『必殺』を見て育ち、『必殺』マニアを自認する監督がいる――それが酒井信行だ。京都撮影所に入り、『必殺仕事人Ⅳ』のスタッフに加わって以来、ベテランスタッフとともに、シリーズを支えてきた。今回の『必殺仕事人2009』では、第5話・第8話・第12話を監督。酒井ならではの、マニアックで印象に残るシーンの数々を作り上げた。そんな酒井が『必殺』に込めた熱き思いを語る!
石原さんと違って、僕はテレビで『必殺』を見て育った世代なんだよね。ショッキングやったのが、2作目の『必殺仕置人』。山崎(努)さんがやった念仏の鉄がすごいキャラクターで。『必殺仕掛人』の梅安っていう緒形(拳)さんのはまり役があった後で、シリーズをどうつなげていくかっていう問題があったと思うんだけど、『必殺仕置人』のおかげで見事にシリーズは続いていったわけやからね。あのシリーズが一番好きだったですね。
だから、最初に『必殺』の現場に入ったときは、ほんとにうれしかったよね。僕が京都映画撮影所に入った当初は別のドラマを撮るチームにいたんだけど、あるとき「酒井、ちょっと『必殺』の応援に行ってこい」って言われたのが、『仕事人Ⅳ』の第3話だったかな。それからずっと『必殺』のチームに残ってやらしてもらいました。
やっぱり『必殺』は難しいですね。他の時代劇と違って、決まりごとがあるようでない。たとえば、殺す道具やストーリーの流れには決まりごとはあるんだけども、撮り方に関しては、「これをしちゃイカン」というのが、意外に少ない。だから、ノーマルな時代劇にくらべて自由が利く分、どこまでやってええのか、難しいですよね。
今回、僕が撮った中では、藤田さんと長門裕之さん(第8話・嘉助役)のかけあいが良かったねえ。藤田さんの体調がだいぶ回復されたってこともあって、第8話は、藤田さんメインの話にすることになったんだけど、そうなると当然、相手もそこそこの人が来てくれんと困る。そういう意味では、長門さんはまさにピッタリやった。もともと、長門さんと藤田さんっていうのは、小さい頃からの知り合いなんだよね。藤田さんのお父さんの家にね、長門さんが踊りを習いに行ってた。そんな小さい頃からの仲やから、ほっといても画になるわけ。役の上でも、同心とスリで敵対する関係だけど、どこかで心が通じ合ってるという役柄じゃないですか。そういう意味でも、長門さんはピッタリだったですね。だから、藤田さんと長門さんの芝居を撮ってるときはドキドキしたし、見ててゾクゾクっとしたね。
『必殺』にかぎらず時代劇っていうのはね、結局、物語のカタルシスは殺しでしょう? 一番盛り上がる部分が殺人というのは、現代劇ではまずありえへんこと。だから、その殺しの場面が一番の見せどころになる作品は、一歩まちがえたら、それこそ殺戮になっちゃうわけ。いかに殺しの場面をむごく見せないか、きれいに見せるかっていうことが大事なんだよね。これをリアルに撮ってしもうたら、もう見てられへんと思うよ。たとえば、アクセントとして、腹にぐっとこう刀が刺さるカットは撮るけども、それをぐっと抜いたときに血のりがついている画は、僕らはあんまり撮らへんよね。むしろ、殺しを、いかにショウ的に華麗に見せられるかにこだわってます。
第5話で小五郎が5人を立て続けに斬るシーンは、どうせやるなら思い切ってワンカットでいこうやないか、と決めて撮ったシーンやね。もともとローアングルで撮りたいというのがあって、人物が移動しながらの立ち回りやから、移動車で撮ろうと思ったんですよ。でも、移動車っていうのはレールの上に車を載せて、その上にカメラを載せるわけやから、地面いっぱいに置いても、結局レンズの高さが地表から50センチくらいの高さになっちゃうんだよね。小五郎の足の裏が入るくらいのローアングルで撮りたいと思ったから、地面に溝を掘ったんです。そこに、幅の細い移動車を入れて撮影してね。ああいう撮り方は今までやったことはないと思う。やっぱり『必殺』らしい、きちんと見せられる画作りをせなイカンという気持ちがあったんだよね。
小五郎については、主水との差をどう出すかが重要なんですよ。2人とも刀で殺すという大前提は一緒なわけやから、なんとかして差をつけたい。たとえば、第5話で、小五郎が障子越しに悪人を斬るシーンがあるんだけど、あれも主水と差をつけるためなんですよ。あの回は、小五郎も主水も、廊下から近づいて悪人をおびき出すというところは一緒なんです。主水は障子が開いたところですっと近づいて刺すから、小五郎の場合は豪快な感じを出すために、外から斬ってしまおうと。斬るなら当然、障子も斬れる。そういうことなんだよね。
僕が見るかぎり、東山さんはね、自分の持ってるものをまだ全部は見せてない気がするんだよ。たぶん、こっちがもっと要求すれば、もっともっと応えてくれる人やという気がする。12話では殺しのときの表情に特に気をつけて撮ったんだよね。やっぱり普段が二枚目なだけに、その顔が殺し屋になったときの表情が、すごい。第10話のラストで、源太が殺しを伝七に見つかって、その後ろに小五郎が現れるじゃないですか。あの顔なんか、ものすごいでしょう?あの顔が、見る人のカタルシスにつながるんだよ。きれいな顔の人が、一瞬見せるすごみっていうのかな。その凄みというのは、今の東山さんはピカイチやね。(了)