラマの屋台骨を築きます。また、余命宣告を受けた身で刑事としての魂を娘に託そうとする真由の父には塩見三省が、さらには嶋田久作、品川徹、岸部一徳、といった芝居巧者が脇を固め、密度の濃いドラマ世界を仕上げていきます。
撮影は冬の釧路で敢行。キャストとスタッフが文字通り寒さに閉ざされた釧路に缶詰めとなり、心血を注いで作ったドラマの完成にどうぞご期待ください。
今回、朝日放送の創立65周年を記念して作られたスペシャルドラマ『氷の轍』は、直木賞作家の桜木紫乃がドラマのために原作を執筆。ドラマの放送と書籍の出版が連動したメディアミックスを展開し、注目の女流作家の最新作を映像と文字で世に送り届けていきます。
桜木の筆によって、自身の出身地でもある釧路に産み落とされた大門真由という刑事が、「屈託」と「孤独」に苛まれた人たちにより図らずも引き起こされた事件と出会い、同じ痛みを抱えた人間だからこそたどり着ける真実へと視聴者と読者を導いていきます。話題間違いなしの本作を、ドラマと書籍の両方でぜひお楽しみください。