演技事務は、俳優陣がスムースに現場に入れるように、現場と俳優(が所属する事務所)とをつなぐ連絡係である。また、撮影所内では、俳優陣が演技に集中できる環境を整えるために、さまざまな準備・対応を行なう“何でも屋さん”的な役割も果たす。演技事務がいるからこそ、俳優陣も安心して芝居に取り組むことができるのだ。俳優の熱演を支える裏方・山緑美春が、『必殺』の舞台裏を語る。
演技事務とは、俳優のみなさんが余計な心配をせずに芝居に集中できるようにするために、いろいろなお膳立てをする仕事です。
まず大事なのは、制作現場と、俳優さんが所属する事務所をつなぐパイプの役割です。つまり、連絡係ですね。台本ができあがると、制作進行の担当者が撮影の総合スケジュールを組み立てますが、その後に、撮影日ごとのスケジュールが出てきます。ここからが演技事務の仕事です。毎日の撮影スケジュールを俳優さんの事務所にFAXして、マネージャーさんと連絡を取り合いながら、俳優さんが現場に入る時間を調整するんです。
撮影の当日になると、俳優さんが撮影所の門を一歩くぐられた後は、いろんなことに気を配ります。細かいことがいろいろありますが、ひとことで言うと、俳優さんに対する何でも屋さんですね。お弁当の手配、楽屋の部屋割りや温度調節、足りないものがあれば準備したりもします。撮影が終わったら、タクシーを呼ぶのも仕事です。俳優さんが撮影所にいらっしゃるところから、撮影が終わって帰られるところまで、俳優さんが困らないようにするために、あらゆることをします。撮影現場の状況というのは、どんどん変わっていきますから、臨機応変に対応してますね。
もともとは、『必殺』に出演なさっていた女優さんの付き人をやってたんですよ。京本政樹さんと村上弘明さんが出られていた『必殺仕事人Ⅴ』のときですから、25年くらい前ですね。そのとき、『必殺』の現場で藤田まことさんとも出会いました。
その後、私が付いていた女優さんのレギュラーが終わって、私も一緒に東京に帰ったんです。でも、生まれが京都だったこともあって、付き人の仕事を辞めて京都に戻ってきたんです。それで、松竹にあいさつに行ったら、藤田さんが、たまたまいらっしゃったんです。付き人を辞めたことを話すと、藤田さんからもう一度ここで働いてみればと提案してくださったんです。藤田さんがいらっしゃらなかったら、たぶん、全然違う仕事についてましたね。出会いって本当にすごいと思いますよ。
演技事務という仕事は東映さんには昔からあったんですが、松竹では私が初代です。松竹に戻ってきた当初は、私は若い女優さんたちのマネージャーをやっていたんですが、撮影スケジュールの連絡がなかなかいただけなくて困ることが多かったんです。当時の松竹では、演技事務の仕事は助監督さんが兼ねてたんですが、昔は携帯もないですし、助監督さんも現場がありますから、なかなかつかまらないわけです。東映さんの演技事務の仕事を見て便利だと実感してましたので、松竹にもこういう部署を作ろうと提案したんですよ。私はもともと俳優さんサイドにいた人間ですから、客観的に考えることができたのかもしれませんね。演技事務として『必殺』と関わったのは映画の『必殺!主水死す』が初めてです。
東山紀之さんは、姿勢も正しくシャキっとなさってて、性格も完璧主義者という感じ。近寄り難いオーラがあって、まさにスターですよね。松岡昌宏さんはムードメーカー。いつも明るくて、すごくなごませてくれます。あいさつも、「おはようございます」とかじゃなくて、「帰って来たよ!」。『必殺』も時代劇も大好きな方で、きっと松岡さんが一番『必殺』をやりたがってらっしゃったんじゃないかな、と思いますね。歴史のこともよくごぞんじで、私じゃ話についていけないくらい(笑)。和久井映見さんは真面目な方で、お菊の役柄とはギャップがありますよね。でも、すごく自然で、見事に役にはまってらっしゃるんですよね。ふだんは物静かで口数も少ないんですが、あいさつも丁寧な方で、うわべだけじゃなくて、心からごあいさつをしてくださるんですよ。そういうところは見習わなきゃと思います(笑)。藤田さんは、ベテラン中のベテランですし、私にとっては雲の上の人。でも、すごく面倒見の良い方で、レギュラー番組で入られたときは、必ずスタッフみんなを焼肉に連れて行ってくださるんです。すごく気さくに話してくださいますよ。
やっぱり、今回のシリーズで一番大きな出来事は、源太が死んだことですね。『必殺仕事人2007』のときからだんだんと成長していく源太を見てきたので、もったいないというか、もうちょっと見てみたかったなという気持ちはありますね。大倉忠義さんは、孫みたいに甘えてくれるし、本当にかわいくて優しい人。そういうところは、源太とオーバーラップして見えますよね。大倉さんの後に加わった田中聖さんを見たときは、インパクトを感じましたね。容姿といい雰囲気といい、匳にピッタリですね。小五郎、涼次、匳のバランスもいいと思いますよ。
演技事務の面白さは、やっぱり、人との出会いですね。いろんな事務所の方や、いろんな俳優さんがいらっしゃるので、本当にいろんな人との出会いがあるんです。いろんな方と知り合いになれるし、もちろん別れもある。また再会したときにも、すごくうれしいですしね。単発のドラマだと、2、3週間であっという間に終わってしまいますが、今回の『必殺仕事人2009』は、2クールで、撮影期間は半年以上ですからね。初めはちょっと距離があっても、時間をかけて接してるうちに、お互いに分かり合っていけるのがうれしいです。(了)