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インタビュー 必殺の仕事人たち

第15回 効果:藤原誠

殺しのシーンから日常生活の一コマまで、『必殺』はさまざまな効果音で溢れている。効果・藤原誠の仕事は、今までの『必殺』の歴史で蓄積されてきた音源の数々からシーンに合った音を選び出し、ときにはゼロから新たな音を作りだすことである。ドラマの迫力と臨場感を陰で支える藤原が、『必殺』効果音の誕生エピソードから製作法の秘密まで、効果の仕事の極意を語る。

効果音の作り方

藤原誠

ドラマに流れる音には、現場で撮ってきたセリフ中心の音=いわゆるシンクロ音と、BGMの音楽があります。それ以外の音は全部効果音で、全編に流れています。それを作るのが効果の仕事ですが、昔のシリーズで作ってきた音がストックされているので、それを使う場合が多いんです。特に殺しの音は、「刀で刺す」「紐で絞める」「骨や関節をいじる」と、種類ごとに30年分のバリエーションがありますからね。

だから、僕が音を作るのは、作らないとないような音が必要なときですよね。たとえば、新春スペシャルで出てきた、涼次がゲタを放る音とか。音を作るときは、まずその物自身でチャレンジしてみるんですよ。実物で音を出してみたらどうなるか、まずはそこから始めます。でも、大概の場合、実物から出た音では使い物にならないんです。それに、どう考えても明らかに音が出ない物ってあるでしょう? 針を刺す音とかね。針を刺して音が出るわけないよね(笑)。

そういう場合は、音を出すには何を使えばいいか考えるんです。いろんな道具がそろっている生効果室という部屋があるので、そこで音を出しながら考えていきます。耳で聞く音と録った音は全然違いますから、録って聴いての繰り返しです。「これは違う」とか、「これは近い」とか、試していきます。いい音が見つかった場合も、大概、ひとつの音では足りないので、3つか4つの音を合成して作ります。「これは音の頭にアタック音として使えるな」とか、「音の最後には何をつけようか」とか、考えないといけませんから、実際にゼロから音を作ると大変ですよ。

『必殺』効果音の数々

藤原誠

昔の効果担当者は苦労したと聞いてます。たとえば、有名なのが、飾り職人の秀が簪を回す音です。あれはジッポーライターを開けるときの音ですが、あの音を探すのにものすごく大変だったそうです。ライターの音だけじゃ音に伸びが足りないですから、そこに「キーン」という別の音を被せて作ってるんですよ。

人を刺す音も有名ですね。川が流れる「ザーッ」という音を録音したテープを、手で回転させて作ったんです。テープの回転を変えたり、テープをはじいてみたりするんですよ。回転を早くした後に緩めると「ブシュウ」という音になったり、素早く回転させると針で刺すような鋭い音になったり、テープでDJをやってる感じです。刺す音は、キャベツを切っても出せるんですけど、ちょっとリアル過ぎるんですよね。音が低くて、立ってこない。

「ズシュ」とか「ズバッ」とか、『必殺』は太い音が多いんですが、僕はもっと細い音が好きなんですよ。今回のドラマでいうと、松岡昌宏さん演じる涼次が、仕込み針を抜く「キーン」という音。あれは僕が作った音で、「キーン」って音の出るぜんまいみたいな道具を鳴らした音を使ってます。それだけだとちょっと短いので、デジタル加工で伸ばしているんです。

効果音に正解なし

藤原誠

この音で正解かどうかって、結局わからないんですよ。なにしろ作品自体にも正解はないですし、好みの問題もありますしね。これでいいなと思っても、NGが出るときもあるし、「果たしてこれでいいのかどうか」って、ずうっと考えながらやってきました。それでもまだ、殺しの音とか雨の音や雷の音とか、実際に画に写ってる物の音をつけるのは簡単なんですよ。難しいのは画にない音をつけるときです。鐘が鳴ったり、物売りが通ったりする音で、どうやって江戸時代を表現するか。それが難しくて面白いところですね。

特に、物売りの声を入れて現代の視聴者がわかるのかどうかが一番難しい。そもそも江戸時代にどんな音がしてたかなんて文献でしか残ってませんから。竿竹屋とか、夜回りの拍子木の音とかは、現代の人でもわかりますけど、それ以外の音はわからないですよ。10年くらい前に、他の作品で按摩の笛の音を出したんですけど、そのときの監督から、「わからないから、消してくれ」と言われたことがあります。たしかに、何の音か考えさせるような効果音ではダメなんですよ。物語に入っていけないってことですから。効果音は、右から左に流れて耳に残らないのが理想なんです。だから、「いい鐘鳴ってたよね」とか言われたら、あかんのですよ(笑)。ぼーっと見てもらうのが一番ありがたいし、一番大切なことやと思います。(了)