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4月22日ゲスト:千葉工業大学未来ロボット技術研究センター所長 |
古田貴之さん |
手塚「私は古田さんにずっとお会いしたいと思っていて、願いが叶ってうれしいです」古田「そんなこと言わないでください、緊張するじゃないですか(笑)」手塚「先ず古田さんのご紹介もかねて、『千葉工業大学未来ロボット技術研究センター(fuRo)』がどういう所なのか、そこでどのような研究をされていらっしゃるのか、お話しいただこうと思いますが、略称の『fuRo』の意味はなんですか?」古田「Future
Robotics Technology Centerの略で『fuRo』。名前の通りロボットを研究するところなのですが、特徴的なことは大学の付属機関ではありません。大学の兄弟機関と言いますか...。ですから私は大学の教員ではないんです。
元々何をしたいかというところから作った組織なのです。私はロボットの研究をしていますが、もっとロボットの技術が広まって、世の中のためになったらいいなという願いがあります。この組織はいろいろな制約のない、国でも企業でも大学でもないということで、技術者が技術を研究するだけではなく、技術の使われ方にも踏み込んでロボット研究が出来る所です」
手塚「古田さんは1968年のお生まれで...」古田「ちなみに天馬博士とは2歳違いです(笑)彼は66年生まれですから...」手塚「以外に細かいネタをご存知で(笑)3歳のときにすでにロボット博士になりたいという夢を持っていられたということですが、きっかけは?」古田「ズバリ『鉄腕アトム』です。もっと言うと、動かなくなったアトムのお腹をお茶の水博士が開けて“おや、真空管が壊れてるぞい”と言った瞬間です。なんてカッコいいんだと思いました。私はテレビで初代のアトムを見たギリギリの世代だと思います。最初アトムが好きだったのですが、よくよく考えてみたらアトムを作った博士がすごいと思いました。博士になればいろいろなロボットを作れると思いました。それがきっかけです。僕がテレビを見ていたのは2〜3歳ぐらいで、その後親の転勤でインドに行ったんです。そこに7歳半までいました。インドはテレビや雑誌がないのでその時点で僕の中では止まってしまいました。またもう一つロボット博士になりたいと思ったきっかけはインドでスピリチュアルな世界に入り込んでしまいました。引っ越したニューデリーの家の近所に日蓮宗のお寺があったんです。最初はお供えの果物やお菓子が目当てで通っていたのですが、お坊様のお話“本質を必ず見なければいけない。目に見えるものだけが全てじゃない”を聞いて、ロボットも作った博士がすごい、本質を考えないと、ということで...。そのお話と『鉄腕アトム』のお話がリンクして、未だに僕の基本になっていると思います」
手塚「その後日本に戻られて、大学に進学して勉強されましたが、憧れと現実が一緒になっていく過程はいかがでしたか?」古田「なかなかやりたいことを実現するのは難しいと感じました。中学までは単純にアトムや巨大ロボットを作ろうと思っていました。私は中学のときに足を悪くして入院しました。その入院して初めて見た光景が、6人部屋の向かいの人が末期がんで吐血してお亡くなりになった姿だったのです。その瞬間考えが変わりました。巨大ロボットを作るのもいいけれど、不自由が不自由でなくなるような、不幸せが幸せになるようにロボット技術が出来たらいいなと考えるようになりました」
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手塚「古田さんはヒューマノイド型ロボット『morph』をお作りなりましたが、巨大ロボットを作りたいと思っていらしたのに、小型ですよね。でもなぜヒューマノイド型の研究をされたのですか?」古田「足の生えた車いすを作るときには、ロボットが回りの状況を感じて、考えて動く技術が必要なのです。でも今はまだその技術が不完全なので、その技術を研究するために作ったのが『morph』です。なぜ人間型かと言うと沢山モーターもついていますし、センサーも沢山ついています。沢山感じて、沢山考えて、沢山動かなければいけない、一番ハードルが高いのでそれで技術を蓄えようということで作りました。また『足の生えた車いす』というのは人間型ロボットの乗れるバージョンということです。そしてなぜ小型だったか技術の世界では小は大を兼ねるのです。小さいほうが難しいのです」
手塚「続いてお作りになったのが、自動車型ロボット『ハルキゲニア01』段差のある道でも走れる車ですけれど...」古田「一応車ではあるのですが、ボディの裏には8本の足があります。その足の先に1つずつ車輪がついています。ですからパッと見ると8本の足に車輪がついた虫みたいです」手塚「そうでね、車というよりはこんもりとした、黄金虫のような...」古田「元々『ハルキゲニア』というのは5億5000万年、カンブリア紀にいた虫の名前なんです。脊椎を初めて持った動物が生まれた時代で、いろんな形の動物がいたんだそうです。『ハルキゲニア』一言で言うと、人間型ロボットで培った技術を応用した車です。車は生まれて100年経ちます。いろいろな車がありますが、根本は一緒です。そろそろエンジンや4つの車輪をヤメて、やりたいことから車輪の数や形を変えてもいいと思います。前進後進だけでなく、横に走れたら、平ではない道を走れたらいいと思いませんか」
