コメンテーターのつぶやき

巧妙な語り口でニュースに切り込む、おはようコールのコメンテーター陣。 そんな海千山千の識者が、意外な趣味・趣向で文章をつづる『コメンテーターのつぶやき』。 これを読めば、新たな世界が見えてくるかも!?

コメンテーター comenter井上章一

2010年4月30日(金)

ピリスのモーツァルト

 「レコード芸術」の最新号を見ました。中にCDのランキングを取り上げたところがあります。音楽関係者一押しのCDを推薦し、それを集計して優劣を競い合うコーナーです。
 例えば、モーツァルトのピアノソナタは、誰の演奏したCDがいいか。そんなことを比べあっていました。
 そして、モーツァルトのピアノソナタについては、マリア・ジョアン・ピリス盤(ドイツ・グラモフォン)の人気が高い。「レコード芸術」では、どのソナタでも群を抜いていました。専門家たちの見解が、どうやらこの点については一致しているようです。
 私もピリスのモーツァルトは、6枚組で全部持っています。そして、悪い演奏だとは、もちろん思いません。
 ただ、なんというのでしょうか、やや作り過ぎといった印象が、どうしても漂います。特に、左手のヘアピン・カーブめいた強弱のつけ方が、あざとく響きますね。お化粧がすぎると思います。
 ピリスのモーツァルトなら、若いころにデンオンで録音した方を買いたいですね。これは5枚組で、私はこちらも全部持っている。そして、比べればこちらの方がいい。すがすがしくて、いさぎよい音を聴くことができます。
 グラモフォン盤のピリスは、臈長けすぎているんじゃあないでしょうか。腰をくねらし、身体をかたむけ、媚態にあふれたお姉さんですね。だけど、デンオン盤では、若い娘の清冽さが味わえる。年はとりたくないものだなというところが、私のピリス観です。
 「おはようコール」とはなんのかかわりもない文章を、書いてしまいました。あいすみません。ですが、これからは、機会があれば、ピアノがらみの話を書かせてもらおうと思っています。私に、ピアノをめぐる原稿の注文はありません。そこで、この場をそのハケ口にさせてもらおうというわけです。あしからず、御容赦ください。



コメンテーター comenter中川謙

2010年4月27日(火)

いぬ(ぬ)のいる風景

 このホームページから小寺右子さんの愛犬「モア」が消えたと思ったら、代わって「いぬぬ」(乾麻梨子アナ)がお目見え。世の中は、こんな具合に回って行くのですね。
 わがホーム(家)にも「いぬ」が出現した。それは「去年の春、突然に」(リズ・テーラーの映画に似た題名があった?)。それからというもの、私にとって世の中はどうも変調をきたしたようなのである。
 4月時点で1歳4ヵ月になるオスのチワワ。室内犬だったのが間違いの始まりだった。どんな変調・間違いかといえば。
 
<ひとつ屋根の下に暮らす>
 このチワワ種・シェリーは屋根の下に居場所をしっかりと確保してしまった。昼間のねぐらは2ヵ所。それぞれにベッドとカーペットを置き、カミカミ棒やら人形やらを運び込んで生活の場を築いている。人形はトラだったりライオンだったり、小さなぬいぐるみだが、それをおのれの愛妻と心得ている節がある。キュンキュンと鼻にかかった声を立てて頬ずりをしている。ちょいとヤバイかな。

<川の字に寝る>
 夜の寝床は、当然だ、といわんばかりに、人間様のベッドにもぐりこんでくる。仰向けで大の字になった寝姿は、とうてい犬のそれではない。「じゃりん子チエ」にたしか、こんな猫が出てきたような。いびきがうるさい。朝、ころあいの時間に人の顔をなめて起こすのは、ありがたい気もするが、口の中にまで舌を挿入するのはやめてくれ。

<同じ釜の飯を食う>
 わがホーム、あっ失礼、わが家は電気炊飯器などの助けにはならない。三重県伝統の万古焼の釜で三度の飯を炊き上げる。底にはほどよくおこげができる。シェリーはこれに目がない。まあ、こげ飯を処理してくれるようで、ゴミ問題の観点からは感謝している。

 作家・小川洋子さんは小説の中で動物の使い方が巧みである。『ミーナの行進』ではペットのカバが、毎日の散歩を日課とする。『ブラフマンの埋葬』は主人公の青年が飼う謎の小動物・ブラフマンの正体が、最後まで明かされない。しばしば現実と幻想の間を往来する小川文学の世界にあって、動物が重要な役回りを託されているのは間違いない。
 そうだ、動物、とりわけ犬、中でも屋内犬、中でもとりわけチワワは人間世界を大きく変える可能性を秘めている。現実の光景、意味、成り立ちなど、その一切合財を一変させかねない可能性を。
わがシェリーは、たった4キロの体躯でそれを実行してみせた。シェリーがわが家に一体化したのではない、わが家がこの体重4キロに一体化されたのだ。
 
 さて「いぬぬ」は「おはようコール」の風景をどう一変させるか。次はこれが楽しみ。