まずはモリサワが、どんなフォントをつくってきたのかを教えてもらいます。
「こちらに私どもの書体、代表的なものを掲示しております」(モリサワ 広報宣伝課 三木 武 係長)
「これリュウミンって書いてますけど、あっ、明朝体(のことですか)」(上田アナ)
「そうです。うちの代表的な明朝体になりますね。明朝体といってもいろいろありますので、他にも○○明朝というのが何種類かございます」(三木さん)
「これ、はるひ学園?なんかオシャレな女の子が書きそうな(書体ですね)」(上田アナ)
「そうですね」(三木さん)
「隣りにもすごい字がありました。『すずむし』、何ですかコレ?」(上田アナ)
「ポップ系と言われる文字ですけども、ちょっとかわいらし目で、メニューやのぼりに使っていますね」(三木さん)
「おもしろい!数でいうとどれくらいあるんですか?)」(上田アナ)
「たまたまここに掲示しているのはコレだけですけど、私どもで今、扱っている書体は1000以上になります」(三木さん)
「1000!?」
これらのフォントを、例えば出版社や印刷会社、パソコンメーカーなどに販売して利益を上げているわけです。つい先日も、「今年の新作」として、6種類を発売しました。
こちらは、「剣閃(けんせん)」というフォント。
「筆の息づかいがすごくするフォントですよね」(上田アナ)
「そうですね」(三木さん)
モリサワが製作した代表的なフォントを広報宣伝課の三木武係長に案内してもらいました
ポップ系書体(フォント)の「すずむし」
先月、販売された新フォント「剣閃(けんせん)」
映画「天気の子」に貢献!
「いま1000ぐらいフォントがあるとおっしゃったじゃないですか。でも年間こうやっていくつも新しいフォントを出すんですよね。そんなに要るのかなぁ?なんて思っちゃうんですけど」(上田アナ)
「書体によって売り上げが左右されることもあります。それ(商品)を見たときに消費者の方がおいしそうとか、(この本)おもしろそうとか、”食いつき”が違ってきますので」(三木さん)
だからこそ、モノを売るにはより効果的なフォントが常に必要とされ、モリサワはそれに応えてきました。
その高い技術が認められた結果が。「♪愛にできることはまだあるかい・・・」 現在、大ヒット中の映画「天気の子」のタイトルに使われたことだったのです。
「なんていう字体ですか?」(上田アナ)
「A1明朝っていう書体になります」(三木さん)
「A1明朝?」(上田アナ)
明朝体といっても山ほどある中で、「A1明朝」が選ばれた決め手は・・・ココ!
「隅のところがにじんだような形になってるんですよ。にじんでいることでどこか古めかしい感じを漂わせる、というイメージの書体になりますね」(三木さん)
「そうやって映画のタイトルに使われるっていうのはモリサワさんとしてはどう思います?」(上田アナ)
「ありがたいことです。それがA1明朝でって気づく方はおそらく少ないですけども、ただ、こういう文字ってなんとなくいいよねって分かっていただければ」(三木さん)
フォントによって売り上げが左右されることもあります
赤丸で囲んだ部分にご注目を!
2020東京五輪のためだけに
ほかにも、モリサワのフォントは暮らしの至る所にあります。例えば、「大阪駅」など、JR西日本のホームにある 駅名表示。「新ゴ」というフォントです。「羽田空港」では、発着便の案内表示に「UD新ゴ」というフォントが。「ガーナチョコレート」は商品名・・・ではなく、パッケージの裏の説明書きに。頭痛薬としておなじみの「バファリン」も裏面。「使用上の注意」などが書かれている部分ですね。そして、いま流行っているタピオカドリンクの人気店「台湾甜(てん)商店」。この店の名前には「解ミン」というフォントが。こうして見ると、あれもこれもモリサワ。ホントいろんなところで使われているんですね。
たくさんの実績があるおかげで、さらに大きな仕事が舞い込んできました。実は、来年の東京オリンピック・パラリンピックでもモリサワのフォントが使われるというのです。
「公式フォントを私どもが提供させていただいています」(三木さん)
公式フォントというのは?
