原田徹は、テレビ版『必殺』シリーズはもちろん、映画版『必殺!』、『必殺!Ⅲ 裏か表か』、『必殺4 恨みはらします』に参加し、工藤栄一監督や深作欣二監督の薫陶を受けてきた。今回の『必殺仕事人2009』では初めて監督として参加し、第2話・第3話・第7話・第14話を担当。映画『バトル・ロワイアル』や『男たちの大和』など、スケール感のあるアクション演出に定評のある原田が語る『必殺』とは?
『必殺』を監督したのは、今回が初めてですね。子供の頃に『必殺』を見てて、この仕事を始めてからも、テレビの『必殺』シリーズや、映画の『必殺』にも助監督で参加したりしてた。それが今回は監督で呼ばれることになって、「ああ、面白い人生やな」と思うよね。
今の時代劇って、『水戸黄門』も成敗するだけだし、『暴れん坊将軍』も全部峰打ちでしょう。でも、『必殺』は殺す。だから、僕は面白いなって思ってるわけ。そもそも、僕が今までやってきた仕事って、人を殺したり、いたぶったりするシーンが入ってる作品が多いんですよ(笑)。しかも、『大和』(『男たちの大和/YAMATO』)や『バトル・ロワイヤル』みたいに男が出演する仕事ばっかり(笑)。今回、第2話の賀来千香子さんとか、ひさびさに女性と仕事をして、どうしていいのかわからへんかった(笑)。
やっぱり『必殺』って、本来ならもっと深い時間に放送する話なんですよね。それが夜9時ということで、最初は内容的に少しソフトな部分があったんだけど、石原興監督が撮った第10話なんて完全に深夜の内容で、本当に面白かった。問題は、それが視聴者に受け入れられるかどうかってことだよね。内容がハードになっても、みんなが見てくれるんやったらうれしいよね。
僕が第2話を撮ったときのカメラマンは藤原三郎さんだったんです。藤原さんはね、ずっとやってこられたベテランの方だから、撮りながら「『必殺』っていうのは、こうやらなきゃいかん」っていうのをいろいろと教えてもらった。その意味では、スタッフがみんな昔からやってる人たちで、すごく助かりました。
ロケ場所にしても、スタッフみんなに思い入れがあるわけですよ。カメラの藤原さんが「ええとこあるんや」って言うから行ってみると、今はコンクリートの道路しかないわけ。「こんなところでどうするんですか?」みたいなところなのに、藤原さんも頑として譲らへん。「監督、ワンカットでこのフレームだけでやってくれ」って言うんですよ。どうしてもそこで撮りたいっていう思い入れがある。カメラは右にも左にも振れないから、フレームの中で人を動かしてくれって言うわけよ。だけど、実際に撮ってみると、これがものすごくいい。川がちょっとカーブしてて、せせらぎがちょっと見えてね。そういう意味じゃ、ひとつのフレームで撮るっていうのは、面白い経験やったね。
第2話の冒頭、辻斬りが川原で人を斬るシーンがありましたけど、あれは本物の川じゃないんですよ。オープン(セット)で、水だけ流して逆からライトを当てて撮ってるんです。大体、本物の川原に行ったって石がいっぱいで走れないんですよ。そこで、オープンのコンクリの上に石と葦を置いて、水を流すわけです。これは、工藤(栄一)監督(※工藤栄一:映画監督。『必殺』シリーズには、『必殺仕置人』から参加。映画版の『必殺!Ⅲ 裏か表か』も手がけた)がやっておられた手なんですよね。ところが、それをやるっていったら、若いスタッフは、そのやり方を知らない。気がついたら、みんなで溝を掘って川を作ってた(笑)。で、「違う違う!ホースで水流すだけでええのや」って言ってね。そこに、石と葦を置いて撮ったんですよ。あのシーンは、工藤監督に対してのオマージュですよ。『必殺』やるなら、あれはやりたいと思ってた。
藤原さんなんかに教えてもらって「なるほど」と思ったんだけど、殺しの前には仕事人ごとに登場の画がいる。それぞれに音楽がかかるから、そんだけの画を考えなあかん。アップにしても、パーッと走るにしても、せいぜい3秒か4秒のカットでしょう。それをどう作ってつないでいくかってことだよね。そういうのは、脚本には書いてないし、レギュラーものの難しいところだよね。やっぱりシリーズやから、ある程度同じに撮らないかんし。だから、どういうふうに仕事人を登場させるかは、いい勉強になった。
この撮影所の近くにある喫茶店のマスターに「今度、『必殺』やるねん」って言ったら、「徹ちゃん、『必殺』は華麗に殺さなあかんのやで。あんたにできるか?」って言われて、「う~ん」ってなってね(笑)。ようするに、『必殺』ってのは、「華麗に殺さなきゃいけない」って前提がまずあるわけですよ。しかも、本当は殺しのアクションが僕の持ち味なのに、そこは一発で終わらせなあかん。だから、大変ですよ。
東山さんの太刀さばきは、本当にきれいですよね。剣道かなんかやってはったんかな? 今後はもっと怖い顔して斬ってほしいね。殺しの顔と日常の顔と、差があったほうが面白いと思うし。藤田さんは、さすがに長いことやってきはっただけあって、『必殺』シリーズってものをよくご存知。僕らみたいな新米監督にも、ちゃんと接してくださいますね。で、殺しの時は、怖い顔しはんのや。ほんまに怖い顔しはるから、「かなわん」て思うもん。撮ってて楽しいよね。これからどんどん元気になってこられて、もっと活躍されるんじゃないですか。(了)