山内久司、仲川利久……『必殺』の歴史は、名物プロデューサーたちが作り上げてきた歴史といっても過言ではない。彼らの後を継いで新しい『必殺』を手がけているのが、森山浩一プロデューサーだ。『必殺仕事人2007』で15年ぶりに『必殺』をよみがえらせ、『必殺仕事人2009』では連続ドラマへと発展させた。『必殺』復活の立役者にして、『必殺』の看板を背負う男が、『必殺』の醍醐味を語り尽くす。
渡辺小五郎という人物像をつかむまでには意外と苦労しましたね。中村主水とは似ているようで違いますし。宮仕えで、昼行灯で、家帰ったらムコ殿で、というところは共通点です。でも、主水をたとえて言えば、学生運動や大学紛争で理想が叶わなくて、そのままサラリーマンになった社会の一番小さい歯車。ですから、サラリーマンとしての不満や違和感を背負って、「これは違うだろう」という存在を斬るのが主水だったんです。
じゃあ、小五郎は何を背負って何を斬るんでしょうか?主水と同世代の人たちは、学生運動を封じ込めて、大きなお城というか、今の日本を作り上げたわけですよね。それが今になって、リーマンショックも広がって、崩れかけてるわけじゃないですか? だから、小五郎にしてみたら、「オレたちは頼んでもいないのに、こんな城作り上げやがって」っていう不満があるんだと思うんです。
僕は「小五郎ってどんなやつですか?」って聞かれたら、「ひとことで言うと、究極の無党派層です」っていつも答えてるんです。既成の政治や法は、あんまり信じてないし、たぶん選挙にもいかないタイプなんだろうなって思うんですよね。で、前の世代の人間たちに対して「お前らが良かれと思って塗り固めたこの城ってのは、ろくでもない城だ」ってずっと思ってる。だから、そういうやつらが城を守るためにいろんな悪事をするときには、容赦なく斬るわけです。おとなしいけど怒ったら怖い男なんだろうなっていうのが、だんだんとわかってきました。
今は、東山さんと向き合って話しながら、「どうやったら小五郎のすごみが出せるのか?」っていうのを一生懸命模索しているところですね。たぶん、東山さんも小五郎のそういう部分をもっと出していきたいって考えてると思いますよ。東山さんは完璧な人ですし、「こんな鼻筋の通ったきれいな人はおらんなあ」と思うほどかっこいい人。でも、小五郎はかっこいいだけじゃだめなんです。
今までの小五郎は、悪人を最初の一太刀で斬ってきました。相手にひとこと言って、バサッと斬って終わっていた。そこをもう少し工夫できないかなと考えてるところです。たとえば、悪人が千両箱を抱えてホクホク顔で帰ってきたところに、バッと小五郎が立ちはだかります。すると、「なんだ?お前は?」と驚いた悪人の顔が、事態に気づいてだんだん恐怖の表情に変わって、脂汗がたらりとこぼれる。そのときに、小五郎のあのきれいな顔が修羅の形相になるんです。「オレは絶対にお前を許さねえ。斬るよ」っていう顔です。で、悪人が助けてくれと叫びそうになったところを斬り捨てる。たぶん、後半に突入してそういう場面がどんどん出てくると思います。
涼次に関しては、『2007』から『2009』に至る間で、基本的なキャラクターと役柄はできてました。『2009』がスタートしたときには武器も変わりましたし、次にどうしようかっていうのは後半の課題ですよね。
彼は伊賀の抜け忍ですから、もう帰るところがないんですよ。自分よりも悪いやつを地獄に道連れにするっていうのが、彼の生き方のアイデンティティなんです。でも、涼次は基本的に人の良い性格なので、玉櫛の死をすごく気にしてるわけですよ。さらに、玉櫛の仇を取りにきたまま家に居ついた如月に対しても、やっぱり放っておけないと思っているところがある。でも、彼は仕事人で地獄に落ちる運命ですから、そういう人の良さが、もしかしたら彼の仕事人としてのアキレス腱になっていくのかもしれませんね。
それに、涼次はやっぱり自由人でしょう? だから、役人のやることが気にくわない。今の時代だって、やっぱり一番悪いのは役人だなあって思わせられることが多いですし(笑)。だから、元々ウマが合わなかった小五郎とは、今後、どんどんぶつかっていくと思います。
そういう意味で、2人をくらべると、小五郎はますます冷徹になっていくでしょうし、涼次はその逆でしょうね。なんていうか、小五郎のほうが生きる体温が低いんです。涼次のほうが意外と体温が高い。その高さが逆に命取りになる可能性はあるんじゃないかな。でも、一番低いのは主水でしょうけどね。爬虫類なみの低さだと思います(笑)。
源太は、ここまでやってきて殺しの立ち姿もさまになってきましたし、今回の死はものすごくもったいないという気持ちはあります。ただ、やはり仕事人は正義の味方じゃないっていうところに、最終的にどうしても立ち返らなければならないんです。 新春スペシャルの中で、殺しをやった後の源太が手を洗っていると、涼次から「その汚れは洗っても取れねえぞ」と言われるシーンがありますよね。洗うってことは、本当は仕事人としてじゃなくて、ふつうの人間として人生を終えたいという気持ちの表れなんです。それがあるかぎり、仕事人にはなれない。そういう意味で、今回の死は、プロの仕事人になりきれなかった男の運命だったんでしょうね。
昔のシリーズには鮎川いずみさん演じるお加代という情報屋がいましたが、お菊は情報屋というよりはプロデューサーです。この人も、本当はすごくしたたかな人なんだと思いますよ。でも、和久井さんという方は真面目だけれど、おっとりしたところもあるかわいい女性。主水が自身番に呼びつけて、こたつから手を伸ばしてしまう気持ちもよくわかる(笑)。そういう部分を今後はもっと出してあげたいですよね。
藤田さんも和久井さんとの芝居は、楽しんでやってるみたいです。藤田さんは毎回いろいろと小芝居を考えてきはるんです(笑)。撮影所のスタッフはみんな、藤田さんのこと、お父さんって呼ぶんですよ。石原監督もお父さんって呼ぶんですから。文字通り“『必殺』の父”。結局、お父さんがね、『必殺』のことも時代劇のことも、一番よく知ってるんです。だから、現場でも真理を突いたことを言うんですよ。本当にいろんなことをよく考えてらっしゃいますね。最近は、どんどん元気になってらっしゃって、こっちが迷惑するくらい考えてきてくれる(笑)。第8話も主役は主水だったでしょう。後半はもっと活躍していただけると思いますよ。(了)