『必殺』の歴史における一番の功労者といえば、藤田まことをおいて他にはいない。『必殺仕置人』以来、長年にわたって中村主水として『必殺』を支え続け、現場スタッフからは“お父さん”と呼ばれて慕われてきた。『必殺仕事人2009』の撮影前には手術を受けたものの、退院後にはリハビリを積極的にこなして撮影に臨み、健在ぶりを見せつけた。その迫力は、まさに仕事人の中の仕事人。“ミスター必殺”藤田まことが『必殺』の真髄を語る。
昔は、脚本に「中村主水の家、別紙、現場にてよろしく」って書いてあったんですよ。現場で作ってくれというわけです。ですから、中村家の3人のやり取りは、監督と相談しながら作っていました。菅井(きん)さんと白木(万里)さんも、「どうせ現場で変わるだろう」って、ホンも持って来ないんですからね。
まず、朝、現場に入ってお昼頃まで、どういうシーンにするかを監督と話すんです。それでお昼休みになったら、菅井さんと白木さんに来てもらって、監督やカメラマン、照明技師たちも交えて話し合うわけです。横には助監督がいて、我々が言ったことをぜんぶ書き写して、それを大急ぎでコピーして全スタッフに渡して、午後に本番になるんです。そんな作業でしたね。
昔、「こういうことをするのはやめてくれ」って言われたシーンがあるんです。ラストシーンの中村家でした。
5月、縁側で柏餅を食べながら、ふと顔を上げる中村主水。その目線の先に、鯉のぼりがあがっていない。そこに母上(せん)が通りかかります。「母上、今年はなぜ鯉のぼりをあげないんですか?」「ムコ殿、鯉のぼりってのは元気な男の子が産まれるように、元気な女の子が産まれるように、元気な子供ができたら、元気に育ってくれるように、それをお祈りして、鯉のぼりをあげるんです。うちはそんな気配は全然ありません。今年から鯉のぼりをあげるのはやめにしました」「そうですか、じゃあ、蔵ん中で、鯉のぼりが寂しそうにしてるわけですね」「いいえ、ちゃんとお役に立つように考えてます」ポンと場面が変わると、中村主水の家が映り、表札がアップになります。そのくぐり戸がすっと開くと、中村主水が、だれか人が来ないかと様子をうかがいます。だれも人通りがありません。すると、ほうきを持った中村主水が鯉のぼりで作った浴衣を着て表を掃除しだすんです(笑)。
「5月だから季節に合った話題はないかな」と、監督と相談して脚本を変えさせてもらったシーンでした。ところが、朝日放送のほうから、「大変面白いけれども、その前がどんなストーリーだったか、ぜんぶあれで忘れてしまう」と言われてしまったんです。ああいう強烈な笑いっていうのはやめてくれ、ということでした。
記者会見のときにもお話したんですけど、今回は陰がある主水をやろうと最初から決めていました。
一番印象に残ってるのは、やっぱり、関ジャニの大倉くん(源太)が途中で死んじゃったことだね。もうちょっと長い付き合いしたかったな。でも、途中から出てきた田中くんもすごいね。存在感がある。東山さんや松岡さんは、もうできあがってますしね。まあ、僕がどこまで支えられるか。僕も最初は支えられてたんですからね。今度は、支えるほうに回ったわけですから、若い人にはがんばってもらいたいですね。
主水の今後?主水は変わりません。絶対変わりません。まあ、当分は南町奉行所の自身番係でいるでしょうね。それに、牢屋番もあるし、池の鯉の番人の仕事もあるし、他にも仕事がありますからね。いろんな役目がありますので、どうぞご心配なく(笑)。
最終回は、「仕事人がこの世の中にいるんじゃないか」というストーリーで展開していきます。とはいえ、長年裏稼業をやってても、姑さんも嫁さんも全然気がつかないのが仕事人ですからね。未来永劫、バレちゃいけないんです。バレたときは、『必殺』はおしまいです。だから、世の中に仕事人なんてのはいないんですよ。『必殺』は、夢の世界ですから。「チャララー♪」と流れたら、夢の世界。(了)