手塚「ロボット研究をする上で、どのような心構えをされていらっしゃいますか?」古田「先ず自己満足になりたくないということです。そして一つでも幸せのために役立つ技術を残したいということです。また人を殺める技術に手を出さないということです。研究者はどこかに籠って自分の興味の赴くまま、気の向くままに研究しがちです。でも実は人が使う技術ですから、使われ方にも責任があると思います。どんな幸せがあるだろう、どんな危険性があるだろうという所まで想定して研究したいと思っています」
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4月29日 ゲスト:古田貴之さん |
手塚「日本でのロボット研究、開発の現状をお教えください」古田「今日本のロボット研究は使われるようなロボットを開発しようというフェーズにいっていると思います。10年ぐらい前に比べてコンピュータの技術がものすごく発達しました。役に立つサービスロボットや、家電製品。また見た目はロボットではないのですがロボットの技術を車や、家電製品、デジタルカメラに応用した、技術のバラ売りの段階でもあります」手塚「自分達が持っている見た目のロボットがアトムのような物なので、“これがロボット?”というような気が付いていない所で使われているということがあるのですね」古田「そうです。最近流行りのデジタルカメラの顔認識。あれはロボットの目の技術です」手塚「なるほど。でもそれがもう数年後には私たちが“ロボットだ”と実感出来るような形になっていくんでしょうね」古田「そうなると思います。ただ人間型ロボットが上げ膳下げ膳するという世界はまだかもしれませんね。僕がロボットを一番使って欲しい分野は福祉などです。私も足が悪いときにボランティアのお兄さんにおぶられて山に連れて行ってもらいました。あのときに強烈に思ったのは、山登りは自分の足で行くから楽しいんだ、ということです。これから首から上は元気だけど、首からしたの肉体は衰えていてやりたいことが出来ない。そんな人が増えてくるかもしれません、寿命が延びてくると。そのときに“やりたい”という気持ちを動きに変換出来るのがロボットの技術だと思っています。一回身体が不自由になると分かるんですが、“可愛そう”と同情されるのが一番辛いんです。さらに自分が車いすで、自分で車輪を回していけるのに、“手伝いましょうか”と言われてされる。気持ちは嬉しいのですが、それと同時に“こんなことも出来ないと思われてるのか”という敗北感を感じるんです。やはりやりたいということを自分の力だけでやれるようにロボットでしてあげたいのです。また福祉関係でロボットを使った自動化という話題が出ますが、僕は反対です。福祉の工場になってはいけないと思います。全てをロボットがやってしまうと人間を扱う工場になってしまうと思います。そういう所にロボットの技術は使いたくないですね。人が人であるためには、人と人がコミュニケーションをとって日々生活していくということが大切だと思います。ロボット技術というのはあくまでも人をサポートする技術、ですから介護するロボットではなく、介護者をサポートする所にロボットの技術を使いたいし、そうなるべきだろうと思っています。ただ全て自動化しなくてはいけないフェーズもあるかもしれません。まったくの寝たきりという方は、また違うやり方があるかもしれませんね」
手塚「地球環境という問題にロボットの果たす役割についてお聞かせください」古田「自然や地球と共存出来る技術を残そうと考えています。未熟で不完全な技術は環境を破壊します。車がいい例だと思います。二酸化炭素を排出し、平らな道しか入れないので、道路を舗装し、山を切り開く、車の環境に合わせるために。技術が進化すると、技術が自然環境に歩み寄ることが出来ます。ロボット技術はまさにその先頭を切らなければいけないと思います。よくバリアフリーと言いますが、私は家自体を平らにして、ロボットなどが動きやすい環境を作るはいいと思います。というのは家そのものが人工物だからです。でもそれを地球とか屋外に応用してはいけないと思います。屋外のバリアフリーは動く側、機械の方がその技術でバリアフリーを実現するべきだと思います。車いすもそうだと思います。車輪だから行けない所が多いので、あれに足が生えていたら野山でも自由に動けますから」手塚「環境に私たちを合わせるために科学技術を使うということですね」古田「私の描いている未来は、無機質な金属の都市ではなく、もっと緑豊かで、その中を自由に動ける機械いる。そういう世界です」
