コメンテーターのつぶやき
巧妙な語り口でニュースに切り込む、おはようコールのコメンテーター陣。 そんな海千山千の識者が、意外な趣味・趣向で文章をつづる『コメンテーターのつぶやき』。 これを読めば、新たな世界が見えてくるかも!?
コメンテーター comenter中川謙
2013年8月7日(水)
「生活」考
「生活の党」を名乗る政党がある。
できてわずか半年。
党首の小沢一郎さんはなかなかの大物らしいが、
この間の参院選ではただの1議席さえも取れなかった。
「生活」乱発の本家は、去年まで政権の座にあった民主党だといわれる。
「国民生活が第一」だとか「コンクリートからひとへ」だとか、
スローガンはあれこれ並べてくれたが、同じ選挙でやはり惨敗。
目を覆いたくなる「生活」集団の弱体ぶりは、一体どうしたことか。
民主党に取って代わった安部政権が盛んに打ち上げるのは「経済」、
ご存知「アベノミクス(安倍の経済)」である。
意外にわかりやすい政策で、とにかくカネをどんどん印刷しては、市場に流し込む。
そうすれば、借金をしてでもモノを買う気持ちが生まれる。
そうすれば、モノを作って売ろうという気持ちも生まれる。
そうすればカネ、モノの流れが活発になり、かくしてデフレ脱却は満願成就。
すべては「そうすれば」の仮定が前提で、先行きは不透明。
はっきりしているのはカネの刷り増しで円安が進み、
輸出部門は何をしたわけでもないのに儲けがバンバン膨らんだ。
その勢いで株も上がり、大手上場企業はたちまち3割増の営業益に笑いが止まらない。
「経済」が元気付いて、さあ「生活」の方はどうか。
円安効果は輸入にはマイナスに働き、原材料はじりじり上げている。深刻なのは、国内ではすっかり生産が衰えた穀類などの食材で、パン、麺類の値上げは避けられない。
まさにお茶の間直撃。では給料は、といえば、大手のボーナスを除けば、
企業収益の恩恵は勤労者向けとしてはほとんどゼロ、いや悪化の兆しさえある。
安部首相もその辺は心得ていると見える。
選挙戦では、景気回復の実感が人々の間にはなお薄いことを認めたうえで「もう少し待ってください」を繰り返した。
アベノミクスなる「国策」を推し進める上で、
人々の「生活」「暮らし」は「もう少し待ってください」と言いたいのだろう。
時代のこの空気、どこかで覚えがある。
あっ、あれだ! 「欲しがりません勝つまでは」
対米戦争という名の「国策」を進めていた当時の政府が、国民に押し付けた戦時標語である。
「戦争に勝てば、きっと君たちにもモノが回る、豊かになる」と言いたかったのだろう。
ついでに「もう少し待って」とも。しかし敗戦の日まで、そのときは来なかった。
この標語作りに関わった故花森安治さんは、戦争遂行の翼賛組織に属していた。
そのことへの痛恨の思いを胸に秘めていた、といわれる。
戦争がどれほど人々の生活を台無しにしたことか、
そしてその実態を覆い隠すのに自分がどれだけ加担したことか、と。
そして戦後ほどなく、雑誌「暮らしの手帖」を立ち上げる。
この雑誌は「暮らしの質」を追求する上で、妥協がなかった。
自前の商品テスト機能を備え、欠陥品は社名を上げて公然と批判にさらした。
メーカーとのいざこざは日常茶飯事、だから企業広告は一切、載せなかった。
おかっぱ頭や女装など話題の多かった花森さんは、同時に信念の人であった。
生活は決して国策や経済のおこぼれによるものではない、
生活者自らの手で求め、築き上げていくものなのだ。
この気概が、あの雑誌の隅々にみなぎっていた。
小沢一郎さん、そして民主党の海江田万里さん、
あなたたちが「生活」を叫んだとき、そこに込めた本気度は、きっと「生活者」から見抜かれていたのでしょう。
「生活者」は「生活」の意味、重みをよくわかっています。
うそはすぐばれます。
生活 = life = いのち、人生・・・。
小沢さん、海江田さん、大きな戦いで一敗地にまみれたいまこそ、もう一度、自らの「生活」観を立て直してください。
次の勝機はきっとそこから生まれます。
以上