コメンテーターのつぶやき
巧妙な語り口でニュースに切り込む、おはようコールのコメンテーター陣。 そんな海千山千の識者が、意外な趣味・趣向で文章をつづる『コメンテーターのつぶやき』。 これを読めば、新たな世界が見えてくるかも!?
コメンテーター comenter中川謙
2010年10月19日(火)
スポーツの秋
たびたび引き合いに出し、恐縮ですが・・・・。
井上章一さんが「チ○チ○」「○ンタ○」などの用語をオンエアで口にして何の違和感もないのは、その人徳による。
では、スポーツジムでうら若い女性インストラクターが「エインブ」「コウモン」「チコツ」「チツ」の単語を連発するのは、どう理解したらいいのか。
スタジオでエアロビクスやヨガをしていて、いきなり大音声がとどろくことがある。
「エインブとコウモンの間を引き締めて!」。はたまた「チコツを床にグイッとこすりつけて!」とか。なかなか美形だな、と見とれたりもするインストラクターにこんな風に言われたら、男はどぎまぎするよね。
ところが、このどぎまぎ感はやがて失せて消える。というより、すべてが「解剖学」の世界に溶け込んでいくのだ。「エインブ」であれ「○ン○マ」であれ、マユゲ、ノドボトケ、ヘソ、ヒザ、クルブシとなんら変わらぬ体の一部じゃあないのかね・・・。
ヨガは私の理解では、体の各部位にテコをあてがい、いったんこれをばらばらに解体するのにも似た作業である。しかる後に、ばらした骨組みを元通りに折りたたみなおす。そのとき、心と身の一体化が生み出す爽快さといったらない。一体化した心身がそのまま宇宙に融合していくような感覚。この気分はエアロビクスでも大差はない。
話題の村上春樹「1Q84」の謎の女主人公「青豆」は、本業がスポーツジムのトレーナーである。自分自身も含め、人体の機能を筋肉の一本一本に至るまで熟知している。時に殺し屋に変身した折は、知り尽くした人体の構造からとっさに急所を探り当て、特製器具の一撃でしとめて見せたりする。
この彼女のなかでこそ、心身の一体化は完成している、と想像する。
その「青豆」トレーナーがやはり、作品の中で「チ○チ○」の語を発している。それも、まるで「ビールと枝豆」を注文するかのような平然さで。
突然、裂けて分かれた2つの世界を行ったり来たりする不思議な物語「1Q84」。宇宙的秩序とわが身体の一体感を味わいたいなら、この作品を読むか、でなければヨガ、エアロビクスの実践をお薦めします。
地上はスポーツの秋たけなわ、フィットネスクラブも大賑わい。