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手塚「古田さんが今後開発したいと思っているロボットは?」古田「今一輪車のロボットを研究しています」手塚「八輪からなんで急に一輪に?」古田「あれは車輪が沢山あるからよく動くというポリシーだったんです。でも物を動かす技術は、少ないからよく動くという考え方もあります。飛行機、普通の飛行機は滑空します、エンジンを止めてもある程度滑空します。だから旋回する時の動きというのが決まってしまいます。普通の飛行機にUFOみたいな動きは無理ですよね?」手塚「そうですね」古田「あまり兵器の話はしたくないのですが、ステルス戦闘機は絶対に滑空しないんです。あれはジェットエンジンの制御だけで動かしているからです。だからエンジンを止めると木の葉のように変な所に落ちます。逆に制御さえすればUFOのような動きも出来ます。一輪車の話ですが、四輪車はタイヤの配置によって廻る半径が決まります。でも一輪車はその場で回転することも出来ます。一輪車は安定しませんが、ちゃんと制御するとUFOのような変な動きをすることが出来ます。でもこんな話をすると“一輪車の研究をしてどうする”と思うでしょ?」手塚「(笑)」古田「でもここに大きな仕掛けがあります。今ロボットは二足でも四足でも六足でも、二輪でも四輪でも六輪でもそれぞれの形に応じた動かし方を、数式を解いて決めています。オーダーメイド方式です。やっぱり本質をついてどんな形のロボットでも1つの方法で制御したい。一輪が出来れば二輪四輪は簡単なのです、同じ方法で。今ロボットが作りやすい部品を企画して作っています。後はロボットを簡単に誰でも動かせるような本質の技術を研究したいと思っています。また最近は次の世代のロボット研究を目指してくれる人を発掘しようと、啓蒙活動も行っています」 |
5月6日 ゲスト:古田貴之さん |
手塚「古田さんは大の手塚作品のファンで、ロボット博士になろうとしたきっかけが『鉄腕アトム』だったということで、手塚マンガについて伺っていこうと思います」古田「手塚治虫さんの何が偉大かと言うとマンガもそうですけどそれ以上にこれだけ世の中に大きな影響を与えた方はいないと思います。ブラックジャックに憧れて医者になった人も沢山いると思いますし、アトムに憧れてロボット研究者になった方も沢山います。今博士号を持っている35歳以上のロボット研究者、特に50代なんていったらアトム教です。逆に『鉄腕アトム』がなかったら今のロボット産業とか、ロボット研究者もこんなにいなかったと思います。アメリカでロボットと言うと恐いというイメージなのです。ターミネーターとか...」手塚「よく聞きますね、それ」古田「日本ではドラえもんやアトムといった、フレンドリーな存在です。手塚さんは文化を創ったと思います。あるいは文化を創る人を作ったと思います。なかなか出来ることではありません。私は先端と未来の間にあるもので重要視しているのが、技術で何が出来るかということと、世の中に受け入れられるということは違う。それも『鉄腕アトム』の影響かもしれません。技術だけではなくてメッセージ性ですとか、世の中でロボットがどうあるべきかという所まで考えないと、これから先、受け入れら続けないと思います。私から見た手塚作品は、いくつかのテーマを通して人を見ていたんだと思います。研究者は今まで人を見ていない人が多すぎたと思います。技術ばかりを見てきた。結局技術でも最終的に使うのは人ですから、人を見ないといい技術が生まれないし、人に受け入れられる技術は出来ないと思います」
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古田「私が住んでいた所は東京・練馬の富士見台が最寄り駅だったのです」手塚「私の生家と言うか手塚が最初に建てた家が富士見台でしたからね」古田「そうなんです。兄貴と一緒に虫プロをドキドキしながら見に行きました」手塚「虫プロと隣接していた家の時はファンの方が熱心に来て、父にサインをくださいとか...」古田「サイン...、サイン貰っておけばよかった!!」手塚「虫プロに見学に入っていった子も結構いて...」古田「出来たんですか!!
小学校2,3,4年はずっとマンガで、影響を受けたマンガは多いです。『ミクロイドS』と『海のトリトン』は強烈に印象に残っています。自然環境をテーマにしたもので、地球環境を破壊していけないというメッセージが、まだ頭の中に残っています」
手塚「古田さんの今後のご予定をお教えください」古田「『morph』や『ハルキゲニア』は小さいものでした。今は基礎技術の段階から実用化の段階にいっています。東京お台場にあります日本科学未来館に8月、fuRoが研究開発している大きいロボットのコクピットと、それで遠隔操作で動くロボットが出ます。一般の方が動かせます。半ドーム型のディスプレイにロボットが見た映像を映して、操作します。是非いらしてください。また10月末から東京上野の国立博物館でロボットの博覧会があるともいます。それもお手伝いさえて頂きつつ、新しいロボットもこれから出ると思います」
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久米信行さん |
中溪宏一さん |