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インタビュー 必殺の仕事人たち

第8回 美術:西岡善信

西岡善信は、1950年代から現在に至るまで、膨大な数の時代劇で美術を手がけてきた。『梟の城』、『御法度』、『どら平太』、『たそがれ清兵衛』、『隠し剣 鬼の爪』……ここ10年の作品(の一部)を挙げただけでも、そのすごさが伝わるはずだ。そんな西岡が初めて『必殺』を手がけたのが『必殺仕事人2007』であった。そして、連続ドラマとして復活した『必殺仕事人2009』でも、引き続き美術を担当している。日本を代表する映画美術の巨匠が生み出す『必殺』の美術とは?

コンセプトは“若い時代劇”

西岡善信

『必殺仕事人2009』と『必殺仕事人2007』との違いは、今回が連続ドラマだということですね。小五郎の家や三番筋といったレギュラーのセットと、美景庵や祈祷所のような1話だけのセットと、両方が登場しますよね。だから、連続ドラマの撮影に合わせたプランを立てました。レギュラーのセットについては、『必殺仕事人2007』のセットを少しコンパクトにして、できるだけ近い場所にまとめて、撮影しやすいようにしました。その他のセットは、それ以外の場所やオープンセットで対応しています。

今回の『必殺仕事人2009』も、コンセプトとしては『必殺仕事人2007』を踏襲しています。石原監督やプロデューサーと話して決めたのですが、「現代社会の生活や現代人の感覚を『必殺』の中に取り入れて、時代劇とうまくミックスしよう」ということです。キャスティングも若いメンバーが多いですし、若い人たちに見てもらいたいですからね。そこで、セットも従来とは違った現代的なセットにしました。僕も時代劇ばかりやってきたし、今まで作られてきた時代劇のパターンはわかってますが、今回は“若い時代劇”ということを意識して作ったんです。それが画面に効いてくると、若い人が愛着を持って見てくれるんじゃないでしょうか。

ひとつ例を挙げると、同心たちが集まっている奉行所の同心部屋がありますよね。以前の『必殺』シリーズでは、7、8人の同心が座ってるだけだったでしょう。だけど、今回は石原監督からオフィスみたいにしてくれ、と言われたんです。だから、部屋も大きめにして同心が大勢ずらりとならんで座るようにしたんです。今のオフィスみたいに見えれば、見ている人もドラマに入り込みやすいと思います。

今回は時代考証もあまり気にしていません。むしろ、時代考証に縛られないように作ろうとこころがけています。ただし、現代そのもののセットにしたら違和感がありますからね。現代のデザインをうまく時代劇になじませる。そのへんが具体的なデザインのテクニックですよね。

イメージからセットへ~制作プロセス~

西岡善信

まず、脚本を読んだときに頭に浮かんだイメージを、スケッチブックに描いていきます。三番筋だったら、誰も来ないような寂しい裏通りを最初にイメージしたんです。「お金を持ってくる祠はどうしようか」とか「雑草がたくさん生えてるだろうな」とか「寂しさを感じさせるような無縁仏を置こう」とか「人が来ない場所だから土塀が崩れてるほうが雰囲気が出るな」とか、頭に浮かんだアイデアをどんどん絵にしていくんです。この時点ではデザインというよりは全体の雰囲気を描く感じですね。

ある程度絵が描けたら、セットを作るために必要な平面図を描いて、セットプランを作っていくわけです。三番筋は、クレーンで上から情景的にも撮れるように広く作りました。土塀があって、祠があって、その向こうに尼寺とお堂が見える。この風景には、時代劇の野原のセット、いわゆる“野面(のづら)”のセットを活かして、古いかたちも取り入れてるんですよ。

実際にセットを組んでいる途中で直す場合もあります。やっぱり撮影したときの画作りの問題がありますからね。「ここにお金を置くなら、仕事人が立つ場所はもう少しずらしたい」とか、そういう芝居の撮り方に応じてセットを直したりしました。

涼次の家、美景庵

西岡善信

一番気に入ってるのは、涼次の家ですかね。ほら、家の中にいろんな絵が飾ってあるでしょう? あれは絵金を意識してるんです。絵金は、劇画のような浮世絵を描いた江戸時代の四国の絵師です。最近はあまり使われてませんが、昔の映画監督は絵金が好きな人が多かったんですね。中平康さん(※中平康:映画監督。代表作は『狂った果実』、『月曜日のユカ』など)とか五社さん(※五社英雄:映画監督。代表作は『三匹の侍』、『吉原炎上』など)とか、深作さん(※深作欣二:映画監督。代表作は『仁義なき戦い』シリーズや『蒲田行進曲』など。『必殺仕掛人』の第1話ほかを手がけた)も絵金が好きでした。ただ、絵のタッチがしっかりと絵金のかたちになってないと変な絵になってしまうんで、絵金のタッチで描ける人に頼んだんです。見ればわかるとおり激しいタッチで、『必殺』の実在感が出ています。しかも、仕事人である涼次本人が描いてるという設定だから、キャラクターとも合ってますよね。絵を描きながら、おいしいもんを食べる。そういうのは理屈じゃないし、見ればわかってもらえるでしょう。

『必殺仕事人2009』はドラマの題材に、現代の世相が入ってますから、セットもそれに合わせて作ってますね。第1話に登場した美景庵なんかは、今でいうホストクラブみたいなものですよね。どうすればホストクラブを時代劇に入れ込めるかを考えて、女郎屋の建物を参考にしながら、窓枠や部屋を六角形のモダンなかたちにしたり、ホストクラブにあるようなカーテンをひいてみたりして、時代劇に現代の要素をミックスして作りました。

でも、こういうミックスはデザインだけで部分的にやってもしょうがないんですよ。やっぱり今回は、シナリオがしっかりと現代の世相を反映してるんで、ドラマにもなじみやすい。だから、デザインするのも楽しいですよ。(了)