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インタビュー 必殺の仕事人たち

第3回 編集:園井弘一

現場がいくら優れた映像を撮っても、それが適切な順序と長さで組み合わせられなければ、名作は生まれない。その意味で、編集を担当する園井弘一は、『必殺』シリーズを手がけるスタッフの中でも最重要人物の一人といえる。しかも、三十数年に及ぶ『必殺』の歴史の中で、園井弘一が編集を手がけていない作品は1本もない(!)。『必殺』シリーズのすべてを知る男・園井が、編集の極意を語る。

『必殺仕事人2009』を手がけて

園井弘一

今回は、出演されてる男優さんも女優さんも、きれいで端正です。そこは以前と違いますね。実は、前回のシリーズのときに、テレビではあんまり汚い場面は見たくないなと、何度も思ってたんです。薄汚い長屋だとか哀れな女郎だとか、「もうイヤやな」という感じがありました。テレビとしては、少しきれいなほうが見やすいという気がしています。

実は、昔のシリーズのことは、なるべく忘れようと思ってるんです。この前の『必殺仕事人・激突!』が終わって、十年以上経ってますからね、もう終わったという感じがしてまして。ただ、ネットの書き込みを読んだり、いろんな雑誌で取り上げられたりするのを見てると、やっぱり昔のシリーズをすべて忘れるというわけにはいかないなあ、とも思います。

昔の『必殺』は、今と比べるとずっとアウトローなんです。仕事人自体がアウトローで、正業を持ってることは持ってるんですけど、みんな裏の顔になっていて「そりゃ、陰を歩かないかんやろ」という感じでした。今回はきれいな職業の人が多いので、そういう感じを受けないんですけど、陰の部分はどこかには作らないといけないと思います。踏襲すべき点はいろいろあるんだろうと思いますけれども、最低限、それだけで良いんじゃないかと思いますね。スタッフも年代的に若返ってますし、せっかく新しいのを作んのやから、違ったもんができていいんですよ。

今回の一番の問題は、テレビなので決まった時間に収めないかんということです。今回は脚本家の方も新しい人なんで、僕もなるべく現代劇のテンポに合わせたいと思ってるんですけども、現代劇のテンポの台本だと、時代劇では1時間に収まらない。

立ったり座ったりするだけでも、時代劇の所作事は、現代劇よりも長いんです。殺しのシーンが長くなるのは当然なんですけども、現代劇で胸からピストル出してバーンと撃つよりも3倍くらいは時間かかると思いますよ。映画なら、5分や10分、元々の尺より長くなるのはなんとかできますけれども、テレビは絶対にどこか切らないかんので。これは、テレビの宿命ですけどね。

編集という仕事

園井弘一

我々の仕事では、ないもんは繋げません。その代わり、監督が撮ってきたもんは、なるべく繋いでやろうとは思ってます。

一番最初は、現場からあがってきた通りに繋いでみます。それを見直してる時に思ったことが一番正確ですね。後でなんだかんだ言うても、「いや、さっきのほうがいいな」というのはたくさんありますから。だから、第一印象はものすごく大切です。

テレビでご覧になってる方は、最初からこの順番に撮っているんだと思ってらっしゃるんだろうけど、撮影される順序は色々です。またすべてのシーンを台本通りに繋ぐというわけではありません。作品の中に2、3箇所、「(台本の順番と)違うけど良いな」と思える部分ができる。編集の仕事はそこなんですよ。

結局、我々の仕事は、放送や上映のときには、まったく目に見えないところでしょう? 音声や画なら、ご覧になってる視聴者や観客の方にもわかるでしょうけども、耳にも目にも現われない仕事ですから。これはまあ、内部で認めてもらうしか仕方がないんですね。

昔と今~フィルムとビデオ~

園井弘一

昔と今の一番の違いは、フィルムからビデオになってるということです。これはまったく違う。

フィルムのときは、編集するのに1コマをハサミで切りますから、ハサミを入れたところが、必ず1コマ飛ぶんです。もし編集をやり直そうとすると、その1コマを復元するために、「白身」という何も写ってないコマを入れ直さないといけないんです。だから、「これを切っていいのか悪いのか」という悩みは、今よりもっとシビアでした。

その点、ビデオは、訂正するのも復活するのも大変イージーなので楽なんです。音の余韻が切れたとか、そういうのもすぐに復活できるので、僕の仕事としては大変便利です。ただ、その気楽さがちょっと危険という思いもあるんですよ。あんまり気楽に、「まあ、このへんでいいだろう」となり過ぎてはいけませんから。

ただ、フィルムでもビデオでも、作品の出来は、そんなに変わりはないと思います。

“原点”としての『必殺』

園井弘一

私は『必殺』に育ててもらったようなもんですよ。何と言っても、いろんな監督さんとか、脚本家やプロデューサーの方に会えたのが財産でしたね。自分の引き出しを作る時期に、そういう方と一緒に仕事ができたっていうことは幸せやったですね。引き出しがいっぱいになってくると、困ったときはその中から取ってくることができますけど、あのときはまっさらですからね。どうしようかと悩むことは、今よりずっと多かったですよね。

最初はね、カメラの石原くん(現監督)も、亡くなった照明の中島くんも、まだ30そこそこでしょう。私も27くらいでしたから、そんなに制約がないんですよ。やっぱり、若気の至りというか、40歳になるまでは、「ここで好きなことやってコケても、まだ起き上がれる」という気持ちがありましたからね。『仕掛人』(※『必殺仕掛人』:『必殺』シリーズ第1作。1972~73年にかけて放送。鍼医者・藤枝梅安を緒形拳が演じた)は『紋次郎』(※『木枯し紋次郎』:市川崑監督、中村敦夫主演のテレビ時代劇。『必殺』シリーズは打倒『紋次郎』を合言葉に制作された)に対抗すべく作られた作品だったので、なんとか頑張りたいという気持ちもありましたし、それが良かったんでしょうね。テレビとしては、今まで見たことないような画になりました。

だから、40歳までで良い財産を作れたと思います。でも、前と一緒のもの作ってても仕方がないでしょうし、これからも何か変わったことをしていきたいですよね。(了)