「例えば印刷物(チケットやパンフレット)とか、会場誘導のサインですね。公式なものとして使うものはその書体を使うことになります」(三木さん)
「え?オリンピック専用フォントができあがるってことですか?」(上田アナ)
「もうできあがって納めています」(三木さん)
「(このためにわざわざ?」(上田アナ)
「この大会のためだけですね。東京2020が終わると、その書体を使う場所はもうないですね」(三木さん)
「え?そうなんですか?」(上田アナ)
具体的にどんなフォントなのかは明かされていませんが・・・モリサワは「東京2020オフィシャルサポーター」。つまり、フォントで大会に貢献するというなんともスゴい会社です。
実にさまざまな分野で実績を拡げています
東京オリンピック・パラリンピックに公式フォントを提供しています
そんなにスゴい会社で、そもそもフォントってどうやって作っているのでしょうか?開発現場におじゃましました。新しい文字を最初に作るデザイナーさんたちの席を覗いてみると・・・
「まさかの、手書き・・・」
今の時代にずいぶんアナログな作業だなと思いますが、特に若手デザイナーにとっては欠かせない仕事だそうで・・・
「美しい線ですとか、文字のバランスの取り方ですとかを自分の手で学ぶんです」(モリサワ デザイン企画課 梅山嘉乃さん)
「じゃあ文字をデザインするのはパソコンでも、最初は鉛筆で書いて、その美しさを学ばないといけないってことですか?」(上田アナ)
「そうですね、感覚を養うといいますか」(梅山さん)
手書きは 今でこそ若手の研修に使う程度ですが、ほんの1~2年前までは、ベテランでも、新しいフォントを作るときにまず手書きしていたそうです。
いきなりびっくりしました
若手フォントデザイナーは美しい線や文字のバランスを“手書き”で学びます
デザイナーが試作した文字は、今度はディレクターと呼ばれる人たちが引き継ぎ、パソコンで形をひたすら調整していきます。
「特に太い書体になると、印刷するときにつぶれる心配が出てきますので空間のバランスを調整しています」(梅山さん)
こうして一文字ずつ、地道な作業を続けていくらしいのですが・・・
「今、ちょっと思ったんですけど、アクという字なんですけどね、『さんずい』と『てへん』が隣り同士じゃないですか。そうしたら『さんずい」と『てへん』だけ作っておいてパッと入れ替えればいいのかなと思ったんですけど?」(上田アナ)
「実はおなじつくり、おなじへんでも組合せによってバランスを調整していまして」(梅山さん)
「え?」(上田アナ)
別の文字で説明します。「組」と「縄」という漢字。どちらも同じ「糸へん」ですが、重ねてみると・・・なんと糸の大きさが違うんです。文字ごとに、最もきれいに見えるバランスが考えられた結果です。
「(作るのが)難しい字ってありますか?」(上田アナ)
「難しい字はやっぱり画数が多い文字がとても難しいです」(梅山さん)
「薔薇とかですか?」(上田アナ)
「そうですね。憂鬱の鬱とか」(梅山さん)
ちなみに、作りにくい字は、ひらがな・カタカナにもあるそうなんです。なんだかわかりますか?正解は「へ」。「へ」という字は、ひらがなも カタカナも ほぼ同じ形ですから使いまわしてもよさそうな気がしますが、微妙な違いを出して作り分けているんです。その分、作業は高難度。
太いフォントは印刷したときつぶれる心配があるので空間を慎重に調整します
同じ“つくり”や“へん”でも組み合わせる字によって大きさなどを変えています
同じ“糸へん”でも・・・
こちらも作りにくい字の一つです
できあがるまでに10年かかることも
「一つのフォントが世の中で私達が使えるようになるまでどれくらいかかるんですか?」(上田アナ)
「短い物ですと2~3年ぐらい。長いとやはり5年。10年ぐらいかかった書体も過去には」(梅山さん)
「今、クラッとしました」(上田アナ)
日本語ってひらがなカタカナだけじゃなくて漢字もあって本当に多いんです。それを一万語を一つ一つ見て一文字ずつつくっていきます。だから2年3年かかるのは当たり前。気が遠くなるくらいたいへんな仕事です。
デザイン企画課 梅山嘉乃さん(右)と上田アナウンサー