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インタビュー 必殺の仕事人たち

第1回 監督:石原興(前編)

シリーズ第1作『必殺仕掛人』にカメラマンとして参加して以来、斬新なカメラワークで『必殺』の世界観を築き上げてきた石原興。数々の名監督たちとコンビを組んできた経験を活かし、シリーズ後期からは監督として『必殺』に携わり、今回の『必殺仕事人2009』でもメガホンを取っている。まさに『必殺』の歴史を代表する人物である石原が、『必殺』に込めた思いを語る。

『必殺』に答えはない

石原興

僕らが完成したものを見たって反省しか残らないんですよね。「ああしたら良かった、こうしたら良かった」と後悔しながら、何十年もずっとやってきている。撮影している時はこれで良いと思ってやってるんですけど、やっぱり撮影中は興奮状態になってるんですよ。それが、ラッシュで全部つないだものを見ると、「あ、あそこはちょっと違ったかな」と思ってしまう。撮影している時には、冷静に物を見る判断がなかなかできないんですね。やっぱりね、反省しかないですよ、僕らの仕事は。

だから、良いとか悪いとかも分からない。いつも「果たしてこれで良いのかな」という不安がありますね。作り方はいくつもあるわけでしょう?どれがベストかなんてわからないんですよ。

『必殺』というシリーズは、全部スタイルが違うんです。だから、どれが本当の『必殺』かは言えないわけです。それぞれにファンもいるし、皆さん「これが『必殺』だ」と思ってらっしゃるものがあるわけですよ。今までの作品の中で、「どれが『必殺』ですか?」と10人に聞いたら、別々の10作が挙がる。答えがないのが『必殺』なんですよね。

『必殺仕事人2009』のカラー

石原興

東山さん、松岡さん、大倉さん、そこに和久井さんと藤田さんが加わったのが『必殺仕事人2009』です。それが今回のカラーだと思ってください。どういうかたちであれ、みなさんが演じてらっしゃるのが『必殺仕事人2009』なんです。

今回は非常にバランスが取れたキャスティングじゃないかと思います。小五郎は普段は明るく、仕事のときは厳しい顔つきです。東山さんは冷たい顔がよく似合う方ですね。歴代の俳優さんと比較すれば、市川雷蔵さんと田村正和さんですか。スッとした顔立ちが、あの2人に匹敵すると感じましたね。

涼次は、根っからには楽しんでいない、つくろった明るさを持つキャラだと思っています。もともとは忍者で、はぐれて江戸へ来ているので、一人で暮らしている寂しさをとりつくろうために馬鹿騒ぎしている。でも、ふと我に返ったときは一番頭が切れる。それが、松岡さんのやっている涼次役じゃないでしょうか。

直裁に言ったら、仕事人は殺し屋ですからね。自分の行く末は一番よく知ってる人間なんです。いずれは捕らえられて獄門台でさらし首にされる運命にある。これを時代劇では、三尺高いところへ登ると言うんですけど。スペシャルの終わりでも、仕事人に対する考え方を涼次が述べるところがありますね。「人を殺した奴は地獄に落ちる」と。それを分かっているだけに、明るく振舞っているのが涼次なんです。

源太は、顔も二枚目で、非常に真面目な青年です。彼の殺しはファッション化したらダメなんですよね。震えを持って真剣に人を殺める、そういうところを描いてあげないといけない。本当はそれを第1話でも出せたら良かったんですけどね。人を殺した後、裏のドブでゲロを吐いてるとか。でも、レギュラーになると放送時間が短いんでそこまで描くのは難しいんですよ。ただスペシャルでは描けたので、まあいいかなと。

『必殺』というのは、悪い側も描かなきゃいけないし、最後に人を殺すところも見せなきゃいけないし、大変ですね。時代劇だから許されるんでしょうけども、ある程度作り込んだ殺し方になるように考えています。

アドリブの面白さ

石原興

主水とお菊は、昔からの知り合いかな、と考えています。年配の男性と若い女の子の、ほのぼのとした掛け合いができればいいなあ、と。「結婚しようや」と言って20年経ったけれども、主水の方は嫁姑が怖いし、その気があるんだけどグダグダしたまま何もしない結果になっている。そういう関係でお互いに言いたいことを言える間柄にして、お芝居を進めています。

お菊を演じている和久井映見さんはとても真面目な方で、しっかり芝居を組んでくる。ところが、僕の場合、セットの作りや動きによって脚本に書いてない芝居をつける。となると、現場でセリフを足さないとダメなんですよね。スペシャルの「ひさしぶりの逢引きじゃねえか」「番屋でかい?」という主水とお菊の掛け合いも、元々の脚本にはなかったんです。『必殺』にはアドリブの面白さがあるんですよね。それは和久井さんにも徐々に分かってきて頂けていると思います。

以前も、中村家の、藤田まことさんと菅井きんさんと白木万理さんとの掛け合いは、脚本とは全然違うことをやっていました。藤田さんが時代の流れをうまく取り入れた会話をされるんで、それに合わせて1分くらいの小話を撮る。そこが『必殺』の面白いところでもあるんですよね。今回は、東山紀之さんと野際陽子さん、中越典子さんとのエピソードを毎回作るというのが『必殺仕事人』のテーマでもあるわけです。殺しというのは、実はどうってことなくて、最後の小話が一番大事なところなんですよ。

藤田さんとはずっと前からいろんな仕事してますので、久しぶりと言っても全く抵抗はないですね。ただ、病後に少し体力を落とされているので、そこは考えながらやってます。いきなり「藤田はん、走って」なんて言えませんからね(笑)。東山さんも松岡昌宏さんも真面目やし、みなさん、藤田さんを大事にしてあげてるから、すごくうまくいってるんじゃないですか。そういうのはすばらしいと思いますよ。(後編へ続く)