セリフ、効果音、BGM……ドラマにはさまざまな音が流れている。それらの音質を補正し、バランスよくミックスして、自然な音に仕上げるのが調音・上床隆幸の仕事である。また、おなじみのトランペットの響きから、小五郎の殺しに流れるスパニッシュな調べまで、ドラマを盛り上げるさまざまなBGMの選曲を手がけているのも、上床だ。調音の立場から見た、『必殺』の音世界の秘密とは!?
録音部さんが現場で録ってきた音は、悪条件で収録されていることが多いんです。特に、ロケーションに出てしまうと、街頭のノイズがベースに入った状態で収録せざるをえないんですよ。そのノイズを乗せたままだと、極端な話、「時代劇なのになぜ車の音がしてるんだ」ということになるわけです。僕の仕事は、そういうノイズをOAでわからないくらいに減少させたりカットしたりすることです。
また、現場では音が一発勝負で録られてるので、「本当はこのセリフはボリューム的にレベルが高い状態で録りたかったのにできなかった」という場合があるんです。そういうボリュームの修正もしています。それに、セリフ・効果音・BGMのバランスを整えるのも僕の仕事です。こういう仕事を、一般的には整音と呼びますが、松竹では調音という言い方をします。
さまざまな音をバランス良くミキシングするのは当然ですが、やっぱり一番重要なのは、セリフの音をしっかりとお客さんに伝わるようにするということですね。視聴者の方には、じっと見てくださってる方もいれば、他のことをしながらで見られてる方もいるでしょう。どんな見方でもわかるように、できるだけ聞きやすいボリュームになるように注意してやっています。
東京で制作する場合だと、作曲の方が選曲したり、選曲の担当者が別にいらっしゃったりするんですが、京都では、東映さんもそうですが、調音の担当者が選曲もやるんですよ。基本的には、オールラッシュを見た後に、監督と打ち合わせをして曲を決めます。酒井監督や原田監督は、打ち合わせのときに、どのシーンにどの音楽を入れたいという希望を出してくれるので、それに合う音楽をチョイスしてつけていきます。石原監督の場合、基本的に僕におまかせで、僕が自由に選んでますね。
『必殺』は昔から続いているドラマなので、聞きなじみのある曲も多いんですが、特に主題歌のバリエーションが殺しの音楽になることが多かったんです。たとえば、『必殺仕掛人』の主題歌は「荒野の果てに」という曲で、今でもメインタイトルで使われているトランペットの曲です。あれが、梅安の殺しのシーンに流されたのが始まりですね。次の『必殺仕置人』以降、しばらくそういうやり方はありませんでしたが、シリーズ中盤以降になって増えてきました。そういうわけで、聞きなじみのある主題歌でヒットした曲がBGMとして使われることが多いんです。『必殺仕事人2009』をやるにあたって、プロデューサーから、今回のベースになるシリーズについて指示がありまして、その時期の曲から何十曲かチョイスして、『必殺仕事人2009』用の素材を作った上で、選曲作業を行なっています。
小五郎の殺しの音楽(「裁きの刻」)に関しては、あの曲を選んで良かったとほめられることが多くて、すごくうれしいです。ふつうだったら、あそこは「荒野の果てに」を使うところで、たぶん石原監督もそう思ってたんじゃないでしょうか。でも、聞きなじみのある曲ばかりを選んでは面白くないので、あえて、あのスパニッシュな雰囲気の曲をつけてみたんです。この曲はもともと『新必殺仕事人』の曲で、殺陣用に作られた曲なのでインパクトもあるんですが、今まであまり使われてこなかったんですよ。この選曲は、今回の『必殺仕事人2009』での一番のこだわりですね。
撮影状況が厳しくて、どこにもマイクの行きどころがない場合、着物の中にワイヤレスのマイクロフォンを仕込んで録音することがあります。ただ、その場合、マイクに何枚もの布が重なった状態で収録する音になるので、収録できる音も、「もあっ」とした音になってしまうんですよ。そういう音をできるだけノーマルなマイクで録った音に近い音質に変えていく作業もしています。
小五郎役の東山紀之さんは、仕事人としてしゃべられてるときは、ドスのきいた声を出します。そういうときは、僕もあまりセリフの低域を切らないようにしています。他にも、仕事人たちが仕事人として会話するシーンでは、セリフの低域を極力切らないで、あえて強調したりしています。たとえば、仕事人がズラリと並ぶグループショットで、それぞれがセリフをしゃべってるシーンがあるとします。そういうときに、肝心なセリフの箇所でカメラがクローズアップしたりしますが、そのときのセリフは、より低域を強調してあげると、印象に残るように聞こえるんですね。
藤田さんは、やっぱり健在です。役者として年輪を重ねてきた方だけあって、藤田さんの声は、声自体が、完全に完成された音になってるんですよ。舞台をやっておられるせいもあるんでしょうけど、声の通りがものすごく良いので、ワイヤレスで録っても、ふつうに録った音とそんなに変わらない音質で上がってきたりするときもあるんですよ。おかげで、僕なんかも楽させてもらっていますし(笑)、安心して聞いていられますよね。そんなに音質補正をする必要がなくて、現場で収録した音を使うことができると、現場のリアルな音がそのまま放送されることになるんです。だから、見ている方にもお芝居の臨場感が伝わりやすいんじゃないでしょうか。(了)