増えてきた紙ストロー 実はそれだけじゃプラスチックごみ問題は解決しない!?
こうおっしゃる先生が京都大学にいるということで聞きに行ってきました。
「京都大学の研究棟の一室に来てるんですが、すごいですね。あふれ出る理系感。さまざまな実験器具がたくさんあります。普段こういうところに来ないのでドキドキしてきますけども。えっと、田中先生は(どこかな?)…、あっ、どうも今日はよろしくお願いします。お世話になります」(上田剛彦アナウンサー)
「お願いします」(田中周平准教授)
京都大学で地球環境学を教える田中周平(しゅうへい)准教授。大阪湾や琵琶湖などの水環境における生態系の仕組みや、環境汚染を調べる研究者でもあります。
京都大学 地球環境学堂 田中周平 准教授
プラスチックごみの現状は・・・
「我々の日常生活の中で、身の回りのあらゆるものがプラスチックから作られていると思います。その中で今回プラスチック製のストローを紙に変えるという動きが少しあるんですが、それ以外のいろいろなプラスチックが自然環境の中から出ているというのが実際です」(田中准教授)
ストローだけじゃなく、ペットボトルなど、あらゆるプラスチック製品が海に流れ出ていて、その量は年間800万トンに上ると言われています。そこで問題なのは、プラスチックが太陽の光や微生物の影響で砕けて小さくなってしまうこと。
「大きさ5ミリよりも小さな、これらがマイクロプラスチックと言われるものです。こちらは昨年、琵琶湖の表層水の中から採取したものになるんですが…」(田中准教授)
「ちょっと見てもいいですか?(シャーレを手に持ち)確かに、思ってた通りのプラスチック。今、息がかかったら飛んでしまいそうなぐらい薄いですね」(上田アナ)
これが“マイクロプラスチック”と呼ばれる5ミリ以下のプラスチック片。こうなると当然、回収するのは困難です。さらに・・・
環境保全を目的に、世界で“脱プラスチック製ストロー”の動きが起きています
5mmよりも小さいプラスチック片「マイクロプラスチック」
海洋汚染の元凶となる1次的プラスチック
「これらを2次的なプラスチックと言うんですが、最初の製造段階から小さくなってるものを1次的なプラスチックと言いまして、こちらは製造段階から小さくなっているものですので、より注意が必要になってくと思います」(田中准教授)
ストローなど、大きなプラスチックごみが、自然の中で小さくなってしまったもの「2次的マイクロプラスチック」。そして、我々が使う段階からすでに5ミリ以下になっているものが「1次的マイクロプラスチック」。この1次的なものが、海洋汚染の大きな問題となっなっているんです。
「これもプラスチックなんですか?」(上田アナ)
「こちらの大きさがだいたい0.1から0.3ミリのものになりますが、こちらもマイクロプラスチックになります」(田中准教授)
元々、極小に製造される1次的プラスチック(左)というものがあるんです
見えますか?0.1mm~0.3mmのこの小さなごみが海洋汚染の原因になっているんです
本当に恐いのはマイクロプラスチックビーズ
こんな小さなプラスチックいったい何に使われているかというと…
「これ洗顔剤に含まれているものになります」(田中准教授)
「洗顔剤?いわゆるスクラブみたいな。」(上田アナ)
「そうですね、スクラブですね。何気ない知らない日常の中で、いつの間にか、こういったものを使っているということが、分かってきています」(田中准教授)
「マイクロビーズ」って聞いたことありませんか?洗顔料や歯磨き粉に入っているつぶつぶのこと。あれ、以前までマイクロプラスチックで出来ていたんです。
洗顔剤や歯磨き粉に含まれるマイクロプラスチック
海洋汚染への負のスパイラル
「今まで僕たちは顔を洗った時に流してましたよね。そのあとどうなってるんですか?」(上田アナ)
「日本ですと、我々が使った排水っていうのは下水処理場のほうに流れてまして、いろんな適切な処理がされています。0.1ミリまでの大きさのものであると、下水処理場で99.6%程度取れているというような結果が出てまして、ある程度は処理ができているというのが実際なんです」(田中准教授)
「ただ、知らない間に道路の上に廃棄されてしまったようなものが、雨が降った時に流れ出し、そういったものが川を通じて環境中に行きまして、時間がかかって小さくなっていってるということがありますので、下水処理場の効果を得ることが難しいと思います」
「ただ、知らない間に道路の上に廃棄されてしまったようなものが、雨が降った時に流れ出し、そういったものが川を通じて環境中に行きまして、時間がかかって小さくなっていってるということがありますので、下水処理場の効果を得ることが難しいと思います」
これが海に流れるとどんな影響があるのか?プラスチックは、元々、化学物質がくっつきやすい性質なんだそうです。それを魚が食べ、またそれを人間が食べてしまうと、プラスチック自体は排泄されても、化学物質は体内に残る可能性があるんです。こうした悪循環が、生態系にどんな影響を及ぼすのかはまだ研究段階ですが、なんだか良くなさそうですよね。
顔を洗った後、マイクロプラスチックはどうなってしまうんですか?
不法投棄されたプラスチックは下水処理場をすり抜け、直接、海へ流れ出てしまうことがあります
海に流れ出たプラスチックは化学物質が吸着。魚たちを経由して私たちの体内に一緒に取り込まれてしまいます
企業が対策に乗り出した
「こういったものに関しては、2016年に日本の企業の中で自主規制を行い、なるべく使わないようにしようということが進められていまして、排出側も減らしていくということが大事になってくると思います」(田中准教授)
例えば、ロート製薬の洗顔料「オキシー」は、以前「マイクロビーズ」としてポリエチレンを使っていましたが、2016年に自然分解される「シリカ」に変更。また、化粧品にもかつて使われていました。花王のホームページによると“ごく一部の洗い流すプレステージ化粧品、海外で販売している全身洗浄料のごく一部には、マイクロプラスチックビーズに該当する成分を使用していましたが、2016年末までに全て代替素材に切り替えました“と、大手企業では自主規制が広がっています。
企業が積極的に自主規制を始めた
私たち消費者はどうしたらいいの?
「やはり再利用していけるものというのが、ベストだと思います。リサイクルできるものはリサイクルして、特に今回シングルユースですね、一回使うようなプラスチックに関しては、もう少しどういう風に我々が向っていくのか考えていくきっかけになればと思います」(田中准教授)
企業が2016年からこの問題に取り組み自主規制しているのに対して、国(環境省)は、海岸の環境を守るための法律「海岸漂着物処理推進法」の中で、洗顔料、歯磨き粉などに含まれるマイクロプラスチックの使用を抑えるよう企業に“努力義務”を課すと決めました。ただ、法案が決まったのは、今年6月。しかも努力義務です。さらに来年度から、地中の微生物によって分解される、生分解性のプラスチックバイオプラスチック製品を作る、企業や大学に補助金を出すことも決めました。私たち人間の健康に関わってくる問題なのに、ずいぶんとのんびりとした対応に感じます。
私たちの生活環境も見直さなくてはなりません