文字通り、録音の仕事はドラマの中のさまざまな音を録ることである。だが、撮影現場に流れる音をただ録音するだけの仕事だと思ってはいけない。俳優の声をはじめ、必要な音を十分なボリュームで録りつつ、騒音や雑音を抑え、バランス良く仕上げるためには、卓越した技術と長年の経験が求められるのだ。シリーズ最初期から『必殺』の音を録り続けてきた中路豊隆が、音から見た『必殺』の世界を語る。
やっぱり、芝居を壊さないように録りたいですよ。俳優のみなさんは自分の芝居についていろいろと考えて演じてるわけでしょう。それを逸脱して大きい音で録ったり小さい音で録ったりはしたくない。音が右の耳から入って、左の耳に抜けるように消えていく、そんなふうに自然に録りたいんです。要するに、音が気になったらいかん。「ああ、良かった」とも感じさせないように、すんなり消えていく音にこだわってます。だから、見てる人が気がつかないのが一番やと思う。見てる人がおかしいなと思ったら、それで終わりやからね。
時代劇の雰囲気を損なわないようにするために、雑音には気をつけてますね。現代劇の倍以上に神経を使ってます。『必殺』シリーズでも、ずっと雑音で苦労してきました。とにかくオープン(外の撮影)では、いろんな音があるんですよ。たとえば、季節ごとにいろんな虫の音があるでしょう? 蝉やら鈴虫やら、次から次へと出てきて、僕からすればあいつらみんな敵なんですよ(笑)。姿は見えないのに音はする。だから、スタッフみんなで追っ払って、やつらが戻ってくる前に録ったりするわけです。そこが一番の苦労ですね。夏だと子供も多い。近所の子たちがワーワー言いながら走ってるときに、しんみりしたシーンは録れないでしょう。それで子供たちがいなくなるまでちょっと待とうとかね。
雑音がこれ以上入ったらダメ、ここまでならOKっていうのは、自分なりの音域範囲があるんですよ。長年培ってきた経験というか。それを超える雑音が入ったときには音だけ別にもらうようにします。あと、ロケのときには大きめの音で録って、仕上げのときに音のレベルを落とせばノイズも下がる。そういう工夫もしてますね。
『必殺』も連続ドラマは17年ぶりだから、やっぱり懐かしいね。僕はシリーズの最初から参加してるから、『必殺』はやっぱり青春やったし。今回は、藤田まことさん以外は新しい俳優さんですけど、みんな、ほんまにうまいですよ。あの歳でなかなかここまでできません。三田村邦彦さんかて、新入りの頃はガチガチやったし、みんな苦労してたわけですから。
新春スペシャルではこんなことがありました。『必殺』はシンクロ(同時録音)をモットーとしてやってるんですけど、どうしても録れないシーンがあったんですよ。松岡昌宏さん演じる涼次が玉櫛(水川あさみ)を助けて池の中に潜るシーン、覚えてます? 二人は滝みたいなところから出てくるシーンだったんやけど、滝の音が大き過ぎて何をしゃべったかもわからないくらいでね。これはね、京都のメインストリートの五条通りで録音するようなもんですよ。それでアフレコ(撮影後に俳優が声だけを録音する事)にさせてもらったんです。でも、アフレコってなかなか難しいもんでね、自分がしゃべってる画を見ながら、再度セリフを合わせて言わなきゃいけない。普通は絶対に画とセリフがずれるんですよ。でも、松岡さんは画を2、3回見ただけで、すんなり合わせたんです。すごいなって、ほんまに感心しましたよ。
大倉忠義くんもなかなかええし、東山紀之さんかて中村主水と似た役をちゃんとこなしてますもんね。3枚目じゃないんだけど、2枚目でもない。2.5枚目? 時々ちょっとずっこけたことをアドリブで言うたりしてはるし。それに、昼の声と夜の声は使い分けてはると思いますよ。伝七役の福士誠治さんとのやりとりは軽い声でこなしてるけど、殺しのときにはやっぱり腹の底から重い声を出してる。
藤田さんも、殺しのときと三枚目のときと、芝居でうまいこと分けてはりますよ。やっぱり藤田さんの声はすっと耳に入ってきますね。使いこなした声は深みが違うますよね。もう30年以上、ずっと聞いてるから、何の抵抗もなくすっと入ってきます。
武士とか町人とか、時代劇にはいろいろな話し方がありますけど、たまに脚本のセリフが現代語で書かれてるときがあるんですよ。たとえば、「おい、サボってんじゃねえよ」というセリフの場合、それはサボタージュの意味やから、外来語が由来ですよね。そんなときは、「ちょっと変えましょう」とか、監督にアドバイスをするようにしてます。
このスタッフは演出、録音、照明といった担当パートの垣根が低いし、横のつながりがすごい。照明のライトでもブーンと音がすることがあると、「今のあの音、これでOKか?」とか照明部が聞いてきてくれるんです。向こうも気にしてくれるわけだから、こっちもなんとかしようという気になりますよ。家族ぐるみってゆうたらおかしいけど、助け合ってやるのがこの撮影所のやり方やからね。
特に照明部の林さんは、僕が助手だった時代から一緒。もう40年ぐらいになります。先輩なんだけど、照明部と録音部のチーフ同士だし、一番信頼できる人ですね。石原さんや亡くなった中島さん(※中島利男:石原監督の盟友として『必殺』シリーズの照明を手がけたスタッフ)は僕らより世代が少し上。石原さんは、ほんまにいいカメラマンやった。中島さんも面白くてユニークな人で、ほんまにすごいライティングしはりましたよ。『必殺』の核になった人やね。今はそれを林さんが受け継いでる。そんな人たちと一緒に仕事できるんやから幸せやなと思います。
いや、ほんまに仕事は楽しいですよ。家にいてるより、撮影所にいたほうが楽しい(笑)。もちろん、楽しんでるということは、苦しんでるときでもあります。苦しさも後で思えば楽しさだったんだなと。苦しさを楽しんでるんやね(笑)。(了)